いまの子どもたち、忙しすぎるのは親のせい?
Lifestyle 2021.10.06
退屈はネガティブなものとして捉えられがちだ。しかし子どもの成長のために退屈は有益であり、さらに言えば必須でさえあるそうだ。フランスの教育精神科医のクレール・ルコント名誉教授に話を聞いた。
観察力が鋭くなり、教室での注意力も向上…子どもにとって、退屈感はメリットが多い。photo: Getty Images
スケートのレッスン、そり滑り、森の中のお散歩…フランスでは長い休みも後半になると子どもにさせるアクティビティのアイディアが尽きてくる。でも実はそれは良いことなのだ。これを機会に退屈させてみよう、退屈は成長にとって有益な “活動”なのだから。教育精神科医のクレール・ルコント名誉教授はそう言う。
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――学期中は毎日が多忙。休暇となれば分刻みのスケジュール……いまの子どもたちは忙しすぎるのでしょうか?
我々が生きている現代社会では「人生がうまくいっている」ことを証明するため、常に忙しくしていなければなりません。「無駄に過ごす時間」は許されません。そして無意識的であろうと、この考えを子どもに植え付けています。退屈させてしまうことを恐れ、多くのアクティビティに参加させ、常に忙しくさせています。ベビーシッター代わりに、テレビやスマホの画面の前に座らせることも含めてです。スクリーンが子どもを静かにさせる手段だったりもします。
このような状況を私は毎日、目にしています。ある幼稚園を訪問した際、自分の部屋にテレビがあるか子どもに聞いてみました。するとクラスの3/4が手を上げました、5歳になったばかりの子どもたちですよ! もちろん、それは親のせいだけではありません。幼稚園に入るとアクティビティが山盛りで、石蹴りをしたり、ぼーっとしたりなど単純な「遊び」をする習慣がなくなっています。
――退屈は成長には必須だとおっしゃっていますが、それはどういうことですか?
子どもは、最初は模倣しながら自分を構築しています。見ている動作を真似し、耳にした言葉を繰り返し、感じ取った態度を再現します。そして徐々に外の環境に注意が向いていきながら脳が発達していきます。ですから周囲にある世界を観察する時間を決して子どもから奪ってはなりません。観察すること自体が内面的な活動の現れです。そして何よりも、自分からさまざまなことに興味を抱くことが非常に重要です。自分が置かれている環境や周りにいる人に注意を向ければ向けるほど、それらを尊重できるようになります。
――何歳くらいから子どもに何もさせないのがいいのでしょう?どのように実践したらよいのですか?
赤ちゃんの時からです。早く慣れることに越したことはありません。独りでいることに慣れている子は、退屈しないよう自分で工夫することを覚えます。それは本人にとっても、親にとっても良いことです。もし退屈な時間を持て余しているなら、その子と話し合ってみましょう。たとえば習い事を見直し、その子がいやいや通っているものがあれば、やめるのもいいですね。次に、子どもと外の世界を観察する時間を設けてみましょう。庭や花などを見て、それらについて話し合う。すると徐々に子どもは自分から探り始めます。子どもは退屈しないという事実を忘れてはなりません。退屈してしまうのではないかと親が恐れているだけです。子どもが「退屈だ」と言ってくるのは、親がテレビやゲームなどによって、この“空白”を埋めてくれると知っているからです。この時間は本人だけのための時間であり、考えたり夢想にふけったりもできるのだと理解すれば、文句は言わなくなるでしょう。
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子どもは退屈していない?退屈する子どもを恐れているのは親。
――具体的に、子どもにとって退屈はどのような利点があるのでしょう?
一般的に退屈は、けん怠や無気力と結び付けられてしまい、ネガティブな感情と捉えられることが多すぎます。何もしないというのは、れっきとしたひとつの行動なのに! 自分だけの時間を過ごすのはとても重要なことで、それは子どもにとっても同様です。自分の想像力を働かせる絶好の機会です。そうでないと空虚な時間になってしまいますからね。
このような時間を設けることによって観察力が磨かれます。周りの人が見えていないものに気付くようになり、成長するにつれて感覚が豊かになっていきます。注意力が研ぎ澄まされるので、早くはなくても、丁寧に物事を進められるようになります。そして、子どもには足を止めて息をつく時間も必要です。最近は疲れてイライラしている子どもが増えているように感じます。落ち着きがないのは日常の中で常に刺激が過剰であるからだと思います。
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――常に刺激を与えられているとどうなるのでしょう?
子どもは自分でやりたいことを見つけられず、大人になっても自分の時間の使い方が分からないままになってしまいます。決断力がなく、常に周りに人がいないとダメで、独りでいることを辛く感じてしまう。さらに、自分で考えることや、考えるための時間を取ることを学んでいなければ、自分は何をするのが本当に好きなのかと自らに問うこともしません。次から次へとさまざまなアクティビティをさせられた子は、ひとつひとつに集中してじっくり取り組むことを難しく感じてしまうでしょう。それまで自分が何をしたいのか考えることがなかったら、なおさらです。
text: Mooréa Lahalle(madame.lefigaro.fr)