蚤の市で見つけたドラマ、60年を経て届いたラブレター。
Lifestyle 2022.02.10
文/チェルシー・ブラウン(インテリアコーディネーター)
蚤の市でなにげなく売られている古い写真や手紙、そのひとつひとつに平凡な人々の「人生のドラマ」が眠っている。
photo: Chelsey Brown
私の祖父母が眠るニューヨークの墓の隣に、1923年に生まれて翌年亡くなったという女の子の墓がある。周りに家族の墓がないことがずっと気になっていた。だから3年ほど前、系譜学者の父に、この子の家族を探そうと提案した。
墓地の事務所に女の子の記録は残っていなかった。しかし彼女の死亡証明書を入手できたので両親の名が分かり、子孫を見つけることができた。
連絡してみると、幼くして亡くなった赤ちゃんがいたという話は家族に受け継がれていたが、誰も詳しいことを知らなかったという。ある意味、父と私がこの家族の「歴史」の一部を掘り出したわけだ。
この家族から父に届いたメールには、女の子の墓参りに行けるようになってうれしいと書かれていた。これを読んだ瞬間、私は系譜学に恋をした。なんといっても、彼らの人生を変えたのだから。
私はインテリアコーディネーターという仕事柄、ほぼ毎週末、蚤の市に通っている。写真や手紙、日記など本来なら家族に受け継がれるべきものが山のように売られているのを見て、いつも心を痛めていた。
昨年7月、蚤の市で1通の手紙を見つけた。1ドルだったので、これを買って、手紙を書いた人の家族を探そうと考えた。家に帰ってネットで調べてみると、30分もしないうちに家族を突き止められた。
とてもドキドキしたから、その瞬間はよく覚えている。私は翌週末も蚤の市で手紙や絵はがきをたくさん買い、関係する家族を探し出した。以来、この作業を続けている。
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届かなかった1960年代のラブレター。
もっとも心に残っている作業のひとつは、1960年代に書かれたラブレターを宛て先の女性に届けられたことだ。現在78歳になる彼女は、航空会社の客室乗務員だったときに機内で出会った男性とデートをするようになった。手紙をやりとりしていたが、私が見つけた2通は彼女に届いていなかった。
作業は難航したが、最終的にこの女性と息子、姪を見つけることができた。姪に聞いた話では、女性は泣きながら手紙を読んでいたという。
筆者のブラウンが蚤の市で見つけた60年代のラブレター。 photo: Chelsey Brown
家系図サイトの「マイヘリテージ」を活用してこうした調査を続け、結果をSNSに投稿していたら、それがマイヘリテージの目に留まったようだ。いまではこのサイトの協力を得て、共同の調査プロジェクトも行っている。
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1日のうち、調査に費やすのは6~7時間。ブログを運営していて、幸運にもそこから十分な収入を得ているから生活には困らない。インテリアコーディネーターの仕事は続けているが、いずれは系譜学のほうを本業にしていきたいと考えている。
いまはまだ夢のような話だが、この作業からテレビ番組が作れたらいいとも思う。家族の系譜を調べていて実感するのは、普通の人の生活の中に美しさや素晴らしさがあるということだ。すべての人とその持ち物ひとつひとつに、素敵な物語が詰まっている。
インテリアコーディネーターとしての装飾やデザインの仕事も大好きだが、系譜学には私の魂に訴える何かがある。月並みな言い方だが、これは私が生涯続けていくことを運命づけられた作業だと思う。
平凡な人々の人生に魔法が隠れている。それを知ったからこそ、私はこの仕事に魅了されたのだ。
text: Chelsey Brown