男の子は「ガラスのハート」?ジェンダーレス時代の子育てについて。

Lifestyle 2022.02.26

From Newsweek Japan

文/船津徹(TLC for Kids代表)

概して男の子は社会性の発達が遅いため、集団のルールや礼儀作法などを教える「しつけ」が難しいと考えられています。違いを理解しないまま、男女ともに同じように育てる、または「女の子だから」「男の子だから」と偏った考え方では壁にぶつかることも増えます。

220201-iStock-902726012-580.jpg一見男の子はパワルフでも、その内面は繊細でストレスによる影響を受けやすい。photo:kohei_hara-iStock

男の子と女の子で育て方に違いがあるのか? それとも性別に関わらず同じように育てるべきなのか?──ジェンダーレス時代に物議を醸すかも知れませんが、今回のコラムでは「男女の育て方の違い」について私見を述べたいと思います。

マイナビウーマンが女の子の母親に「女の子は育てにくい、と感じたことがありますか?」という質問をしたところ、39.5%が「はい」と回答しました。同じく男の子の母親に「男の子は育てにくい、と感じたことがありますか?」という質問に対しては、44.0%が「はい」と答えています。

このアンケートを見る限りでは、わずかではありますが、男の子が育てにくいと感じている母親が多いことがわかります。男の子が育てにくいと感じる理由は「何を考えているか分からない」「活発・粗暴・やんちゃ」「身体が弱い・すぐ泣く」などが多数を占めます。

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男女平等の精神は男の子にとって不利!
 

一般に男の子よりも女の子の方が身体面、情緒面(社会性)、言語面の発達が早く、乳幼児期の子育てはスムーズに進みます。たとえば、生まれたばかりの女の子は男の子よりも大人とのアイコンタクトの時間が長く、人間の顔をより早く認識(識別)できるようになることが分かっています。

一方で男の子は、テストステロンと呼ばれる男性ホルモンの影響によって攻撃的で落ち着きのない傾向を示すようになります。そのため、走り回ったり、危ないことをしたり、突発的でじっとしていられない行動が多くなるのです。

私は職業柄(塾経営)日々母親から育児相談を受けますが、男の子を持つ母親の多くが、発育ペースが遅く、不可解な行動が多い男の子を理解できず、それがイライラの原因になっているようです。母親は女性として生まれ育ってきましたから、男の子に対しても基準(期待値)が高くなりがちなのです。

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男の子の育て方で大切なのが「比較しないこと」です。「お姉ちゃんはできるのにどうしてあなたはできないの!」「お友だちはできるのに!」などは絶対に言ってはいけません。男の子はプライドを傷つけると、本当に言ったとおりにダメになってしまうという「ガラスのハート」を持っているのです。

UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の臨床心理士アラン・ショア博士は、男の子はストレスを受けやすい上、ストレスによって受けたダメージから回復する能力が女の子に比べて弱いため、心的ストレス障害のリスクが高くなるという研究を発表しています。

一見すると男の子は元気でパワルフなのですが、その内面は繊細で、ストレスによる影響を受けやすく、マイナスの刺激にもろいのです。つまり男の子の子育てにはより多くの愛情と世話が必要であり、それだけ手がかかるということです。

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男の子を動かす時は競争心を刺激する。
 

概して男の子は女の子よりも社会性の発達が遅いため、集団のルールや礼儀作法などを教える「しつけ」が難しいと考えられています。男性ホルモンであるテストステロンが「反社会的ホルモン」や「冒険ホルモン」などと言われる所以もここにあります。とにかく男の子は「自分で何でも試してみたい!」という好奇心が強いのです。

このことを知らずに、「ああしなさい」「こうしなさい」と指示や命令で動かそうとしても男の子には通用しないばかりか、ぐずぐず、だらだらが長引き、親子関係が悪くなっていくという悪循環に陥ります。

