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Lifestyle 2021.10.03
子どもは非理性的存在。だから8歳までは癇癪を起こしても親は知らんぷりするしかない?アメリカ人科学ジャーナリストのマイケリーン・ダクレフは、世界中を駆け巡った末、イヌイットの親たち、マヤやタンザニアの先住民族の子育て法を明かした著書『狩猟民、採集民、親』(原題『Hunt, Gather, Parent』Mickaeleen Doucleff 著 Avid Reader Press刊)を執筆。 この本が、アメリカで大きな評判を呼んでいる。
わがまま、なかなか寝ない、言うことを聞かない…。子育てで手こずると、通常は自分の両親や親しい友人たちに話を聞いてもらおうと考えるもの。アメリカ人科学ジャーナリストのマイケリーン・ダクレフはさらに推論を推し進めた。癇癪持ちの3歳の娘を持つ母親であるダクレフは、メキシコ、アラスカ、タンザニアの先住民族の(特に)母親や父親に助けを求めて世界の隅々まで足を運んだ。
おしおきや過剰な褒め言葉はもうおしまい。この旅を経て、彼女はこれまで図書館の育児本コーナーや小児科医の診察室で学んだことをすべて白紙に戻すことになった。先住民コミュニティと接触する中で、親の我慢も『ペッパピッグ』も木のおもちゃもいらない、シンプルでポジティブな育児の原則を発見したのだ。そんな彼女の見聞を1冊の本にまとめたのが、役立つ知識満載の育児バイブル『狩猟民、採集民、親』(原題『Hunt, Gather, Parent』)。『ニューヨーク・タイムズ』の書評をはじめ、アメリカで高い評価を得る同書が、フランスでも8月24日に書店に並んだ(1)。 ---fadeinpager--- ――「上手くやろうと思って取り組んだことで、こんなに上手くいかなかったことはこれまでなかった」。あなたの母親としての自己分析は多くの親たちの反響を呼んでいます。親たちはみな途方に暮れています。なぜ私たちはこのような状況に陥ったのでしょうか?
子育てに関して、本当の意味での教師はいなくなってしまいました。20万年以上もの間、私たちの祖先には、祖父母や伯父伯母、隣人、乳母、友人といった教師がついていました。多くの場合、年配の人たちで構成されるこうした集団が若い親たちの指南役となって、子どもと上手にコミュニケーションを取るにはどうしたらいいか、どう子どもの面倒を見たらいいか、親切で優しい子どもに育てるにはどうしたらいいかなどを教えてくれたのです。核家族が誕生して、こうした伝統的な教えを知る機会がなくなりました。西洋の文化は、自分ひとりで困難を切り抜ける方法を見つけられるはずだと私たちに説いてきたのですが、それは不可能。だから私たちはこれほど無力感を覚えているのです。親になることはひとつの能力です。他者の観察や経験を通して、時間をかけて学ぶこと。私の本がきっかけとなって、親たちがこうした先祖代々の教えを再び取り入れてくれればうれしいです。
――親としての役割を担うことは、昔に比べて難しくなっているのでしょうか?
そうです。いまは親も子どもも、とても複雑な状況を生きています。電話やテレビを通して子どもたちは常にスクリーンに晒されており、それが教育における大きな困難のひとつになっています。また長時間一カ所に閉じ込められていることも、子どもたちの成育によくないと思います。子どもは1日平均7時間学校でおとなしく座っていてほしいと私たちは考えますが、子どもたちにとっては本当に大変なことなのです。こうしたことはすべて彼らに備わった自然な本能に反しているからです。
――ユカタン半島のマヤ族の村で、家の仕事を手伝い、ときには大人の監視もなしに、自分の頭で考えて行動する子どもたちを見た時の驚きについて語っています。なぜ彼らは何でもできるのでしょうか?日々忙しく雑事に追われている私たちは一体何が間違っているのでしょうか?
小さな子どもが家事に関心を示した時に、西洋の一般的な親は、子どもを遠ざけて、あっちで遊びなさいと言います。子どもが少し大きくなると、今度は親が手伝うようにと言いますが、子どもの方はすでにやる気を失っています。こうしたすれ違いを避けるために、世界中の多くの先住民族共同体と同様、マヤ族のコミュニティでは、子どもが幼いうちから、やらせてほしいと自分から言った時は必ずそれを聞き入れて、子どもの気持ちを尊重します。たとえば洗濯をしている時に、小さな子どもが洗濯物をあちこちに放り投げて遊んでいたとすると、親はこう言葉をかけます。「こっちに来て手伝ってちょうだい。どうやるか見せてあげる。服は床にばらまかないで、かごに入れるの」と。年齢制限はありません。忍耐が必要なのは最初だけで、その後は子どもにその都度やり方を教えていけば、6~8歳頃には、上手に手伝いができるようになり、家庭の強力な助けになってくれます。洗濯だけでなく、料理をしたり、弟や妹の面倒を見たり、庭の手入れだってできます。最初から自然に子どもたちを家事に関わらせることが、子どもたちのやる気を削ぐのではなく、モチベーションを高めるのです。
――つまり西欧の子どもたちは過度に子ども扱いされ、過保護にされているのでしょうか?
