子どもを中途半端なバイリンガルにしないためには?

Lifestyle 2021.10.04

From Newsweek Japan

文/船津徹(TLC for Kids代表

アメリカで育つ日本人の子どもは、日本で育つ同年代の子どもに比べて、日本語の発達が遅れることが珍しくありません。「セミリンガル」や「ダブルリミテッド」と呼ばれるこの現象を防ぎ、バイリンガル教育を成功させる秘訣とは?

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photo: iStock

「英語よりも思考の土台である日本語を育てることが先!」
「幼い子どもに英語教育をすると、日本語も英語もあやしくなる!」

英語教育の低年齢化が進む中で、早期英語教育に対する否定的な意見を多く耳にするようになりました。私はアメリカや中国で日本人の子どもの言語教育に携わっていますので、母語である日本語をしっかり育てることの大切さについては100%同意します。しかし「日本国内で」早期英語教育を行なったからといって「日本語の発達が悪くなる」というのは少し乱暴な話です。

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日本で早期英語教育をしても言語発達に問題は起きない。

日常的に日本語しか使わない日本で、週に数時間程度の英語教育を行なっても、子どもの日本語の発達が悪くなるという事態はまず起こりません。

親が普通に日本語で話しかけ、日本語の絵本の読み聞かせを行い、日本語のテレビを見せ、子どもが日本語で友だちと遊んで過ごしていれば、どの子も日本語の会話力をごく自然に身につけます。

日本語がおかしくなる可能性があるとすれば、極端な英語環境に子どもを「長時間」浸すケースです。

たとえば、両親が日本人なのに(片言の)英語だけで話しかけたり、朝から晩まで英語メディアを視聴させてデジタル英語漬けにしたり、英語ネイティブのベビーシッターを雇って一日中英語で話しかけてもらったり、英語オンリーのインターナショナルプリスクールに長時間預けたりすれば、日本語の発達が弱くなる可能性があります。

子どもの言語発達は「環境からインプットされる言語量」によって決まります。言語発達途上の幼い子どもを強い英語環境下に置けば、当然、日本語の発達は遅れ、英語が優位に育っていきます。

これは「海外で暮らす子ども」にとってより深刻な問題です。「完全英語環境」であるアメリカで育つ日本人の子どもは、日本で育つ同年代の子どもに比べて、日本語の発達が遅れることが珍しくありません。

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セミリンガル/ダブルリミテッド問題。

「アメリカで暮らせば、自然とバイリンガルに育つ」、そう思っている方が多いのですが、バイリンガル教育はそんなに簡単ではありません。

英語環境が圧倒的に強いアメリカにおいて、家庭での日本語の働きかけが不足すると、子どもの日本語発音がおかしくなったり、日本語を忘れてしまったり、思考力が十分に発達せず(英語での)学習活動に支障をきたすことがあります。

海外で暮らす日本人の間で「セミリンガル」や「ダブルリミテッド」と呼ばれるこの現象は、言語形成期の子どもが、母語習得の機会が少ないまま強い外国語環境に置かれることによって起こります。

アメリカでのバイリンガル教育を成功させる秘訣は「6歳までに日本語を強固に育てること」です。なぜ6歳かと言うと、アメリカでは6歳から小学校に通うからです。現地校入学までに、日本語を強固に育てることができれば、子どもが現地校で強い英語環境に置かれても、日本語力を失う心配はありません。

家庭で日本語を育てると言っても「教科書を使って日本語を教え込む」わけではありません。お互いの気持ちや意見を「日本語で」伝え合える良好な親子関係を築くことが第一。さらに日本語の本の読み聞かせを行い、日本語の語彙力、思考力、理解力を育てることが大切です。

私はアメリカで日本語発達が弱い子どもをたくさん見てきました。日本語が十分に育たないと、親子のコミュニケーションが英語中心になります。よほど親の英語が流暢でない限り、思いを素直に伝え合うことができず、親子関係がぎくしゃくしてくることが多いのです。

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思考力の土台である日本語を伸ばす方法。

子どもの思考の土台となるのは「親の母語=日本語」です。大切な日本語なのですが、ほぼ単一言語国家である日本で生活していると、その重要性が見落とされがちです。大抵の子どもは自然に日本語を「話せる」ようになりますから、わざわざ家庭で日本語を教える必要はないと思ってしまうのです。

その結果、家庭での読書教育が疎かになり、語彙力、理解力、思考力が十分に発達せず、学校に上がった時に勉強で苦労するというケースが見られます。

子どもの日本語を強固に育て、思考力を伸ばす最高の方法は「読み聞かせ」です。親が絵本を読んであげると、子どもは想像力を働かせて頭の中にイメージを想起します。ストーリーを具現化して、まるで映画を見ているかのようにイメージの世界を楽しめるようになるのです。このイメージ化の訓練が足りないと本を読んでも理解が十分に伴わず、本の世界を楽しめないわけです。

現代社会は子どもの周囲に「映像メディア」が氾濫しています。本の世界を経験するよりも前に、テレビや動画などの映像メディアの楽しさ魅了されてしまうと、自分の頭の中で想像力を働かせること(思考すること)が「面倒くさい!」と思うようになります。

子どもから映像メディアを完全に排除することは難しいですから、映像に負けないように、絵本の読み聞かせを行ってください。本や物語が好きな子どもに育てば、日本語教育はほぼ成功です。子どもは本を通して、語彙を増やし、知識を増やし、理解力を深め、思考力を高めていけるようになります。
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ふたつの言語を同時に与えても混乱しない。

さて話を早期英語教育に戻しましょう。「幼い子どもに日本語と英語を同時に与えると混乱するのでは?」と心配する方がいます。結論から言えば、日本語と英語を同時に教えても何ら問題はありません。

たとえば、母親が日本人、父親がアメリカ人という国際結婚家庭でしたら、母親は日本語オンリー、父親は英語オンリーで話しかけ、両親がそれぞれの言語で絵本の読み聞かせをすれば、子どもは高度なバイリンガルに育ちます。

バイリンガルの人は、頭の中に日本語と英語、二つのコップを持っていると想像してください。二つのコップは独立していますから、ふたつの言語を同時にインプットしても言葉が混ざることはないのです。

ふたつのコップを効率良く満たすには、それぞれの言葉で大量インプットを行えば良いのです。ポイントは英語を教える時は英語オンリーで、日本語を教える時は日本語オンリーで、「言語を区別してインプットする」ことです。

いけないのが「これはappleよ」と日本語と英語を混ぜて教えたり、「This is an apple、これはりんごよ」と英語を日本語に翻訳して教えることです。まれに日本語と英語をミックスして話す子どもがいますが、それは混乱しているのでなく、ひとつのコップに日本語と英語が混ざっているからです。どの言葉が日本語で、どの言葉が英語なのか、その区別ができていないのです。

日本語と英語をネイティブレベルで扱うことができる高度なバイリンガルの人は、言葉を混ぜたり、頭の中で翻訳することはありません。日本語を話す時は日本語の思考回路、英語を話す時は英語の思考回路というように、話す相手に応じて自在に言葉のコップを切り替えることができるのです。

子どもの英語教育を成功させる秘訣は、日本語の読み聞かせで「母語の土台を作る」こと。そして「英語は英語オンリーで教える」こと。この二つを実践すれば、日本語の発達を阻害することなく、英語も得意な子どもに育てることができます。

船津徹

TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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text: Toru Funatsu

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