18歳の顔と体型を取り戻すため3億円以上を費やした、47歳の億万長者。彼が追求するものは?
Lifestyle 2025.02.21

科学への献身、アイデンティティの追求、純粋な自己中心主義、貪欲さ......これらすべてを一度に手に入れたのだろうか? 「ブループリント」の創設者は、永遠の若さの探求に身を投じている。
彼は、18歳の頃の顔と体型を取り戻すために200万ユーロ以上を費やした。47歳のアメリカ人億万長者、ブライアン・ジョンソン氏は、老化を逆転させて、ベンジャミン・バトン効果にあやかることを夢見ている。独自のアンチエイジングプログラム「ブループリント」を開発してから2年が経ったが、この実業家はすでに5歳若返って見え、37歳の心臓を取り戻したと報じられている。これは1月1日からNetflixで放送されている彼のドキュメンタリー番組「Don't die」の中で彼が主張していることだ。
「実験用ラット」
自らを「実験用ラット」と考えるこの人物は、自己責任であらゆる"若返り"の治療法を試している。1日に100以上のルーティンを自分自身に強いているというが、光療法、電気刺激、バイオフィードバック、赤色光療法、LEDヘアトリートメント、毎日1時間のウェイトトレーニング、厳格な食事制限、さらには何百種類ものサプリメントの摂取など、数えればきりがない。あらゆる角度からSNSにアップし続けるアスリートのような体型は、彼の肉体的、精神的な変容を物語っている。「私は科学の限界にできるだけ近づこうとしている。何が可能かを示したいのです」と、ブレーンツリーの創設者は「Don't die」の中で訴えている。
科学ではなく、注目を集めるための試み⁉
とはいえ、科学者たちは彼の利他主義に疑念を抱いている。「自分自身に対して行うこのような個人的な実験には興味を覚えます。しかし、医学界や規制当局に受け入れられることはないでしょう。本当の臨床試験が必要なのです」と、ワシントン大学の病理学教授であるマット・カベレイン博士は報告書の中で残念そうに述べている。
科学者で作家のアンドリュー・スティール博士も同意見だ。「彼は何百種類もの治療を受けているので、もし効果があったとしてもどれが効果的なのかを特定するのは非常に難しい。私たちがすべきことは、ひとりではなく数千人を対象にした臨床試験でしょう。同じ治療を同じ投与量で受けさせるのです」と、彼は番組の中で説明している。
ちなみに彼はブレーンツリーの関係者にこのアイデアを提案したが、うまくいかなかったと嘆く。「ブライアンはツイッター(編集者注:現在はソーシャルネットワーク「X」)で私をブロックしました。メトホルミンが老化に効くかどうかを調べる臨床試験、つまりテーム研究に、彼の何億ドルもの資金を使うよう私が提案したからです。ブライアンはメトホルミンを服用しているので、この治療が有効であると証明されれば、彼と長寿の専門家にとって、この研究に資金を提供することは非常に有益になります。しかし私がお金の使い方に口を出すのを彼は嫌がったのです」
ラパマイシン(臓器移植前の拒絶反応を抑えるために使われる免疫抑制剤)の服用も、ブライアン・ジョンソンが長生きするためのテストのひとつだ。「ラパマイシンのような治療薬の一部はマウスでは効果がありますが、人間に効くかどうかはわかりません。科学的な結論を出すには適切な実験をする必要がありますが、ブライアンのプロジェクトは科学的ではありません」と、ハーバード大学医学部教授のヴァディム・グラディシェフ博士は言う。「ブライアンのプロジェクトは私たちの分野に光を当てるもので、ポジティブな行為かもしれませんが、科学にはほとんど貢献していません。それは科学ではなく、注目を集めるための探求です」
メンタルヘルス問題の解決策としての若返り作戦
彼の抜け目のないビジネスのやり口に、疑問を抱く人も一定数いる。「ブループリント」のウェブサイトで販売されている派生商品(オリーブオイルのボトル1本が42ユーロなど)や、アマゾンのアフィリエイトリンク(購入ごとに収入が得られる)でいっぱいの彼のブログの記事を見ると、彼が科学的大義に対し献身しているかどうか疑問に思う人もいるだろう。「これは営利目的のプロジェクトです。彼は非常に裕福で才能あるビジネスマンなので、必然的にそのような観点から物事を見ているのです」と、アンドリュー・スティール博士は指摘している。
しかし、ブライアン・ジョンソン本人に会い、若返りプロジェクトの開始当初から彼を調査してきたアメリカ人ジャーナリストのアシュリー・バンスは、この億万長者はビジネスのためだけに動いているのではないと断言する。「私は彼を何年も追いかけてきましたが、確立された戦略の一部ではなかったと断言できます。彼は『ブループリント』を機能させるのに2年かけましたが、それは非常に個人的な探求でした。彼はメンタルヘルスの問題に対処するために、非人道的なライフスタイルに転向したのです」と彼はドキュメンタリーの中で証言している。
