エコロジーが引き起こす、カップル間の問題とは?
Lifestyle 2022.03.28
カーボンニュートラルや脱消費がいわれるいま、エコロジーは軽視できない問題となっている。10年前にはエコロジーがカップルの土台を成す価値となろうとは誰も想像しなかった。それが……。
大統領選候補の全員がエコロジー政策を公約に掲げる。大手スーパーはどこもオーガニックのプライベートブランドを展開している。大企業はこぞって環境への取り組みをアピールする。そこらじゅうエコロジーだらけ。さらに驚くべきことに、いまやカップルの間にもエコロジー問題が入り込んでいる。
「チェルノブイリ以降、環境問題は全地球的な、極めて“マクロ”な問題となりましたが、同時に非常にプライベートな問題でもあります。日常生活や私たちの生き方、自然や動物との関係など、暮らしの最も深い意味に関わっているからです」と、人材育成コンサルティング会社「AlterNego」に所属するソーシャルイノベーションコンサルタントのマリー・ドンゼルは分析する。
photography: iStock
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励まし合う
交際当初はかなり心配だった、と振り返るのは、ルーアン在住、43歳のヴァネッサ。「アマゾンで注文するような人とは一緒にいられないと思っていた。自分の根本的な信条に反することだったから」と彼女は話す。従業員の労働環境やカーボンニュートラルへの取り組み、非人間的社会モデルも含めて、アマゾンには不信感を抱いているからだ。しかしそのうちパートナーも彼女の見解に同調するようになった。「私と一緒にいるためにそうしたのかも。少なくとも最初は!」と彼女は冗談めかす。しかし今、そのパートナーは電動自転車に乗り、ネットショッピングをやめ、そして朝食のタルティーヌ用ペーストにも、森林破壊の原因とされるパームオイルが使用されている商品を避けるまでになった。
30代のエレーヌは2020年3月の最初のロックダウンまではパリ郊外に住んでおり、彼氏と一緒に隔離生活を送った。その間に少しずつ相談を重ね、ふたりはイル=ドゥ=フランス脱出計画をスピードアップ。ロックダウンが明けるとナントに移り住んだ。エコロジカルな生活に適したこの土地で、カップルはすぐに日常的な取り組みを始めた。たとえば、買い物は量り売りを利用し、移動は自転車、化粧品も手作り。そのうち本気でエコ生活に舵を切ることに! エコロジーはいまやふたりが最も力を注いでいる活動だ。「どんなものでもよく考えてから買うようになりました。パソコンやタブレットは再生品を購入し、服はセカンドハンド、あるいは自分で縫います。今年はクリスマスツリーを段ボールで手作りしました」とエレーヌ。「安易な手段に飛びつかずに代替方法を探すのが私たちの基本的な考え方。たとえば時々なら宅配を利用することもありますが、ウーバーイーツではなく、配達員が各自で報酬を設定する自転車便協同組合を利用します」
パートナーと同居していたからこそエコロジカルな生活への移行に積極的に取り組めたとエレーヌはいう。「彼がいなかったら、私ひとりで短期間にこれだけのことを進められたかどうかわかりません。エコのことについて頻繁に話し合い、それが実りにつながる。エコ生活への移行はふたりで取り組んでいることですから」と彼女は分析する。
ヴァネッサも同じ意見だ。「ふたりだとダイナミックに物事が進む。支え合えるから。でもお互い大目に見てしまうこともある」。エネルギーと時間の面で大きな譲歩をしてパリへの通勤時に車を利用するのをやめたにもかかわらず、ときどき衝動的な買い物をしてしまうこともある。しかし彼女にとって本当に頭の痛い問題は、むしろパートナーの子どもたちだ。「アマゾンで5ユーロのスマホケースを買うのがなぜ意味のないことなのか説明しましたが、娘は気にも留めません」。息子の方は電気自転車を選ぶ理由が理解できないという。
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コンセンサスを見つける
ステップファミリーという形態を取る場合もある家庭のなかでエコ生活への移行に取り組むとき、カップルの間には緊張が生まれることもある。「カップルとは人間関係。エコロジーは、他の問題と同様に、揉めごとのきっかけとなることもあります」とドンゼルは分析する。「私が勧めるのはこれまで以上に家事分担について話し合い、一緒に家事をすること。一緒に料理することは、家族全員の食事を用意するのとは意味合いが違います。車の洗浄やゴミの分別、買い物も同じことです」
パリに住む40代のマルタンとステファニーは、いままさにエコ生活への移行を進めているところ。だが、バカンスについての考えに違いがあった。彼らの秘訣はコンセンサスが見つかるまで話し合うこと。「一生であと3回しか飛行機に乗らないと決心する覚悟は私にはまだありません。それは寂しい気がする」とステファニー。それでもふたりは合意にこぎつけた。「別の移動手段があるときはそれを利用する。二酸化炭素排出量が最も多いのは離着陸時なので、週末のヨーロッパ旅行はやめて、今後は遠距離の大旅行をすることにしました。しかもごくたまに」とマルタンは話す。
