新たな提案で炎上?イギリスのクリスマス広告2023。
Lifestyle 2023.11.14
毎年11月になると放映がスタートして、話題を集めるイギリスの各大手リテイラーによるクリスマスCM。しかし今年は例年以上に賛否両論で揺れている。
スーパーマーケットチェーン、マークス&スペンサー(M&S)は他に先駆けて11月1日に発表。俳優のハンナ・ワディンガムやポップシンガーのソフィー・エリス・ベクスター、人気リアリティ番組で知られるタン・フランスらセレブをフィーチャーしているのは例年通りだが、華やかさとゴージャスさを全面的に打ち出したこれまでのイメージとはちょっと違う。
BGMはレイ・ブラックによるミートローフの「I Would Do Anything for Love (But I Won't Do That)」のカバー。
ハンナはメイクアップ用コットンボールを使った子供の工作のような雪だるま作りに夢中になり、ソフィーは書きかけのクリスマスカードをトーチで焼き払ってしまう。タンはツリーのてっぺんにトイレットペーパーの芯で作った天使を飾り、さらにはパーティで楽しむ人たちからボードゲームを奪って投げ捨ててしまう...。
これはこれで可愛いけれども、従来のクリスマスCMと比べるとなんとも素朴。
CMのタイトルは「Love Thismas, Not Thatmas」。人はどうであれ、自分らしいクリスマスを楽しもうという意味だ。
「これを観たすべての視聴者は登場人物のタレントたちがユーモラスに表現してくれたクリスマスのちょっとしたジレンマに共感してくれることと思います」とM&Sのクロージング&ホーム・マーケティングディレクターのアナ・ブライスワイトは語る。
クリスマスの準備にストレスを感じている人が多いという同社の市場調査の結果から、そのプレッシャーから解放されて本当に好きなことだけを楽しみまませんか?といういうメッセージだという。確かにクリスマスカードを送る準備は日本の年賀状のように頭痛の種になったりするし、プレゼントやご馳走のエンドレスなショッピングリストを負担を感じる人は少なくない。
ソフィー・エリス・バックスターは、ジンジャーブレッドハウスを作るために手にしていたトーチで、クリスマスカードを燃やしてしまう。
M&Sからおよそ1週間後の11月9日からオンエアをスタートした、ジョン・ルイスのCMも似たようなテーマなのが興味深い。
広告会社はサーチ&サーチ。イタリアのテノール歌手アンドレア・ボッチェリの歌がシーンを盛り上げる。
おばあちゃんとヴィンテージマーケットに行った少年が見つけたのは「クリスマスツリーの種」。でも蒔いてみたら出てきたのは、皆が知っているツリーとは似ても似つかないハエトリソウのような食虫植物。ハエトリソウはぐんぐんと巨大化し、家族の心中は複雑。でもクリスマスの朝には皆にまた笑顔が戻り、最後には「Let Your Traditions Grow (あなたの伝統を育てよう)」というメッセージが映し出される。
「スナッパー」と名付けた食虫植物と友情が育まれる。
ジョン・ルイスのカスタマー・ディレクターのシャーロット・ロックは「私たちは昔ながらのものから、例えばZoom越しでの家族や友人との再会などの新しいものまで、クリスマスの伝統を心から愛しています。この広告のテーマは家族であり、伝統をぞれぞれ「進化」させることで、それがたとえどのようなものであっても幸せにつながっていくことを訴えています」と説明する。
ジョン・ルイスの市場調査では、人々はパンデミック後は特にクリスマスを多角的に祝うようになったとあり、それが裏付けになっているという。
新しいかたちのクリスマスツリーになりきる「スナッパー」。
しかし、これらを受けて様々な声が上がった。子供達への教育メンターとして知られ「イギリスでもっとも厳格な校長先生」と称されるキャサリン・ビーバルスンは、「M&Sの広告は従来のクリスマスの精神を損なうものだ」と同社への抗議レターをX(旧ツイッター)を通して公開。
ジョン・ルイスの広告も「これまでの広告とは違っていて新鮮で良い」という意見の反面、「不気味過ぎる」「がっかり」という声もSNSで見受けられた。
伝統と革新の融合が得意なイギリスの人々も、クリスマスに関しては保守的なのかもしれない。
しかしまた、近年の厳しいインフレでクリスマスの品々が高騰し、一年で最も大切なお祝いのためとはいえ、各家庭は財布の紐を緩めることにこれまで以上に敏感なのも事実だ。そのなかで「無理をせず、自分らしくクリスマスを祝おう」というメッセージに救われている人も少なくないはず。
またアウトドア・ライフスタイルブランドのバブアーの広告には「羊のショーン」たちが登場。
ぼろぼろになったバブアーのジャケットでは、農夫が冬の屋外で凍えてしまうのを心配した彼らは自分たちなりの方法で修繕する姿を描いて、新しく買い換えるだけではなく直して衣服を長く愛用することを提案している。
伝統の継承は素晴らしいけれども、一方でそこにクリエーティビティを発揮した自分だけのアイデアをプラスして新しいスタイルに仕上げていくのも素敵なこと。どちらも認め合い、誰もがそれぞれのやり方で楽しいクリスマスを過ごせることを祈りたい。
text: Miyuki Sakamoto