恋の悩み、数式で解決できる?学者が語る"愛と数学"の意外な関係。
Lifestyle 2025.04.15
感情はアルゴリズムから逃れられない――。
では、カップルの"破局リスク"を数式で予測することは可能なのだろうか?
「恋に数式を持ち込むなんて、おかしな話でしょう?けれど、カップルの関係には、たしかに数学が働いている部分もあるのです」と、モーゲネスト氏とガルシア氏は、共著『Mathématiques de l'amour(愛の数学)』の冒頭で書いている。ピタゴラスやフィボナッチ、スタンダールやクレオパトラの逸話まで引用し、恋愛と科学の"接点"を探る彼らの視線はユニークだ。
カフェで誰かに話しかけるタイミング、出会い系アプリの最適化、運命の人に出会う確率を高める方法まで。恋愛の"方程式"を読み解こうとするふたりに話を聞いた。
マダム・フィガロ(以下M):なぜ数学と愛の関連性について研究するのですか?
ティエリー・モーゲネスト(以下T)とアントワーヌ・ウルー=ガルシア(以下A): いまはAIやアルゴリズム、統計といった数理的アプローチがあらゆる場面に浸透する時代。恋愛も例外ではありません。
2025年現在、運命の出会いはもはやダンスパーティーではなく、アルゴリズムで動くマッチングアプリが主流です。私たちは日々の行動を通じて、関係の持続性や相性を統計的に"計算される"世界に生きているのです。
Facebookを例に取りましょう。たとえプロフィールに恋人の情報を載せていなくても、メッセージのやり取りから「誰と関係があるか」を、0.01%未満の誤差で推測できるのです。さらに驚くべきことに、カップルがどれほど長続きするかも予測できます。計算はシンプルで、パートナーとその友人たちの交流状況を見るだけで、関係の"寿命"が見えてくる。共通の友人が多いカップルは安定しやすく、そうでない場合は関係が揺らぎやすい傾向があります。
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M:カップルの未来を数字で語るなんて、愛が非人間的に思えますが......。
TとA:もちろん、どんなに統計が進んでも「愛」は人間らしさの象徴です。予測はあくまでヒントに過ぎません。すべてが数式で解決できるわけではないからこそ、私たちは恋に落ちるのです。
M:愛の話に経済学的な視点が入り込んでいるとおっしゃっていますね。
TとA:19世紀、数学は物理や経済といった分野に浸透し、人間の行動さえもモデル化できると考えられるようになりました。
これによって、ピエール・シモン・ド・ラプラスが数学者として物理学を確立し、アントワーヌ・オーギュスティン・クールノ、そしてレオン・ワルラスが経済学を哲学から切り離して数学的な形式化に持ち込みました。経済をこのように捉えることで、少なくとも表面的には、ほとんどの人間の行動を説明できるようになります。このように、ジェレミー・ベンサムやジョン・スチュアート・ミルから受け継いだ功利主義の教義(それ自体は快楽を、その効用または満足度指数に従って分類する定量化に基づく)に裏打ちされた経済学的手法が、カップルと愛についての私たちの考え方に導入されました。
今日、問われているのは、「カップルになることで何を得られるのか」という視点です。関係が長続きするには、「メリット」が「デメリット」を上回っている必要がある。そう考えると、愛の非合理性すら、計算の一部に組み込まれているとも言えます。
M:でも、恋愛って理屈じゃないとも言いますよね?
TとA:太古の昔から、愛は医学から心理学まで、あらゆる科学と結び付いて理解され、説明されてきました。それ自体は問題ではありません。
一方、感情を前にして数学を単純に呼び起こすと、常に同じ感情や不快感が呼び起こされます。ただし、数学と恋愛には意外な共通点があるのも事実です。たとえば「カップル」「半分」「収束」「逆数」など、恋愛の語彙は数学と重なっています。 愛の"代数学"や"幾何学"には、古代からの深いつながりがあるのです。
プラトンの『饗宴』にも、愛を語る中に多くの数学用語が登場します。大切なのは、"適量"で使うこと。心理学と同様、数学は感情を整理し、見えないものを可視化する手助けになるのです。
M:実際、数学が役立つ恋愛の場面ってありますか?
TとA:休暇を例に挙げてみましょう。これはカップルにとってはデリケートな問題です。なぜなら、常に同じ計画や同じ日程を共有しているわけではないからです。
そして、数学のゲーム理論では「チキンレース」と呼ばれるものが始まります。つまり、ふたりのラリードライバーが、同時に2台の車が通れないほどの狭い橋に向かって全速力で走るようなものです。
それぞれが進路を維持しようとし、相手(弱気な方)が折れることを期待します。しかし、どちらもブレーキをかけなければ、衝突は確実です。休暇の場合、それぞれが相手を説得しようとします。もしどちらも譲らなかった場合、休暇はキャンセルとなり、すべてを失います。片方が折れれば、休暇には行けますが、我慢した方は希望した場所には行けません。
どちらかが折れれば旅行は実現しますが、不満が残る。双方譲らなければ、旅行自体が中止に。だからこそ、「両者が納得できるプラン」という新たな"最適解"が必要なのです。
M:感情って、本当にモデル化できるのでしょうか?
TとA:もちろんです。統計学では「限界点」という概念があります。つまり、どのような曲線でどのような推移であっても、常に限界点があるということです。恋愛でも、魅力が高まりすぎると逆に近寄りがたくなる──これは"誘惑の限界"です。
たとえば、魅力的であればあるほど、その人の成功曲線は上昇します。しかし、あまりにも魅力的になりすぎると、パーティーで誰も近寄ろうとしないスーパーモデルや俳優、女優のように、その魅力は衰え始めます。時に人間は、高度な確率計算を直感で行っている。こうした気づきも、恋愛をより面白くします。
M:最後に、「ひと目惚れ」も数学で説明できるのでしょうか?
TとA:ひと目惚れの場合、数学と同じように、私たちは常に正と負のふたつの無限大の間にいます。神経科学によれば、人が恋に落ちるのに必要な時間はわずか13秒。
「すべての喜びは、永遠を求める」──そう語ったのは哲学者ニーチェ。永遠を夢見るには、13秒はあまりにも短すぎるかもしれません。それでも私たちは、ふとした瞬間に恋に落ちる。
その"なぜ?"を知りたくなるのが、人間という生き物なのです。
From madameFIGARO.fr
text: Clémence Pouget (madame.lefigaro.fr) translation: Eri Arimoto