SNSに蔓延する危険なダイエット法を専門家がチェック。

糖尿病治療薬を痩せ薬として使ったり、塩入り重曹水を勧めたり、TikTokではとんでもないダイエット法が横行している。

TikTokは減量に関するアドバイスであふれている。そのほとんどは効果がないどころか、健康を害することもある。photography : Tim Robberts / Getty Images

TikTokは、絶対痩せると宣伝する投稿に溢れている。だが効果ないどころか、健康を害するかもしれないものも横行している。フランスの「マダムフィガロ」誌が、栄養学の専門家に意見を聞いた。

TikTokは若者層に絶大な人気がある。2016年に登場して以来、TikTokが生み出した流行は数知れず。それはダイエット法も例外ではない。でもこれだけ情報が氾濫していると、どの情報が信頼できるのか、あるいはただのアマチュアの思いつきなのか、なかなか判別しがたい。米国栄養学会が2022年6月に発表した調査結果によると、栄養に関するコンテンツのうち、プロフィールに医療従事者であることを明記している投稿者は53％に過ぎない。素人の場合、痩身願望をあおるだけでなく、役に立たないアドバイスをもっともらしく述べたり、場合によっては健康を害する情報まで垂れ流したりすることもある。トンデモ健康法のいくつかを紹介しよう。

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オゼンピック

"#Ozempic"というハッシュタグをSNSで見たことはないだろうか。オゼンピックは２型糖尿病治療剤のひとつだ。ところがブラジルや英語圏のTikTok動画のなかには、これを飲んだら痩せたと減量効果を賞賛するものがある。なかには再生回数5億回を超える動画もある。比較的簡単に処方してもらえるオーストラリアでとりわけ人気があり、今年6月には薬が品不足になったほどだった。フランスにもこのトレンドが広がりつつあることを懸念したフランス保健当局は2023年3月1日に声明を発表し、オゼンピックは血糖値の管理が不十分な2型糖尿病の治療薬としてのみ処方されるべきものであると改めて注意喚起した。

フランスの一般医で栄養士の資格も持つファイザ・ボシによると、これはTikTokで横行しているなかでも危険極まりないダイエット法のひとつだ。2型糖尿病でない人が「オゼンピックを服用すると副作用の危険があります。可能性としては消化器系のトラブル、吐き気、嘔吐、下痢などです」とのこと。さらに深刻な合併症が起きる危険もある。「脱水症状や、膵臓が炎症を起こすリスクがあり、インスリンを製造する膵臓の機能低下によって糖尿病にもなりかねません」

幸いなことに、フランスでは「専門医の処方が必要」なため、簡単には入手できない。フランス国立医薬品・保健製品安全庁（ANSM）とフランス医療保険制度では、使用条件を遵守した処方がされているかを確認するため、これまでより厳しい監視体制を導入した。

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塩入り重曹水

ヒマラヤ岩塩と重曹を水に混ぜた飲料がダイエットによいという情報もTikTokではよく見かける。これは、38万人以上のフォロワーがいるスポーツコーチのアルバート・グラモフ（TikTok@yodatheycallme）が2021年9月に言いはじめたもの。痩身効果に加えてセルライトも減少するというのが彼の主張だ。

確かに食用重曹水にはお通じを良くする効果があり、歯も白くしてくれるが、「痩身効果は科学的に確認されていません」と一般医のファイザ・ボシは言う。

しかも塩分が高く、健康には良くないと管理栄養士のジェレミー・ゴルスキは指摘する。ジェレミー・ゴルスキは食行動の専門家だ。「推奨される塩分摂取量は1日5g」で、これを超えた摂取は消化器系に影響を及ぼす。一般医のファイザ・ボシも、「重曹は満腹感を高めてくれますが、TikTokで出回っているようなレシピの飲料で過剰摂取すると、お腹にガスが溜まってゲップが出やすくなり、お腹が張ります。そして最悪の場合、腎臓結石や腎不全の危険性もあります」と警告する。

