男女の違いは「生まれ」か「育ち」か、専門家の結論は?

Lifestyle 2021.12.23

From Newsweek Japan

文/井口景子(ジャーナリスト)

好きな遊びや行動パターン、男女の違いは生まれつき? 男らしさ、女らしさの過度な押し付けは有害になることもある。

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お人形遊びが好きな男の子、車に夢中な女の子――典型的な男女の規範とは逆の方向に後押ししてあげるのもいい。写真左から: TATYANA VYC-SHUTTERSTOCK, OKSANA SHUFRYCH-SHUTTERSTOCK

玩具売り場といえば、人形やままごとセットが並ぶ女の子向けコーナーと、怪獣のフィギュアやラジコンカーが並ぶ男の子向けコーナーに区分けされているもの──そんな常識が変わりつつある。

米小売り大手のターゲット社は男女別だった陳列棚を統合し、玩具専門店トイザらスは多くの国で商品に付ける性別表記を廃止。バービー人形で知られる米マテル社が発売した「ジェンダーフリー」の人形シリーズも人気を博している。

こうした変化は最近のパパママ世代の意識の変化を反映している。

多様性やLGBTの権利を重んじる教育を受けて育った世代が親になるにつれ、伝統的な男らしさ、女らしさを押し付けないジェンダー・ニュートラルな子育てをしたいという考え方が欧米を中心に急速に広がっている。

一方で、いざ親になってみると困惑の声も上がる。わが子をジェンダーの型にはめないよう細心の注意を払っているのに、2歳の娘はぬいぐるみと絵本が大好きで、4歳の息子は電車と戦いごっこに夢中。

やっぱり女の子と男の子には生まれつき、異なるOSがインストールされているのだろうか。

男女の違いが「生まれ」か「育ち」かという疑問は長年の論争の的だが、脳科学や心理学の専門家がたどり着いた結論は多くの親の直感とは異なるかもしれない。
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確かに、男女間には生物学的な差異が存在する。たとえば右脳と左脳をつなぐ脳梁(のうりょう)は女性のほうが大きく、幼児期の脳の発達の仕方や速度にも差がある。

だが、そうした違いが男女の能力や行動の違いに直結することを示す証拠は見つかっておらず、性別による違いより個人間の差異のほうがずっと大きいという見方が圧倒的に優勢だ。

それでもなお幼い男の子が冒険好きで、女の子にピンクの服を好む傾向が顕著に見られるとしたら、それは周囲の大人の反応や社会的な圧力によって小さな違いがじわじわと補強された影響かもしれないと、『ジェンダー化された脳』の著者で英アストン大学名誉教授のジーナ・リッポンは指摘する。

人形で遊ぶ女児に「女の子はやさしいね」と声を掛ければ「女の子は常にやさしくあるべき」という価値観が強化される。一方、乱暴な言動を「男の子だから仕方がない」と見逃せば、「好き勝手に振る舞っていい」という誤ったシグナルを送りかねない。

しかも大半の人は、自身のジェンダーバイアスに無自覚だ。

生後11カ月の赤ちゃんに傾斜の異なるスロープではいはいをさせた実験では、女児の親はわが子の運動能力を低めに、男児の親は高めに予測する傾向があった(実際の運動能力に男女差はなかった)。

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そのままの個性を尊重。
 

こうした意識は社会に深く根差しており、個人の努力だけでは変えられない部分もある。また、ジェンダー・ニュートラルな子育てよりも、男の子、女の子らしさを大切にしたいという考え方も否定されるべきではない。

ただし、伝統的な価値観の過度の押し付けは子どもの心身に悪影響を与えかねない。

アメリカ心理学会は2018年に発表したガイドラインで、「弱音を吐くな」といった伝統的な男らしさを重んじる男性ほど自殺率や、アルコール依存症などを患う割合が高いとして注意を促した。

有害なジェンダー規範を次世代に引き継がないために、まずは無意識のバイアスがないか自問してみるといいだろう。

子どもは言葉を話せない時期から周囲の反応を手がかりにして社会に受け入れられる振る舞いを学んでおり、「男の子は泣いちゃ駄目」「女の子は足を閉じて」といった何げない言葉から敏感にメッセージを感じ取ると、『子どものジェンダー構築』の著書がある福岡大学の藤田由美子教授は言う。

「無意識の価値観が言葉の端々に表れる。アンケート調査では、固定的な性的役割の意識が強い保護者ほどそうした声がけをしがちな傾向があった」

もしもわが子にその性別に特徴的とされる傾向が見られるなら、親はむしろ逆の方向に背中を押すべきだと、米ロザリンド・フランクリン医科大学の脳神経学者リース・エリオットは指摘する。

男の子の言葉の発達が遅いなら、じっくり話を聞いて意図をくみ取ってやるべきだし、新しいことに挑戦したがらない女の子には小さな成功体験を積ませるといい。

また女性科学者や競争嫌いの男の子など典型的なジェンダー規範に合わない登場人物が活躍する本や映画を通して、多様なロールモデルに触れさせるのも効果的だ。

もっとも、親がどれほど気を配っても、子どもは友だちやメディアを通して異なる価値観に触れ、いずれは「男の子、女の子らしくない」選択をからかわれる経験もするかもしれない。

そんな時こそ「親は、そのままのあなたでいいと伝えて、子どもの選択をまるごと受け入れてあげてほしい」と、藤田は言う。「その姿勢が、男女の型にとらわれずに個性を伸ばすことに繋がる」

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text: Keiko Iguchi

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