男の子は「競争心が強い」ですから、この心理をうまく利用すると行動がコントロールしやすくなります。「◯◯しなさい!」ではなく「競争しよう!」と言えば、大抵の男の子は乗ってきます。片付けも、掃除も、勉強も、運動も、男の子の競争心をあおってみましょう。

また男の子(子どもから大人まで)は「褒め言葉」「おだて言葉」に弱いという特徴があります。概して根が単純ですから、女性(母親)から「上手にできたね」「よく考えられたね」「頼りになるね」「カッコいいね」とおだてられるとうれしくなり、やる気になるのです。

子どもをほめる機会を増やすには「お手伝い」が効果的です。料理の手伝い、食事の準備、掃除、洗濯などを頼めば、子どもは喜んでやってくれます。ポイントは「ママを助けてくれる?」と依頼することです。

子どもが手伝ってくれたら「手伝ってくれてママ助かったわ。ありがとう」と、抱きしめて感謝を伝えてください。これで子どもは「自分の働きはママの役に立つ」という自信を大きくすることができます。子どもに日頃からお手伝いをさせて育てると、親が口うるさく言わなくても、自分のことは自分でできる子に育ちます。

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女の子の「観察力」を子育てに活かす。
 

女の子が育てにくいと感じる理由で多いのが「おませ・早熟・口が達者」「自分に似ている・ライバルになっている」というものです。これらは決してマイナス要因ではなく、むしろ言語力、コミュニケーション力、思考力が順調に発達している証であり、親にとっては喜ぶべきことです。

女の子は男の子よりも人間への関心が強く、大人を観察する力が鋭いのです。この女の子の特性を子育てに活かしてください。すなわち子どもにとって最も身近な大人である親が、コミュニケーション(人付き合い)の手本を示してあげると、その通りにマネしてくれます。

母親が笑顔で、明るく、礼儀正しく、人に優しく接していれば、「しつけ」をしなくても、子どももその通りに育ってくれます。子どもは「おままごと」が大好きですが、おままごとを見ていると、その子の「親が」家庭でどのような言動をしているのか一目瞭然です。それほど女の子は親を細かく観察しているのです。

女の子は言葉に対する感性が高いですから、絵本の読み聞かせや、お話をたくさんしてあげると、語彙力とコミュニケーション力を高度に育てることができます。語彙力は思考の土台であり、将来の学力につながっていきます。コミュニケーション力は、周囲との人間関係を良好にすることはもちろん、就職からパートナー選びまで、人生の重要な場面で威力を発揮します。

また女の子の優れた言語吸収能力を「外国語学習」に活かすこともお勧めです。女性は男性に比べて外国語習得が速いことは多くの研究が明らかにしています。ある実験によると、男性は左脳(言語脳)だけで外国語を処理する一方、女性は右脳(イメージ)と左脳の両方を使っていることが分かっています。

つまり女性は「言語情報」だけでなく、声のトーン、表情、ジェスチャーなどの「非言語情報」も駆使して外国語を学んでいるのです。子どもの頃に生きた外国語(英語など)に触れる機会を作ってあげることで、一生使える美しいネイティブ発音を身につけることも可能です。

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親の仕事は子どもの特性を伸ばすこと。
 

以上のように、男の子と女の子には、ホルモンの働きや脳の機能など、生物学的な特徴があります。ジェンダーレス時代だから男の子も女の子も同じように育てる、あるいは「女の子だから」「男の子だから」という偏った考え方をしていると、子育てで壁にぶつかることが多くなります。

大切なのは(性別に関わりなく)ひとりひとりの子どもに合わせて「子育てのアプローチを変える」ことです。兄弟姉妹であっても、双子であっても、子どもはひとりひとりが異なる性格を持ち、異なる興味や関心を持ち、輝かせるべき特性の芽を持っています。ぜひ子どもの特性(いい面)を見つけて、伸ばす子育てを実践してみてください。

船津徹

TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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text: Toru Funatsu

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