著作『De la tête à l'assiette (原題訳：考えながら食べる)』(First出版)やインスタグラムのアカウント@menthe_bananeもある管理栄養士のジェレミー・ゴルスキは、奇跡の飲み物さえ飲めば痩せられると考えるのはナンセンスと言う。「食生活を変えず、運動もせずにこの飲料を摂取しても体重は減りません」と断言する。

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フルーツと氷のボウル

シリアルボウルの代わりにフルーツボウルを食べようという「Nature's Cereal（ネイチャーズ・シリアル）」レシピを2021年2月にTikTokで提唱したのが@natures_foodだ。何十万人ものフォロワーがいるこのアカウントでは、ミルクをココナッツウォーターに、伝統的なシリアルをフルーツに置き換えるよう提案する。しかも、フルーツをパリパリにするためには氷を加えた方がいいらしい。

@lowcal_sal I was actually surprised by this... #naturescereal #healthyeating #caloriedeficit #weightloss ♬ Monkeys Spinning Monkeys - Kevin MacLeod & Kevin The Monkey

「まず、このダイエット法は栄養学的にはある程度正しいです」と一般医のファイザ・ボシは言う。市販のシリアルは確かに脂肪分や糖分が多く、場合によっては塩分も高いからだ。「減量したいからシリアルの代わりにフルーツを食べるというのはいいアイデアです。果物のGI値が低く、食物繊維があるので腸の調整作用があります。ただし旬の果物を生で食べた場合です」

だが食べ過ぎに注意と一般医のファイザ・ボシは言う。「フルーツを食べ過ぎると、糖分の摂り過ぎになります。朝食にマンゴーを3つも食べるのなら、シリアルを食べたほうがましです」と警告する。糖分の多い食事に食欲増進作用がある点も心配だと管理栄養士のジェレミー・ゴルスキは憂慮する。しかも「胃が水分で満たされて満腹感はあるかもしれませんが、タンパク質と脂肪が不足しています。これは私たちの神経バランスに影響を与え、結果として不足を補うためにお菓子を一箱食べてしまうような衝動を引き起こすでしょう」

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減量ダンス

TikTokで流行るのは食事療法だけではない。2021年3月、430万人のフォロワーを持つスポーツコーチ@janny14906が「減量ダンス」エクササイズを提唱した。骨盤を前後に大きくダイナミックに、できるだけ速く動かす。提唱者によれば、このエクセサイズはお腹の脂肪を燃焼させ、結果的に痩せるそうだ。

@jannyjewelryus As long as you enjoy the skinny come together.#exercise #fitues #abdominales #abs #gym #fit#workout#ejercicio #core #ejerciciosencasa ♬ 原聲 - janny good things

一般医のファイザ・ボシは、スポーツ習慣をつけるという意味で減量ダンスを評価する。ただ、「ダンスだけで痩せた事例はありません。バランスの取れた食事療法を伴わないと効果はないのです」とのこと。しかもこのダンスで「平らなお腹」になるかも疑問だ。「長期的に平らなお腹を目指すなら、腹部深層筋を鍛える必要があります。このダンスでは鍛えられません。結果を得るには、体幹トレーニングが効果的です」

管理栄養士のジェレミー・ゴルスキも減量ダンスに批判的だ。「スポーツを始めるなら徐々に強度を上げないと。このダンスはいきなり激しすぎます。そもそもダンスの目的は無心に踊ることであって痩せるためではありません」

管理栄養士のジェレミー・ゴルスキによれば、こうしたTikTokでのダイエット法に共通する問題点は、若者、特にティーンがこうした動画を見た後、「痩せなければ生きる価値がない」と思いこんでしまうことだ。実際、「自分の患者で摂食障害の80％はSNSが原因です」と嘆く。

「痩せるための奇跡のダイエット法も、奇跡の食べ物も存在しません」と一般医のファイザ・ボシは説く。痩せたいのなら「栄養バランスの取れた食事療法と自分の感情のコントロール、定期的なスポーツ習慣が必要です」