ビフォーアフター!パリのアパートを洗練された邸宅に。

Lifestyle 2023.04.27

フランスのスタジオGinko Architectsの建築家バルバラ・バリュの手で生まれ変わった、ブーローニュ=ビヤンクールのデュプレックス。上下2戸に分かれていた小さなスペースを、光がさんさんと差し込むロフト風に改装した顛末を、建築家自身が語ってくれた。

230406-mf-studio-ginko-01.jpgスタジオGinkoのバルバラ・バリュの手にかかれば、梁がむき出しの殺風景な空間が素敵な住居に生まれ変わる。photography: Studio Ginko

バルバラ・バリュは建築家として活動を始めてほぼ10年になる。ブリュッセルのサン=リュック高等美術学校卒業後、フランスとモロッコに拠点を置く大規模な都市計画事業を専門とする大手建設会社に6年間勤務した。独立を目指して退職した彼女は、大学で出会った3人の友人建築家とともに、スタジオGinko Architectsを設立。

立ち上げ当初のクライアントは主に知人で、小さなプロジェクトが多かったが、やがて口コミで評判が広がり、アパルトマンや、リーバイスをはじめとするブランドのショールーム、小規模な集合住宅の改装、パリ圏のコリビング物件などを手がけるように……。彼女は常にクライアントの声に耳を傾け、オーダーメードの解決策を提示する。チャーミングかつ整然とした空間を希望する、ベビーのいるカップルのために手掛けた84平方mのデュプレックスはその一例だ。

230406-mf-studio-ginko-02.jpgブリュッセルのサン=リュック高等美術学校卒業後、パリにスタジオGinko Architectsを設立した建築家バルバラ・バリュ。個人や企業のクライアントのためにオーダーメイドの空間を設計する。photography: Studio Ginko

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出発点

「私たちにコンタクトしてきたのは、ロンドン生活を経てパリに戻ってくる、赤ちゃんのいるカップル。イギリスでは小さな一軒家に住んでいたので、フランスでも同じような雰囲気で暮らしたいということでした。ブローニュで “個人邸”のような佇まいの小さな建物の中に、各フロア42平方m、2フロアに分かれたスペースを見つけ、彼らは一目で気に入ったそうです。

ただ、この物件をいかすには十分な検討が必要でした。まず屋根組み。一部は露出し、一部が天井板で隠されていました。かなり暗いトーンのニスが、狭く暗い印象を与えていました。何本もの煙道、これも問題でした。一方、床の傷みがひどく、すべて交換が必要だと着工してすぐにわかったのは、最終的には幸運でした。床板を新しく張り替えなければならなかったので、過去の痕跡をすっかり取り払うことになり、ふたつの空間が白紙の状態になったのです」

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玄関

「クライアントはアパルトマンに入った瞬間に”ワオ”とびっくりするような効果を求めていました。屋根組みのある上階ならそれが可能でした。そこで、明るい空間でもある上階に玄関を作ることにしました。玄関には建物の共有階段からアクセスします。

問題は、42平方mの限られた空間にリビング兼ダイニングとキッチンを納めねばならず、玄関にあまりスペースを取れないこと。とはいえ、ダイレクトにリビングに入るという印象を避けるために、玄関を際立たせる必要がありました。そこから、玄関の扉の脇に彩色した壁を設けるアイデアが生まれました。

色は、クライアントから、グリーン系とテラコッタ系に絞ってほしいと指定されていました。そこで、微妙にトーンの違うテラコッタ系の色彩で壁を仕上げることにしたのです。この壁画は棚とキッチンに通じる扉をカムフラージュする役割も果たしています」

230406-mf-studio-ginko-03.jpgビフォー:剥き出しの状態の上階。ここに居間とキッチン、玄関を設えなければならない。photography: Studio Ginko

230406-mf-studio-ginko-04.jpgアフター:キッチンの壁とテラコッタ系色でまとめた壁画で区画された玄関。photography: Studio Ginko

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キッチン

「当初クライアントは、お客さまを招待したり料理をすることが多いからと、オープンキッチンを希望していました。オープンキッチンのほうが、人が集まったときに和気あいあいと楽しめるだろうと。しかし私たちはすぐに、広さのある、独立キッチンに発想を転換しました。たとえば、リビングで仕事をしたり、テレビを見る人の邪魔にならず、かつ視覚的なつながりを保ちながらベビーに食事をさせられる、という実用的な理由からです。

そこで、玄関と連続する形で間仕切りを設け、リビング側に飾り棚、キッチン側に食器棚を設えることにしました。間仕切りの上には、配膳ハッチの要領で、折りたたみ式に開閉できるガラス窓を取り付けています。キッチン内部のレイアウトにはいくつか制約がありました。まずは、ふたつある窓。広さが限られているため、縦長の空間にせざるをえませんでした。設備の面でも、キッチンの一番奥にある給排水設備とボイラーの位置は動かせませんでした。ですからこうした設備関係の機器はすべてこの場所にまとめています。

またクライアントは3~4人で食事ができるテーブルと椅子、そして広々とした調理台がほしいと強く望んでいました。奥の壁に吊り戸棚を取り付け、右の壁は将来のことを考えて、棚を設置するだけにしました。実際に隣のアパルトマンが空く可能性があり、もしクライアントがその部屋を購入したら、この内壁にガラスを嵌めてもいいだろうと考えました。ですから、この壁に吊り戸棚を付けるのは無意味だろうと。収納の扉にはクライアントが希望するグリーン系の色を使っています。リビングと同様に、キッチンにも造り付けの家具を設けています。アーチ状のニッチはマダムが愛するイビザのエスプリ。コーヒーや朝食のセットが入る予定です。冷蔵庫は戸棚の中に隠し、窓の下にも収納を設けています。

