人生で自分が納得できる答えを導き出すためには?

Lifestyle 2021.12.31

From Newsweek Japan

文/船津徹(TLC for Kids代表)

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自分らしい人生を歩むために…(写真はイメージ) BrianAJackson-iStock

進学、就職、結婚......人生には重要な選択をしなければならない場面がたびたび訪れます。この選択の質を高めるために欠かせないのが思考力。「自分は誰で、どう生きたいのか」、ありたい自分を創るヒントをアクティブラーニングの手法から紹介します>

21世紀は「答えのない時代」と言われます。「人間がこなせる仕事の多くはロボットやAI(人工知能)が担うようになる」と多くの人が言っているように、この流れは加速していくでしょう。

キャリアの面を考えても、「一生懸命勉強して、いい大学に入り、良い企業に就職すれば一生安泰」という考え方は通用しなくなってきています。実際、「安定」と言われた日本の大企業が海外企業に買収されてしまう時代です。

「答えのない時代」を生きる子どもたちは、自分の人生を自分の力で開拓しなければなりません。社会環境や産業構造が変化していく中でも決して悲観せず、むしろ新たなチャンスを見出し、仕事や価値を生みだしていく、そんな発想を可能にするために、自分の頭で考えられる「思考力」が欠かせません。

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アクティブラーニングが思考力を育てる。
 

「世界一子育てがうまくいっている国」と呼ばれるフィンランドは、国際学力調査(PISA)では常に上位に入っており、世界幸福度ランキングでも4年連続で1位を保持しています。フィンランドで育つ人が優秀な理由として「思考力」を伸ばす教育があります。

フィンランドの学校では先生が教壇に立って講義をすることはありません。生徒一人ひとりが学習目標を定め、そのために情報を集めたり、先生に質問したり、グループで議論したり、生徒が主体となって学びを深めていきます(このように生徒が能動的に学習する方法を「アクティブラーニング」と呼びます)。

その過程で、生徒はインターネットを活用して情報を取捨選択し、知識を増やし、分析し、周囲と議論を交わしていきます。そして、自分の考えの思い込みや偏りに気づいていくのです。

フィンランドに限らず、アクティブラーニングが普及している欧米の学校では「問い」を重視します。先生の仕事は生徒に「質問」することです。「なぜそう考えるのか?」「根拠は何か?」と繰り返し質問します。生徒は常に頭をフル活動させて、自分の思考の根拠について必死で考え、自分なりの答えを導き出さなければなりません。

自分の意欲で学習に向き合い、自分に「問い」を重ねて、自分なりの答えを導き出していく。このプロセスを繰り返すことで、自分自身についての理解が深まり、アイデンティティが確立されていくのです。

アイデンティティの確立とは、「自分は誰で、どう生きたいのか」という人生の指針をハッキリと決めていく力です。これを確立するには、子どもを取り巻く人たちが「なぜか?」「本心か?」「ほかに考えはないのか?」と「問い」続けることが必要です。

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親子の対話に「問い」を増やす。
 

思考力は、子どもが勝手に身につけていくものではなく、多くの場合、家庭の中で育てられていきます。特に重要なのが親子間で交わされるコミュニケーションです。優秀な子どもが育つ家庭ではさまざまな「問い」が投げかけられ、子どもは小さな時から「自分で考える習慣」を身につけているのです。

・小さな選択をさせ、「YES or NO」をハッキリさせる
・選択の際には、論理的に理由を考えさせる
・ひとつの角度からではなく、多面的な立場から物事を考えさせる
・「わからないこと」を明確にして、追求させる
・自分の本心と向き合って選択をさせる

といった訓練をしていくことで、自分の意見を持つ力、分析する力、発想する力、問題を解決する力がついていきます。子育て上手な親は、子どもの発想を刺激する質問をして子どもが楽しんで考えられるように仕向けているのです。

さらにコミュニケーションだけでなく、「読書」などを通して身につく「読解力」「言語力」「書く力」や「知識」などにより、考える力はさらに洗練されていきます。

その結果、「テレビやネットでこう言っているから」「権威のある人がそう言っているから」などではなく、事実や根拠に基づいて、自分の明確な意思で物事を決め、常識の枠にとらわれず自由に発想していく力が養われていくのです。

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思考を言葉で表現する力は食卓で育つ。

食卓は子どもの考える力を育てる最適の場です。フランス人は食事時間が長いことで有名ですが、その目的は、家族のコミュニケーションを密にし、お互いに何でも話し合える信頼関係を確立することにあります。

家族全員が食卓で顔を合わせて、食事を食べながらその日にあった出来事を話し合うのはフランス文化の一部です。フランス人はディベート好きで、自分の考えを曲げないことで有名ですが、その気質は食事中の会話によって育てられるといっても過言ではありません。

平日は家族全員が揃うことが難しいという場合は、週末だけでも一緒に食事をとることをルールにするとよいでしょう。食事中はテレビを消して、その週にあった出来事を話し合います。それだけで家族関係が目に見えて良好になります。

子どもとの雑談の中で、親が「なぜ?」「本当?」「どうして?」「どんな風に?」という「問い」を増やすことで、子どもは自分の思考について深く考えるようになります。思考力の強い子どもは、多くの場合、親子の会話によって当意即妙の発想力、言語力を獲得しているのです。

食事中の会話に、親の仕事の話、政治や経済の話、環境や国際問題など、学校では聞くことのできないトピックが多いほど、子どもはたくさんの知識を吸収し、様々な事柄について「考える力」を伸ばしていくことができます。

親子の会話で重要なのが、子どもの考えを尊重することです。多くの親が子どもの意見を否定したり、間違いを正したり、親の考えを押しつけがちですが、これを繰り返していると、子どもは親の話に聞く耳を持たなくなります。

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重要な選択を後悔しないために。


そもそもなぜ思考力が重要なのかといえば、悔いのない、自分らしい人生を歩むためです。人生には重要な選択をしなければならない場面がたびたび訪れます。

たとえば子どもが進学先を決める時に、「仲のいい友だちが行くから」「偏差値が合格圏内だから」「家の近くだから」といった安易な理由で決めるのではなく、「自分は本当にその学校で学びたいのか?」「自分を伸ばしてくれる環境か?」「自分にとってプラスか?」と、選択の質を高めてゆくためには思考力が必要になります。当然、仕事を選ぶ時も同じです。

周囲に合わせてなんとなく自分の人生を選んでしまうと、モチベーションが上がらず、何かをやり切ることができず、何事も中途半端に終ってしまう、といったことが起こりやすくなります。

実際、こうした例は、学歴を重視する日本や韓国といったアジアの国でよく起きている問題です。自分でとことん考えて、自分で選ぶという経験が少ないので、挫折を経験した時に立ち上がれなくなる、そんな若者が、実に増えています。

人生に起きるすべてのことは、自分の責任で決めていくもの。しかし、思考を放棄して他人まかせにすると「あの時ああしておけば......」という後悔が残り、他人に責任転嫁をしてしまうこともあるでしょう。

そもそも人生に「これをしたら100点である」という明確な答えはありません。ですから、自分にとことん向き合い、思考力を鍛え、「自分が納得できる答えを導き出す」訓練を積むことが、自分らしい人生を送るための方法なのです。

船津徹

TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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text: Toru Funatsu

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