「絆どころか孤独感ばかりが生まれる」デジタル社会に生きる独り身の憂鬱。
Lifestyle 2022.02.20
同棲・事実婚・結婚と、カップルの形もそれぞれ。フランス人は自由恋愛を謳歌しているイメージがあるが、本国版Madame Figaro誌から、さまざまなイマドキの恋愛&結婚事情が見えてきた。
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DE L'AMOUR PERDU
デジタル社会の憂鬱――失われた愛を求めて。
「お互いに嘘はやめましょうね!」「どうせ始まる前に消えてしまうでしょ……」「だって、あなたは存在さえしないんだもの 」。バーチャルなやりとりを比喩。
34歳のジャーナリストのジュディット・デュポルタイユは、燃え尽き症候群を経験した。主な症状は疲労感、自信喪失、他者に対する恐怖感。原因はポストティンダー(出会い系アプリ)時代の恋愛と誘惑。2019年に上梓した『L'Amour sous Algoritheme(アルゴリズム化された愛)』(Éditions Goutte d'Or刊)で、出会い系アプリと性の資本主義化について取り上げた彼女は、その後も調査を続けた。彼女は最新著書で精神的消耗について語っている。就職面接のようなデート、ゴースティング(何の説明もなくある日突然連絡を絶つこと)などに心を掻き乱されたり、時には同意なんてどこ吹く風、という輩にも遭遇する。冷静に観察するため、ジュディット本人も1年間、誘惑やセックスや愛を棚上げした。きちんとした交際の再開に繋げられるように……。以下に、数人の独身者の苦難の道のりを追った。
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ティンダーと手を切る。
「個人的に受けた痛手と#MeToo運動を経て、また恋に落ちたいと思うように。でも恐れと欲望の 間で身動きができない状態でした。ティンダーに戻って茶番劇に参加することを考えると鳥肌が立ちます。最もきつかったのは、出会い系アプリで出会った人たちの押し付け。実際に会うと、3時間後にはキスをして、4時間後には服を脱いで……というのが共通認識です。イケアに入店した時のように、自分で買い物する順序を選択することもできないまま順路に沿って進むだけ。しかも最初から同意が前提。こちらの情緒や感情を害する失礼な行為や、気軽さを装った残酷な行動もまかり通っている。“デーティング”という世界の非道ぶりに疲れ切ってしまった」
新しい孤独。
「他者との出会いはいつだって複雑なもの。でもいまはコンタクトを取れる人が無限にいることが悩みの種。アプリを利用すると、失敗を何度も重ねることになる。普通なら失恋をしても1年に3〜4回ぐらいでしょう。アプリの場合はそれが1週間に3〜4回……。自分で自分の傷を何度もつつくようなものです。その結果、他者に対して心を閉ざしてしまうことも。フィジカルな世界では誰かを誘おうと思ったら自然とオープンになります。知らない人ばかりのパーティに出かけたり、スペイン 語の講座を受けたり。うまくいかなくても得るものがある。一方、アプリを制御しているのはコンピュータ。絆か、虚しさか、どちらかしかない。絆どころか孤独感ばかりが生まれます」
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デミセクシュアル。
「アメリカでこの考えがあることを知りました。つまり感情的に強い繋がりを抱く相手にしか性的欲望を抱けないということ。自分はコレだと思いました。この概念が現れたのは、現代の過剰な性対象化、感情や気持ちがなくてもセックスしないといけないような雰囲気や、別れたらすぐに次の人と付き合うのが当たり前という風潮への反応だと思う。そうしないと、変な目で見られてしまう。一 方で 、調査の過程でこの言葉を利用している女性たちもいることを知りました。男性があまりにしつこい時は『私はデミセクシュアルです』と言って話を打ち切る。この言葉は自分のペースを守りたい時に役立ちます。感情や感受性を大切にする権利を主張したいと思います」
自身の心の声に従う。
「性生活を始めた最初の頃、自分の裸が美しいかどうかをひたすら気にしていました。私が持っているのは私の身体だけなのに。いま必要なのは自分自身を尊重すること。社会の道徳を尊重するのではなくて、自分自身の内部の声に耳を傾け、それに応じることです。このことをティーンエージャーにも伝えたほうがいい。私はもう2度と社交辞令でセックスはしないと決めました。セックスだろうと、2度目のデートだろうと、何であれもう無理はしない。もちろん簡単なことではありません。いまの時代、男性にノンと言うことは一筋縄では行きません。時には揉め事に巻き込まれたり、あとで逆恨みされたり、言い訳をしたり、交渉したり……大変ですが……」
愛は政治のようなもの。
「出会い系アプリが登場して、私たちはいまや恋愛が生まれるきっかけ作りを企業に委託しているわけです。そのことについてきちんと社会全体で考えるべき。アプリの利用頻度は少なめに、そしてできる限り頭をクリアにして利用するべきだと思います。落ち着いた関係を結ぶためには、自分自身の声に耳を傾け、 エコロジーや家族の問題と同じように、愛は政治的な問題なのだと理解すること。歴史を振り返ってみると、公的領域においては暴力を回避するために、民主主義や外交、それからさまざまな制度を作ることで戦 争を避けてきました。こうした和平のための条件を私的な人間関係においても確立し、政治的異性愛(カップルを巡る社会の構造)に疑問を持ってみるべきだと思う。社会は女性に、カップルを構成し、結婚し、子どもを作るという役割を割り当てている。だから、独身女性はまるで自分が半人前のように感じてしまう。恋愛したいと思うのは普通のこと。でも、社会が独り身の女性を半人前扱いしているのです。女性の価値がベッドの中で起きていることで左右されるなんて、とんでもないことです」
*「フィガロジャポン」2022年3月号より抜粋
text: Ophélie Ostermann (Madame Figaro) illustration: Fabienne Legrand (Madame Figaro)