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ビフォー:浴室はキッチンになる予定。水道管とボイラーは動かせないため、設備機器の設置場所の選択肢は限られる。

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アフター:長方形の明るいキッチン。設備機器はすべて奥にまとめ、壁側だけでなく、窓の下、そしてリビングとの間のガラス窓の下にも収納棚が並ぶ。photography: Studio Ginko

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リビング

「リビングで最初に行ったのは、屋根組みを白く塗り替えることでした。梁の高さは1.92mで、あまり高くありませんから、梁が主張しすぎると空間が狭く感じられてしまう。白は狭さを感じにくくし、広々とした印象をもたらします。この空間はふたつの部分に分かれています。リビング部分はダイニングだけでなく、キッチンにも面している。これはクライアントの希望でした。ダイニングはリビングに向かっています。

この部屋で特に興味深いのは、制約を逆手に取った点です。ふたつの窓の間に取り除くことのできない煙道とデッドスペースがありました。仕方がないので、カムフラージュするために仕切り壁を作り、その内側にテレビのケーブル類やモデムなどを収納する棚を設えました。両脇の小さな扉からアクセスできるようになっています。壁には、絵画のような気分で、テレビスクリーンを掛けました。この壁は、ダイニングのベンチと並んで、部屋の中で存在感を発揮しています。ベンチには収納が隠れていて、たとえば、リモートワークで使うパソコンや書類などを仕舞っておくことができます」

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ビフォー:屋根組みがむき出しの空間。大きな梁が窮屈な印象を与える。窓の間の煙道もどうにかしなければ!photography: Studio Ginko

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アフター:屋根組みを白く塗り、広々とした印象に。煙道は手前に間仕切り壁を立てて見えないようにした。ケーブル類やモデムを収納するキャビネットの役割も果たしている。表側にはテレビのスクリーンが掛かっている。photography: Studio Ginko

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階段

「スペースが限られているため、威圧感のないコンパクトな階段を採用しました。上階より暗めの下の階まで光が届くように、手すりはガラス張りになっています。踏み板は空間に統一感を持たせるために、床板と同じ無垢のオーク材を使用しています」

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アフター:階段は完全オーダーメイド。床板と同じオーク材の踏み板とガラス張りで控えめな印象。存在感を抑えたデザインで、光が隅々まで行き届く。photography: Studio Ginko

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浴室

「浴室もキッチンと同じ問題がありました。広さも同じで、窓もふたつです。アパルトマン全体の大きさからすると広々とした、スパ風のバスルームです。ここも、手前の窓の下の収納棚の機能を備えた大きなベンチから始まり、洗面台、それから浴槽パネル、シャワールームまで、すべて造り付けです。

シャワールームの壁は光が入るようにガラス張りに。その隣には、大きな戸棚があり、中に洗濯機と乾燥機が隠れています。クライアントは整理整頓を非常に重視していたので、何から何まで考え抜いた設計になっています。たとえばベンチは、子どもたちがお風呂に入る前にそこに座って、服を脱ぎ、脱いだ服をベンチの中に隠してあるカゴに簡単に入れられるようになっています」

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ビフォー:下階の浴室になるスペース。ふたつある窓のことを考慮して、いちから設計プランを立てなければならない。photography: Studio Ginko

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アフター:スパ風バスルーム。左側の壁に沿って造り付けの家具が並ぶ。壁面や窓下の随所に収納を設けている。photography: Studio Ginko

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子ども部屋

「幅2.8m、長さ4.2mの小さな細長い部屋です。リビングにあったのと同じ煙道が通っていて、かつて窓があったと思われる壁の一部に窪みがありました。これらの要素を含むデッドスペースを活かすのはちょっとしたチャレンジでしたが、造り付けの家具はこうした問題を解決するのに非常に適しています。本を仕舞える、グリーンの2段の戸棚つきのヘッドボードがこうして出来上がりました。この子ども部屋には、本棚を設えた窪み部分に、ラジエーター隠しも兼ねたベンチがあります。この発想は今回のプロジェクトのいたるところで応用しています。

最後の課題は、窓に面した長さ4.2mの壁の仕上げです。子どもたちに夢を与える、動物をテーマにしたカラフルな壁画を描くというアイデアを思いつきました」

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ビフォー:下の階には、床面積42平方mの空間に、寝室2部屋と浴室を設えることになっている。photography: Studio Ginko

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アフター:実用的な子ども部屋。長さ4.2mの壁面に賑やかな壁画が。photography: Studio Ginko

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主寝室

「この部屋に関して、クライアントの一番の希望は、すべてが完璧に整っていることでした。ここでも煙道を考慮する必要がありました。棚とローキャビネットを備えたニッチと、大きな造り付けの木製クローゼットで隠すことにしました。反対側の壁にも同じ棚が入っています。

ベッドの正面には大きな窓がふたつ。色は穏やかさを重視して、ベージュとマロンで統一することにしました。ヘッドボードはもともと木製のものを備え付けるつもりでしたが、空間を塞いでしまうので、最終的に考え方を変え、壁に色を塗って、最上部を細いラインで縁取ることにしました」

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アフター:落ち着いた雰囲気の主寝室。収納もたっぷり。photography: Studio Ginko

Studio Ginko Architects
17 rue de Lancry, 75010 Paris
https://studioginko.fr

 

text: Vanessa Zacchetti (madame.lefigaro.fr)

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