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家事を分担する
こうした努力は立派だが物事には表と裏がある。エコ意識の高いカップルの間で、ふたたび女性の精神的負担が問題になっているのだ。社会学者のミシェル・ラランヌとナタリー・ラペルは、布オムツを選択したカップルの場合、オムツを洗うという非常に時間のかかる仕事を担当しているのは女性であることを明らかにした。
「エコロジー革命は男女平等革命ではないのです」とドンゼルは言う。
家庭でのエコロジーへの取り組みでは、いまだに男女間の家事負担の不均衡が指摘される(女性が家事の70%を分担している)。現代カップルの力学の延長で、男性より女性のほうが多くを引き受けているのが実情だ。エレーヌもパートナーの勤務時間と商店の営業時間が合わないために、自分が買い物を担当していると話す。
「オーガニック商品を量り売りで買い、ゴミを分別し、蛇口の泡沫キャップを交換する。こうした目に見えない労働に、女性たちは時間とエネルギーとお金を奪われている」とコンサルタントのドンゼルは続ける。
自然療法士のアンヌ=ソフィ・パスケは、彼女のもとを訪れる女性たちも同じだと言う。肉を食べる頻度を減らしたいという女性は増えているが、家族と一緒に暮らしていると必ずしも簡単な選択ではない。「パートナーがお腹が空くから嫌だと渋るので、2種類の献立を用意する人も」。そんな女性たちに自然療法士は普段のレシピに代替肉を使うことで家族全員が満足できるとアドバイスしている。
3人の子どもの育児をしながら仕事をするステファニーの場合は、環境への影響を考えて菜食主義者になったパートナーの要望を受け入れ、肉を食べる回数を減らすことに合意した。しかし献立を考えるのは彼女の役目……。
顧客の85%を女性が占めているオーガニックチェーンの「La Fourche」は、この件について調査を行なった。すると意義深い結果が出た。顧客の71%がエコロジーは夫婦共通の取り組みだと答えたのだ。しかし現実には「物事の捉え方や実際の行動の間に差異がある。家庭内で習慣を変えていくイニシアチブを取るのは必ず女性である」と調査は報告している。
「歴史的観点に立って見れば、女性にとって家事の時間短縮に貢献したのは家電です! しかし、残念ながら家電製品は環境破壊の要因なので、現在では家電の使用は“問題視される”選択なのです」とソーシャルマーケティングを専門とする教師兼研究者のマガリ・トルロアンは言う。したがって「洗えるオムツを利用してゴミを減らし、家電の利用回数を減らし、調理済み加工食品を買わない。それは女性の家事労働時間を増やしてしまう。ただ、別の方法で取り組むことも可能です。たとえば市民団体などの活動に参加して、家内領域で獲得した能力を公的領域で活かすといったように」と研究者はアドバイスする。
家庭でのエコ活動は経済的不均衡の助長にもつながる。「通常、女性が消費財に使うフローのお金を管理し、男性はストックのお金を管理する場合が多い。したがって、オーガニック商品を優先するという選択は、女性のお財布への負担となります」とドンゼルは強調する。
家庭でなされる選択のなかには、文化的に構築された習慣によっていまだに男性が決定権を握るものもある。車をハイブリッドカーにする、あるいは暖房器具を換えることもそのひとつだ。ステファニーとマルタンのカップルの場合もそうだった。気候変動に関する政府間パネルの報告書を読み込み、フランスで二酸化炭素排出量が最も多いのは、暖房、移動、食料の3部門であることを知り、再生可能エネルギーとオーガニックガスへの切り替えを提案したのはマルタンの方だった。
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女性の問題
家庭内でのエコ活動への取り組みに部分的に男女差が見られることは、驚くにはあたらないとトルロアンは言う。「当然といえば当然です。子どもの頃の教育の影響で、女性たちのほうが他者や自然や環境に対してより配慮する傾向があります」
昨今は環境破壊と女性が被る抑圧は同じシステムがもたらした問題であると主張するエコフェミニズムも、公の論議の場で再び盛んに取り上げられている。「分担、公平、均等という考えに基づいたこの運動が機能するには、家父長制の崩壊が条件となる」と哲学者のジャンヌ・ビュルガール・グタル(著書にレシャペ出版『エコフェミニストであること』)は指摘する。
すでに1975年、アメリカ人エコフェミニストのローズマリー・ラドフォード・リューサーは、女性たちを地球の救世主の役割に押し込めないようにと警告していた。家庭内のカオスを引き受けてきた女性たちに、今度は地球のカオスをケアする責任を負わせることになる、と。この警告は現代においても意義を持っている。エコロジカルな活動は、カップルで取り組むときでも、つねに女性の社会的解放と結びついていなければならない。
*一部、名前を変えています。
text: Delphine Bauer(madame.lefigaro.fr)