7月3日に開幕したウィンブルドン選手権。テニスの四大大会の一つであり、およそ2週間に渡って世界トップレベルのプレイヤーたちの熱戦が繰り広げられる。
ウィンブルドンでは選手たちに、練習・試合ともに全身白の「ドレスコード」が義務付けられていることでも有名だ。これは1884年の女子シングルス部門で初優勝したモード・ワトソンが白いロングドレスをまとってプレイしたことに由来している。
このルールは非常に厳格で、オフホワイトやクリーム色は認められず、ウェアはもちろん、キャプやヘッドバンド、リストバンド、ソックスなどの小物まで、身につけるものはすべて真っ白でなければならない。襟元や袖口への色を使ったトリミングは許されてはいるが、その幅は1センチ以下と決められ、シューズにいたっては靴紐はもちろん、ソールまで白であることが求められている。
そのなかで今年の大会から一つのルールが緩和された。女子選手に限り、スカートやショーツの裾よりも短いことを条件に、濃い色で無地のアンダーショーツの着用が認められたのだ。それは期間中に生理になった選手への配慮からだ。
大会二日目に登場したアリーナ・サバレンカ。
Opening up Tuesday's play on Centre Court
— wta (@WTA) July 4, 2023
Defending champion Elena Rybakina continuing tradition at #Wimbledon pic.twitter.com/aMTw1sfMM3
試合中のエレナ・リバキナ
---fadeinpager---
ことの始まりは昨年の7月。イギリスのテニスプレイヤー、アリシア・バーネットの発言だった。全身白を着る伝統は個人的には好きとしながらも「でも大会中に生理になってしまったらそれだけでも大変なのに、ウェアを汚してしまうかもしれないという心配までしなくてはならないのはとても辛い」と語ったのだ。
ウィンブルドン優勝2度の経験を持つテニス・プレイヤー、アンディ・マレーの母で、自らもコーチを務めテニスアイコンでもあるジュディ・マレーも「全世界に中継されている試合の最中にウェアに血がにじんでしまったら、それは選手にとって最悪のトラウマになることは容易に想像がつきます」とデイリーメール紙で語りバーネットを支援。
ジュディ・マレー。彼女の息子、アンディ・マレーもテニス界の男女格差や人種差別を問題視する発言を厭わない選手としても知られている。
1960年代から20年近くに渡って女子テニス界に君臨した名選手、ビリー・ジーン・キングもこれに賛同。キングは当時の男女間の賞金格差を問題視するなど男女同権運動でも知られ、73年には女子テニス協会を設立、テニスにおける女性たちの環境を大きく改革したことでも知られるレジェンドだ。
---fadeinpager---
ウィンブルドンのセンターコートに立つビリー・ジーン・キング。四大大会においてシングルス、ダブルスで通算39回優勝という驚異的な記録を持つ。「女子選手よりも男子選手が強いに決まっている」とする男性優位主義のボビー・リッグスと対戦してストレート勝ちしたエピソードを映画化した『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2018)で彼女の存在を知った人も多いのでは?
---fadeinpager---
それを受けてウィンブルドンを主催するオール・イングランド・ローン・テニス・クラブは昨年の11月に「選手たちをサポートし、彼らの声を聞いて最高のプレイができるようにするのは我々の務め」として、今年の大会から女子選手の白以外のアンダーショーツ着用を認めた。
「この決定をとてもうれしく思います。私は昨年、白いウェアを汚す心配からピルを飲んで大会中に生理にならないように調整していたので」とイギリスの選手であるヘザー・ワトソンはスカイ・ニュースで語っている。
今年のウィンブルドンでのヘザー・ワトソン。
白以外のアンダーショーツの着用が、生理中であることを示しているようだと躊躇する声もあるなかでワトソンは「私は気にしません。生理はタブーなトピックスではないし、もっと普通に話題にしていいと思っています」とも語っている。
text: Miyuki Sakamoto

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。