日本人がグローバルで生き残るためのソフトスキルとは?

Lifestyle 2022.01.18

From Newsweek Japan

文/船津徹(TLC for Kids代表)

アメリカ人の親を観察していると、子どもへの投げかけにある特徴が見られます。「考える力」が養われる家庭内のコミュニケーションの秘訣を探っていきましょう。

211011-iStock-1150572145nww01-thumb-720xauto-268462.jpg photo: alvarez-iStock

現代社会では、医療やテクノロジーはもちろん、ダイエットから子育て方法に至るまで日々新しい発見や検証がなされ、それまでの常識をくつがえすような事柄が次々と生まれています。いったい何を信じたらいいのかわからなくなるかもしれませんが、これはグローバル社会の宿命だと言えます。

つまり、変化の激しい時代では、自分の頭で考え、自分にとってより良い選択をする力が求められます。情報を見極める力、常識を疑う力、未来を予測する力、仮説を立てる力、問題を解決する力など、「考える力」が育っていなければ、氾濫する情報や社会の変化にふり回されてしまいます。

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日本の学校教育ではソフトスキルが育たない。
 

しかしながら、現在の日本の学校教育では十分な「考える力」は育ちません。学校教育の主流は「教科書知識の記憶」と、正解が明らかな「◯×式テスト」で高得点を取るためのテクニックの詰め込み教育が続いています。

知識はもちろん重要なのですが、知識はスマートフォンひとつで簡単に手に入れることができる時代です。その知識をどう活用するか、知識を動員してどう自分なりに答えを導き出していくのかが問題なのです。

偏差値のように数値で評価できる技能を「ハードスキル」と言います。一方で数値化することが難しい技能を「ソフトスキル」と言います。すなわち、批判的思考力、問題解決力、コミュニケーション力、協調性など、「◯×式テスト」の結果で評価することが難しいスキルのことです。

1980年代以降、アメリカの学校教育はハードスキルからソフトスキルへ、中でも「考える力」の育成へとシフトしていきました。教科書を読めばわかる知識を教えることよりも、教科書には載っていない実用的な技能を教えることが学校(教師)の仕事と考えられているのです。

日本の学校教育は「ハードスキル」の育成においては世界でトップクラスを達成しました。しかし、これからはそれだけでは足りません。時代の変化に対応できる人材を育成するために、そして子どもたちが自分らしく自己実現を図るために、「ソフトスキル」の育成が重要になってきます。

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コミュニケーションで考える習慣をつける。
 

ソフトスキルの育成は対人コミュニケーションを通して「考える習慣」をつけることから始まります。アメリカの子どもたちは、学校で教育されるまでもなく、家庭でソフトスキルを身につけていきます。学校で思考技術を学んだ親が子どもを育てるわけですから、子どもとの対話の中で「考える習慣」の訓練がごく自然に行われているのです。

アメリカ人の親を観察していると、子どもとの会話に「なぜ?」「どうして?」「もし〜だったら?」「どうしたら解決できると思う?」という「問い」を頻繁に織り込んでいることがわかります。親が「問い」を増やすことで、子どもは「なぜだろう?」と深く思考し、自分の考えを言葉に置き換えて表現する習慣を身につけることができます。

「日曜日に何をしたい?」と子どもに聞けば、「公園に行きたい!」と答えます。すかさず「どうして公園に行きたいの?」と問うのです。子どもは少し考えて「砂遊びが好きだから!」と自分のやりたいことを教えてくれます。

また、子どもが「なぜ?」「どうして?」と聞いてきた時は「何でだと思う?」「どうしてだと思う?」「どうしたらいいと思う?」と「質問返し」をしてみてください。安易に他者に答えを求めるのではなく、まず自分の頭で考える習慣を身につけることができます。

良好な親子関係を築き、親子の対話に「問い」を増やして、子どもに考えるきっかけを与える。すると、子どもは何事も自分で考えるようになります。地頭力の強い子どもは、多くの場合、家庭でのコミュニケーションによって当意即妙の発想力、思考力、言語力を獲得していきます。

家庭でソフトスキルを育てる最高の場が食卓です。食事中の楽しい雑談は、子どものコミュニケーション能力を高め、好奇心を刺激し、思考を深めてくれます。親の仕事の話、政治や経済の話、環境や社会問題など、学校では学ぶことのできないトピックが多いほど、子どもはたくさんの知識を吸収し、様々な事柄について「考える習慣」を身につけることができます。

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オープンエンドの質問で考える力を鍛える。
 

日本では「指示・命令」で子どもを動かそうとすることが多いですね。これを少し変えることで、子どもの「考える習慣」を育てることができます。

「宿題しなさい!」と命令するのではなく「今日学校で何を習ったのか教えてくれる?」と聞けば、子どもは一生懸命思考を働かせて、授業で勉強した内容を教えてくれます。

「YES・NO」で答えられる質問をクローズドエンド、「YES・NO」で答えられない質問、答えがない質問をオープンエンドと呼びます。たとえば「今日学校楽しかった?」という質問は「YES・NO」で答えられるのでクローズドエンドです。これでは話が「うん」「べつに」で終わってしまいます。

一方オープンエンドは、以下のような質問形式です。

・「今日先生の話の中で一番おもしろかったことを教えてもらえる?」
・「休み時間の一番楽しい過ごし方を教えてくれる?」
・「今日笑った話を教えてもらえる?」
・「クラスでユニークな子について教えてくれる?」
・「担任の先生はどんな人か教えてくれる?」

これらに答えるには、記憶を呼び起こし、それを言葉にして説明しなければなりません。つまり「深い思考」が要求されるのです。正解のない質問を多くすると、親子の会話が弾むようになり、対話を楽しみながら思考を深めていく訓練を家庭で実践できます。

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子どもに決めさせてアイデンティティを確立する。
 

「自分で決めていいよ」を英語で「It's your choice」「It's up to you」と言います。アメリカの親が子どもにしつこいくらい頻繁に使う表現です。レストランの食べ物、洋服、本など、身の回りの小さな選択から始めて、成長に応じて、より重要な選択を子どもの判断にゆだねていきます。

何が食べたいのか、どんな服を着たいのか、髪型はどうしたいのか、何をして遊びたいのか、休日にどこに行きたいのか、どんな習い事をしたいのか、子どもは自問自答しながら、自分で考えて、自分で決める訓練を積むことができます。この経験が「自己=アイデンディディ」の確立に影響してくるのです。

日本では小学高学年以下の子どもに選択させることは少ないと思います。子どもの食事、おやつ、洋服、習い事、身の回りの物などは「親が」選んで与えるのが一般的です。親からすれば、子どもに似合う物や健康に良い物を選んであげているわけですが、その一方で、子どもから「自分で決めるチャンス」を奪っているとも言えます。

進学や就職など、人生の大きな岐路において、右と左、どちらの道を選択するかによって、その後の人生は全く違ったものになります。人の意見に流されて右に行くのか、自分の考えを信じて左に行くのか、どちらが悔いのない人生を歩めるのかは明白です。

ところが、たくさんの人が本意ではない選択してしまうのです。その理由は「自分のことがよく分からない」からです。だから、とりあえず、みんなと一緒の道に進むという選択をしてしまうのです。

まずは小さなことを子どもに決めさせてみてください。「自分のことは自分で決める」訓練を重ねることで、自分の頭でしっかり考えて、自分にとって最適な選択ができる子どもに育っていきます。

船津徹

TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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text: Toru Funatsu

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