子どもに「片付けなさい」はNG! ポイントは20秒。
Lifestyle 2022.02.12
文/ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
自己肯定感は、不確かな時代を幸せに生き抜くための唯一にして、最強の武器になりうる。親がその武器を子どもに授けるために、できることは何か。
photo: kate_sept2004-iStock
多くの親は、子育てに関するさまざまな情報を集めては、何が正しいのかと頭を悩ませているはずだ。子育てに正解はないとはいえ、かつては正しいとされていた情報が知らぬ間にアップデートされていることも少なくない。時代によって求められる能力も変わってきている。そんな中で、親ができるのは、子どもに普遍的な生きる力を身につけさせることだろう。
幼い子どもが、一緒に過ごす時間の長い大人から受ける影響は強大だ。親が発する言葉のひとつひとつが、どんな習い事や教育よりも子どもの能力を伸ばすことにつながるとしたら──。
まずは、親であるあなた自身が変わることがいちばんの特効薬になるかもしれない。親が変われば、子どもも変わる。そのために必要なのは、子どもだけでなく親自身の「自己肯定感」を高めることだと、『自己肯定感が高まる声かけ』(CCCメディアハウス刊)の著者、熱海康太は書いている。
とはいえ、凝り固まった大人が変わるのは難しいのではないだろうか。そんな問いに熱海は、「声をかけられたお子さんは、自発的に行動を変えたくなります。行動が変われば、思考も変わります。それだけではありません。声をかけた親御さん本人の思考も変わります。声かけの声を最初に聴くのは自分自身だからです」と説く。
発する言葉を意識的に変えていくことで、大人のマインドも変えていく力があるという。子どもの幸せのために、親ができることを教えてもらった。
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自己肯定感とは、「達成力」「仲間力」「感情力」である。
熱海は、現役の小学校教諭だ。実際の教育現場でも「自己肯定感が大切というけれど、それが何かよくわからない」「自己肯定感を身につける方法がわからない」という悩みが多く聞かれるという。
そもそも自己肯定感とは、「ありのままの自分に満足し、価値ある存在として受け入れる力」のことだ。なんとなく不安や怯えを感じる状況にあっても、なかなか行動できなかったり決断できなかったりするのは、自己肯定感の低さが影響している場合が多い。自己肯定感は意思決定をしたり、最初の一歩を踏み出すためのエネルギーにもなっているからだ。
では、その自己肯定感は、どうやって育てられるのか。
熱海は、自己肯定感を「達成力」「仲間力」「感情力」の3つから身につけられるという。「達成力」は、物事を粘り強く続けて目標を達成する力。「仲間力」は、周りの人と協力する力。「感情力」は、自分の気持ちをコントロールする力のことだ。
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子どもの成長段階によって、友達とうまくやったり、物事に対する粘り強さや気持ちのコントロールが難しかったりすることもあるだろう。「達成力」「仲間力」「感情力」はそのどれかひとつで成立するものではなく、全部が少しずつ混ざり合って自己肯定感になっていく。「達成力がついてきたら、仲間力も上がった」なんてこともあり得る。
また、感情力があれば、ネガティブな心をポジティブにすることができる。それ以前に、達成力と仲間力があれば、ネガティブな状況が訪れにくくなる。このように、3つの力は混ざり合っていることが多いのだ。
これらの力はすぐに身につくものではない。急な変化は、すぐ元に戻ってしまう。しかし、じっくり時間をかけて変化したことは、習慣として、子どもの中に残りやすい。ポジティブな声かけが次第に子どもの心を強くしていく。
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習慣化したいことも、そうでないことも「20秒」がポイント。
では、具体的にどのように自己肯定感を育てていくのか。「達成力」から見てみよう。
たとえば、片付けの苦手な子どもに対して、片付けの習慣をつけさせたいとする。部屋が散らかっていることで、ストレスが溜まるだけでなく、物事を達成する気力は大きく落ちてしまう。そうしたときに、「片付けなさい」と言っていないだろうか。このときに、かけたい言葉は「一緒に片付けよう」である。
子どもが片付けができない理由は、面倒くさいということもあるが、「片付けの仕方がよくわからない」のかもしれない。やらないのではなく、途方に暮れている状態の可能性があるのだ。とくに小さいうちは一緒にやってあげる必要がある。そして、少しずつ、親の手から離れるように意識することも大切だ。
ハーバード大学の元研究者、ショーン・エイカーは、物事を長続きさせるコツは、20秒以内で取り組めるようにしておくことだとしている。つまり、習慣にしたいことは、20秒以内に取り組むようにできる環境を整えることが重要なのだ。
たとえば、ピアノの練習を始める前に楽譜をセットしておく、勉強が終わったら次のために必ず鉛筆を削って置いておくという工夫だ。ランニングを習慣にしたい人ならば、玄関に着替えを置いておいて帰ってきたらすぐに走りに行けるようにしておくといったことだ。
逆に、あまり習慣にしたくないことについては、20秒以上かかるようにしておけばいい。
子どものゲームとの付き合い方に悩む親は多いが、これも「ゲームをしたあとは、必ず箱にしまおう」と声をかけるといい。
テレビゲームは、さまざまなケーブルがあるがきちんと外して後片付けさせる。本体も箱に入れさせる。そうすることで、また始める時に、本体を箱から出してケーブルを繋ぐのに、20秒以上はかかる。このひと手間を、子どもと事前に約束させることがポイントだ。これで「なんとなくやっている」状態を防ぐことができる。
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ブレない大谷翔平の言葉。
子育てをしていると、どうしても不安な気持ちになってしまうこともあるだろう。自分のやり方は間違っていないだろうか、子どもに悪影響を及ぼしていないだろうか。完璧に親業をこなせていないかもしれない......などと思うかもしれない。
そんな時は、悩みを誰かに話したり、泣いたり、怒ったりしたほうがいいと、本書では勧めている。そういった感情を吐露することは、つらいことではあるが、言葉にすることで出口に近づいているからだ。
もちろん、子どもにとっても同じ。悩みを抱えている子どもには、睡眠をじゅうぶんに取らせて、感情を吐き出させてあげることが重要だ。
大人であっても、つらい時に「つらい」と、なりふり構わず言えるのは大切なことだ。その姿から、子どもたちも、ちゃんと学ぶことができるというから、心配はいらない。
親の自己肯定感が高いと、子どもの自己肯定感が高くなる。自己肯定感が高いということは、自分の軸からブレずに物事の真ん中を見られるということなのだ。
エンゼルスの大谷翔平選手は、結果が出たいまでこそ批判をする人はいないだろうが、二刀流であることについていろいろな意見があったときに、こんな趣旨のことを言っていた。
「自分がしっかりやっていれば、それでいいのかなと思っている」と。
親自身がブレずに子どもと対峙すること。それこそが、子どもの幸せにつながる。
『自己肯定感が高まる声かけ』
熱海 康太 著
CCCメディアハウス刊
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text: Newsweekjapan