そうだと思います。私たちは子どもたちの身体的、情緒的能力を過小評価しています。子どもは小さなリスクを冒しながら、学び、成長し、そうしてときに才能を開花させるのです。誤解しないでほしいのですが、公園に初めて行った日にさっそく木のてっぺんまで登ろうとする子どもを止めてはいけないと言っているわけではありません。ただ、親は距離を取って、自分の周囲の環境を探索している子どもを落ち着いて見守ればいいのです。際限なく命令するのはやめること。それが私の究極のアドバイスです。子どもが15分間にどれだけの数の指示を与えられているか、自分で数えてみればすぐわかります。私が訪れた共同体では、親が子どもに対して言葉で与える指示は、1時間に2つか3つです。親は子どもたちの間近にいて、決して目を離しませんが、子どもたちが限界ラインに近づくか、超えるまでは介入しません。介入するときも実に穏やかです。そこから、子どもたちは徐々に自主性を身につけ、自分で自分の行動をコントロールしている感覚を持つことができるようになるのです。 ---fadeinpager---
――本の中で、子どもに買い与えたおもちゃを手放すよう親たちに勧めています。これは少々過激なメソッドではないですか?
子どもがおもちゃをほとんど持っていないのなら、やり過ぎでしょう。しかしたいていの場合はそうではありません。多くの家庭では、ぬいぐるみを卒業するとすぐに代わりのおもちゃを買います。じきにまた別のおもちゃを買う。それがずっと続きます。おもちゃを買い与えることは私たちの愛情表現のひとつだからです。ですが実際には、おもちゃには隠れた欠点もたくさんあるのです。おもちゃは家の中が散らかる原因であり、兄弟喧嘩の種です。しかも最後は箱に入れたまま放ったらかし。おもちゃは必要ありません。逆に、鉛筆、マーカー、紙は必要なものです。アラスカのイヌイットの女性のアドバイスに従って、我が家では95%のおもちゃを処分しました。娘は残った5%のおもちゃをとても大切にするようになりました。なぜなら、もうほかに選択肢がないからです。自分のおもちゃをほかの子どもたちに寄付したことも、彼女にとって寛大さについて学ぶ機会になりました。西洋では所有することを重視します。おもちゃを他者にあげることで、おもちゃはモノに過ぎない、人間同士の関係ほど重要ではないということを子どもたちに気づかせるのです。
――子どもたちはフラストレーションを制御できず、時には暴力的な怒りの発作を起こすことがあります。あなた自身も娘のロジーを育てながら、そうした経験をされています。あなたが出会った共同体の人々は彼女の行動をどのように捉えていましたか?
彼らは私の娘のことをまったく気にしませんでした。ロジーが癇癪を起こしても、彼らは顔色ひとつ変えず、平然としていました。北極の親たちは子どものことを、自分の感情をコントロールできない、非理性的で非論理的な存在と考えています。ですから、子どもの行儀が悪かったり、騒いだり、意地悪をしてもしかたがないと彼らは思っていますが、そのことを個人的に受け止めたりはしません。私たち西洋の親はまさに正反対で、こうした行動で子どもは大人を操作しようとしているとか、私たちを追い詰めて、我慢の限界を試しているのだと考える傾向があります。実際のところ、子どもは冷静になってきちんと振る舞うにはどうしたらいいかがわからないだけなのです。多くの文化で、怒りは未熟さの表れと考えられています。こちらも大声を出して子どもをよけいに混乱させるより、落ち着いてやりとりし、接するほうが多くの成果が得られるでしょう。
――あなたの娘がそうだったように、子どもが親に向かって大声を出したり、叫んだり、引っ掻いたりしたときに、冷静さを失わずにいるのは難しいと思います。広い心で受け止めることは、どんな時でも可能ですか?
ええ、どんな時でも。私自身はそのことを理解するのに少し時間がかかりました。まず、娘がわざと私や父親を傷つけようとしていると考えるのをやめました。また、私が怒るとさらに彼女の怒りに拍車をかけてしまうことにも気づきました。ですから娘がイライラし始めたら、私はできるだけ何も言わないように努めます。娘に背中を向けて、”あなたは石よ。何も言ってはだめ”と自分に何度も言い聞かせることもあります。難しいですが、この悪循環を断つことができると、子どもに対して、共感や優しさ、感心など、怒りとは別の感情が湧いてきます。いまは自分の中で怒りが大きくなる兆候を感じたらすぐ、爆発しないように言葉にしています。「イライラしてきたわ。そろそろやめてくれないかな?」というような言い方で気持ちを伝えます。
――タンザニアのいつくかの部族で行われているような共同生活は、疲れ切った親たちにとってとても貴重なものだと思います。あなたは西洋の家族に“アロペアレンティング”を勧めています。これはどういったものですか?
北極で、ある女性に「ロジーはあなたと一緒にいることに疲れている。だから彼女はいつも機嫌が悪い」と言われました。本当にその通りです。子どもたちはさまざまな人と協力しながら成長することで、より一層能力を発揮するのです。先生、ベビーシッター、近所の人、友だち……。こうした人々は一時的にサポートをしてくれるだけではありません。彼らを積極的に家族の輪の中に迎え入れれば、彼らは子どもの人生においてとても重要な役割を果たす存在になります。パンデミックが続くなか、支援してくれる人がいるという安心感を与えてくれる“アロペアレンティング”(編集部注:親以外のたくさんの人が子育てに関わる共同養育)はあらゆる家族にとってますます必要になると思います。
(1)Michaeleen Doucleff著(序文:Isabelle Filliozat)『Chasseur, cueilleur, parent』Leduc出版刊
text: Tiphaine Sonne(madamefigaro.fr)
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