実際、ブライアン・ジョンソンは「ブループリント」に専念してモルモットになる前は、全く異なるライフスタイルを送っていた。少なくとも現在のような体型ではなかった。数年前の彼はいまより体重が25キロ多く、多忙な仕事と個人的な問題によって鬱状態に陥っていた。昨年放送された英国のスティーブン・バートレットによるポッドキャスト『The Diary of a CEO(あるCEOの日記)』のエピソードで、ジョンソンは感情的にこう打ち明けたのだった。「起業してからこの20年間で、私は鬱病を患い、宗教で改善しようとした夫婦関係も破綻した。私は20年間で、ある意味、自分の身体と心を壊してしまった」「自分が引き起こした損害を見るのは辛い」
自らを「ヘルスケアのイエス」と例える
彼がライフスタイルを根本的に変え始めたのは、ブレーンツリー社を8億ドルで売却し、離婚を成立させ、モルモン教と決別した後だった。「34歳の時、数十年というタームで、何か意味のあることをやってみようと思った」と、彼は自身のYouTubeチャンネルで語っている。
アシュリー・バンスの説を信じるなら、この実存的危機こそが彼の驚くべき変容の本当の出発点なのかもしれない。「彼は教会を去った後、別の宗教が必要だったと言えるでしょう。それゆえにナルシシズムが爆発して、健康にまつわる独自の宗教を作り出したのです」とジャーナリストは続ける。「彼は脚光を浴び、人々が彼のすることに興味を持つと、彼は喜んでいますが、それは彼のプロジェクトの信用を傷つけるものではありません。なぜなら彼は活動のプロセスを明確にしているからです」。彼によると、ブライアン・ジョンソンは自分が創り出した運動が成功すると、自分自身を救世主的なリーダーと考える傾向さえあるという。「彼はユーモアを交えながら、少し誇らしげに自分を『ヘルスケアのイエス』と例えています。彼は自分のプロジェクトにカルト的な要素を加えています。そして、彼の信奉者はますます増えているのです」
「地球規模で人類をより良くする」
ブライアン・ジョンソン自身の言葉によれば、彼は少年時代から救世主としての役割を担ってきたという。英国のスティーブン・バートレットによるポッドキャスト「The Diary of a CEO」のエピソードで、彼は自身の使命が「人類が生き残り、繁栄する」のを導くことだと主張している。この願望は彼が19歳の時に若い宣教師としてエクアドルを旅したときの経験から生まれたものだった。「極度の貧困の中で、泥の小屋に住み、どうやって日々の生活をやりくりしていけばいいのかわからない人たちと一緒に暮らしていた」と彼は回想している。
米国に戻った時、自分が「ほかの現実の状況を知らずに、ずっとバブルの中で生きてきた」ことに気づき、自分の存在に意味を求めたという。「私が認識できたのは、自分の中に灯った火だった。地球規模で人類をより良くするために、生涯を捧げたいと思わせてくれた」と彼は振り返る。その後は歴史が語るとおりだ。数億ドルが彼の運命を叶える助けとなった。「25世紀に意味があることで、いまからできることは何だろうと自問したんだ。私は何世紀という時間軸で物事を考えるので、明日のニュースの話題にはならないようなことをするのに慣れている」
「死を遅らせようと努力している」
Netflixのドキュメンタリーの中で、この起業家は最後に、不死を追い求める非常に個人的な理由について言及した。「人々は私が死を恐れていると思っている。でも、そうじゃない。ただ、人生が好きなんだ。それも、(息子の)タルメージと一緒に生きるのが好きなんだ」と、3人いる子どもの中で唯一言葉を交わす長男(18歳)のことを口にした。彼は、父から息子への血漿輸血など、物議を醸した実験にすでに長男を参加させ始めており、いつか彼にバトンを渡したいと考えている。
「死を遅らせようと本当に努力している。タルメージとできるだけ多くの時間を過ごすためにね。とても深刻な問題なんだ。タルメージと人生をともにし、人生のあらゆるステージで彼に付き添いたい。100年では足りないね」と彼は嘆く。そして彼の意図の純粋さを疑う人々に対しては、こう言い返している。「本当に死にたかったんだ。けれどいまは自分の人生を精一杯生きたいという状況にある。だから、生き続けたい。自分を正当化する必要はないけれどね」。そして彼はこう締めくくった。「自分は人類にとって災難かもしれない。でもね、私は最善を尽くしているんだ」
From madameFIGARO.fr
text: Victoria Hidoussi (madame.lefigaro.fr) translation: Eri Arimoto