超一流を育てるユダヤ人の家庭教育「5つの教え」とは?
Lifestyle 2022.03.20
文/船津徹(TLC for Kids代表)
アルベルト・アインシュタイン、スティーブン・スピルバーグ……さまざまな分野で一流人を輩出したユダヤ人家庭では、子どもとどのように向き合っているのか? 迫害の歴史の中でユダヤ人が継承し続けてきた家庭教育の「教え」を紹介しましょう。
学校から帰った子どもに「今日は何を質問したの?」と尋ねる親が多いとも言われている。photo: LightFieldStudios-iStock
・ノーベル賞受賞者の22%
・アイビーリーグ学生の21%
・アカデミー賞受賞者の37%
・ピューリツァー賞受賞者の51%
これらは世界人口のわずか0.2%(1500〜1800万人)と言われるユダヤ人の功績のごく一部です。(The Debate Over Jewish Achievement/Steven Pease)さらに、フェイスブック(現メタ)のマーク・ザッカーバーグ、グーグルのラリー・ペイジ、スターバックスのハワード・シュルツ、オラクルのラリー・エリソンなど、アメリカンドリームを実現させた大富豪の約35%がユダヤ人です。(フォーブス400/2017)
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なぜユダヤ人は超一流を生み出すのか。
ユダヤ人がずば抜けて優秀な人材を排出し続けている理由は何か?
その鍵を握るのがユダヤ教に基づく「家庭教育」です。迫害の中を生き抜いてきたユダヤ人が何よりも大切にしてきたのは、ひとりひとりの子どもが生来持つ特性を最大限引き出し、子どもの得意分野で卓越した人材を育てる家庭教育です。ユダヤ人は次の5つを子どもに伝えると言います。
1)個性を大切にすること
2)得意分野で優越すること
3)全人格を向上させること
4)想像力(創造力)を養うこと
5)生涯を通じて学ぶこと
ユダヤ人ノーベル賞受賞者のひとり、アルベルト・アインシュタインがそうであったように、熱中できることを見つけ、生涯をかけて追求していけば、どんな道を目指そうとも、成功する確率が格段に高まるはずです。
ユダヤ人の親は「世の中をよくするために勉強するのだ」と、まず子どもに学ぶことの目的を教え、高い志を持たせます。そして「学びは楽しい」ことを実感させるために、子どもが関心を持っている分野について家族で討論をしたり、社会体験をさせるなどして、探究心を刺激する子育てを実践します。
親から「勉強しなさい!」「宿題やりなさい!」と言われて仕方なく勉強するのと、自分がやりたいこと、知りたいことを追求するために勉強に取り組むのでは、成果がまるで違ってきます。ユダヤ人が超一流を輩出する源は、子どもの個性(特性)を見出し、探究心を養う「家庭教育」にあると考えて間違いないでしょう。
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子どもの情熱を全力でサポートする。
ハリウッドの巨匠でありユダヤ人であるスティーブン・スピルバーグ監督は、子どものころ識字障害を抱えていたそうです。(当時は認識されていませんでした)勉強が苦手で、8ミリカメラに熱中していたスティーブン少年を母親が叱ることはありませんでした。母親は「あなたの悪いところは独創的すぎることね」と、映像作りへの情熱を認め、温かく見守り続けてくれました。
天才を生み出すユダヤ人は、何かを「強制する」のでなく、子どもの情熱を「引き出す」ことに注力しています。子どもの得意や興味を見つけたら、さらに好奇心を刺激する環境を作り、金銭的にも精神的にも全力でサポートし、情熱を高める努力をしているのです。
ユダヤ人の親は「得意なことは積極的にみんなに見せなさい」と子どもに伝えるそうです。子どもが自分の優れている部分を自覚するには、他人から評価されるのがいちばんです。たとえば、絵が上手な子であれば「◯◯ちゃん本当に絵が上手いね」と先生や友だちから認められることで、自信が大きくなります。
いくら優れた面があっても、それを人前で見せる機会がないと、周りから褒められることも、認められることもありません。得意なことは人前で披露する。その経験が子どもの自信を大きくすることをユダヤ人は知っているのです。
近年アメリカで「Strength-based parenting」と呼ばれ、子どもの「強み」に焦点を当てた子育てが注目されています。これは子どもが生来持つ才能を特定し、サポートしていくものですが、ユダヤ人が数千年前から実践している子育て法そのものです。
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強みを伸ばすと弱みは目立たなくなる。
ユダヤ人の子育ての特徴である「強み」に着目する子育てアプローチは、子どものレジリエンス(折れない心)や楽観性(何とかなると思える心)を養い、自己肯定感を高める効果があることが科学的にも分かっています。
日本では幼児英才教室や才能教室など、子どもの「知力」にフォーカスを当てた教育法(知識の詰め込み)が人気ですが、実は知力も「強み」に着目する子育てアプローチで高度に発達させることができます。
親が子どもの特性(良い部分)を見つけて、とことんサポートしてあげると、子どもは親を100%信頼します。この親子の信頼関係が構築されると、子どもは安心して自分のやりたいこと、好きなことにチャレンジできるようになり、その分野で突き抜けていくことができるのです。
すると不思議なことに、勉強など「しなければならないこと」にも自分から取り組める子どもに成長していきます。自分の好きなこと、やりたいことを精一杯やりたいから「しなければならないこと」は、自発的な努力でさっさと終わらせようとするわけです。
多くの親は子どもの悪い部分に目が向きがちです。しかし、子どもの弱みを改善する方法も「強み」を伸ばすことです。子どものいい部分や興味あることを見つけて、それらを活かせる習い事などに参加させると「強み」がどんどん大きくなっていきます。すると相対的に弱みは小さくなり、目立たなくなっていきます。
強みを伸ばす子育てを実践すると、子どもは自分らしく自己実現を追求できるようになります。「自分には強みがある」と自覚すると、その強みを活かして、自らの人生を切り拓こうとするたくましさ(自立心)が生まれてくるのです。
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常識を疑う、分からないことを放っておかない。
もうひとつ、ユダヤ人で特徴的なのが「質問が多いこと」です。私がユダヤ人の友人(米国で投資会社を経営)と雑談をしていると、彼の口から「なぜ」「どうして」という素朴な疑問・質問がしつこいほど出てきます。ユダヤ人は雑談であっても疑問を放っておかないのです。
ユダヤ人学校で生徒がヘブライ聖書を読んでいると、教師は「何かおかしいところはないか?」と質問するそうです。普通、聖書は神聖なもので、疑ってかかる対象ではないと思われがちですが、ユダヤ人にとっては聖書さえもあたりまえのものではなく、検証の対象です。
また、学校から帰ってきた子どもに大抵の親は「今日は何を勉強したの?」と聞きますが、ユダヤ人は「今日は何を質問したの?」と尋ねるそうです。これは学校で先生の話をただ聞いていればよいのでなく、自ら疑問を抱き、探求していく能動的な態度を養うためです。
素朴な疑問を放っておかずに質問する。分からないことは分かるまで追求する、このような習慣を家庭や学校で育成することで、子どもたちは情報を鵜呑みにせず、物事の本質を見極める力=クリティカルシンキング(批判的思考力)を高度に発達させることができます。
子どもの個性を尊重し、得意分野で卓越させる。クリティカルシンキングを養う。迫害の歴史の中でユダヤ人が継承し続けてきた家庭教育は、先の読めないこれからの時代を生きる子どもを育てる上で大きなヒントになるはずです。
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。
text: Toru Funatsu