夫婦関係よりも尊い? 現代における女の友情とは。

Lifestyle 2024.02.15

女の友情なんて滅多に存在しない----長い間そう信じられてきたけれど、いまでもそうなのだろうか? 現代における女友だちは心のよりどころ。自分を見守ってくれ、人との絆のありがたさを教えてくれる存在なのだ。

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女友達は心のよりどころとなる存在。自分を見守ってくれ、人との絆のありがたさを教えてくれる。photography : Maskot / Getty Images

「私から感情を取り去ってください。そうしたら、私は陸揚げされた海藻やカニの甲羅のようになるでしょう(中略)友人らに抱いている愛を、謎めいて魅力的な人生へと私を向かわせるヒリヒリとした衝動を、私から取り去ってください。そうしたら屑として捨ててしまえる無色の繊維でしかなくなってしまうでしょう」

作家ヴァージニア・ウルフが作曲家エセル・スマイスに宛てて友情をたたえる名文を書いたのは、ほかの女性と関わることで、作家の生きづらさがおおいに救われたからだった。

女友だちとはどういう存在なのだろうか? 友情は世界のどんな社会にも存在するが、女の友情はこれまであまり顧みられることがなかった。社会人類学を専門とする人文科学系研究者兼講師のベアトリス・ソミエいわく、「自由で自発的なものであるはずの関係が、ずっと長い間、男性によって押し付けられた規範によって規制されていた。最優先されたのは、結婚が大切という価値観を未婚の女性に植えつけることだった。とどのつまり、彼女の夫となり子どもの父親となる男性との出会いを促すために、女友だちが必要とされたのだ」。

歴史家のアイシャ・ランバダは著作、『La Nuit de noces, une histoire de l'intimité conjugale(原題訳:初夜、夫婦の親密さの歴史)』(La Découverte刊)の中で、初夜の秘密を守るために女性同士が語らうことを制限した結果、男性優位の状況がもたらされたことを指摘している。「友人関係の維持は、政治的、経済的、文化的優位性を意味した。男性にとって友情は、気持ちよりも社会的な関係だ。その特権を独り占めしようと男性たちが考えたのも無理はない」と研究者のベアトリス・ソミエは指摘する。

確かな絆

しかしながら社会が変化すれば友情の形も変わる。

「大家族があたりまえだった時代の女性にとって、身近な女性と言えば、せいぜい姉妹、義姉妹、姪や女性のいとこだった。女性が労働市場に大量に参入したことで、家族や子どもに費やす時間が減り、女性も家の外で友人関係を作ることができるようになった」とカナダ・ケベック州の心理学者ローズ=マリー・シャレは変化を語る。

現代では結婚の44%が離婚に至り、もはや夫婦関係だけが目指すべきゴールではない。そんな状況で、女の友情は反撃に転じた。

社会学者のエヴァ・イルーズは、女の友情がシンボリックな意味で再評価されればいいと思っている。「私たちは、塔に幽閉されたお姫様を救い出すこと、このカエルが王子様でないかと夢見ること、キッチュなキャンドルの灯りの中で互いの目を見つめあうこと、つまらないデートから疲れ果てて帰ってきたりすることに多くの時間を費やしてきた。その一方で、私たちはもっとミステリアスですばらしい、友情という感情をたたえることを完全に忘れていた」と2022年、「フィロソフィック・マガジン」にエヴァ・イルーズは書いている。

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49歳のセリーヌにとって、女友だちは確かにすばらしいものだ。28年来の親友であるローランスは「一生の友」だと言う。ふたりはともに看護師として新生児ケア病棟で出会った。最初は"看護への情熱 "で結ばれたふたりだった。

心理学者のローズ=マリー・チャレストによるとこれは古典的なパターン。友情は共通の価値観や関心事をきっかけに生まれるものだからだ。その上で波長が合い、気持ちが通じあうと確かな絆が生まれる。

「以来、私たちはずっと一緒」とセリーヌは言う。1年半、ルームメイトとして暮らした後、セリーヌがひとり暮らしを始めると、ローランスは向かいに引っ越してきた! 現在もふたりの住居は500mしか離れていない。毎週一緒にヨガに通い、年に2回は一緒に旅行する。しかも「なにもかも、一緒に乗り越えてきた。私の病気も、彼女の母親の死も。私は彼女なしでは生きていけないし、彼女の方もそう」

セリーヌは家庭を築いた。独身のローランスはセリーヌの家族の一員だ。「私たちは健やかな時も病める時も死がふたりを分かつまで一緒!」とセリーヌは冗談めかして笑う。そう、夫婦関係で満たされなくても、友情が満たしてくれる。

29歳のポーリーヌは、「美味しいレストランで食事を楽しんだり、旅行に出かけたり......昔はカップルの専売特許だったけれど、もうボーイフレンドができるまで待つ必要はない」と話す。だって「自分が選んだ家族」である女友だちとそうしたことを楽しめばいいからだ。

ジャーナリストのポーリーヌは数カ月前に彼氏ができたが、いまでも友人たちと変わらず過ごしている。「父と結婚していた母がとても孤独だったのを見ていた。離婚した母は10年間うつ状態になった。母は人生に失敗したと感じていた」とポーリーヌは思い出す。おかげで免疫ができたポーリーヌは、10代の頃から週末も、どこかへお出かけする時も、常に女友達と一緒だった。彼女たちのいない生活なんて考えられない。結束力の強い友人たちは「批判される心配なく、なんでも話せる間柄」そうだ。

自由、平等、ソロリティ

40歳のレスリーも、女友だちとは自然にふるまえるのがいいと言う。「女友だちとなら、なんでも話せる。一生の仲だし、姉妹みたいな関係。どんな感情も受け止めてもらえる。男友だちに腎臓をあげるくらいなら、女友だちにあげるわ」と笑う。

シングルマザーであるレスリーは、妊娠がわかって相手から別れを告げられた。女友だちとの友情のありがたさ、連帯感を実感したのはそこからだ。電話をかけてきてくれたり、なにかと助けてくれたり、超音波検査につきそってくれたり、赤ちゃんだった娘の世話をしてくれたりした。「彼女たちのおかげで救われた」と言うレスリーは、この友情が一生続くことを信じている。「失恋したことよりも、友だちがいてありがたいと思うことの方が多い」と、いまや劇場支配人となったレスリーは語る。

「友情は利害関係抜きの関係」と作家のクロエ・ドロームも言う。彼女はジュリエット・アルマネやローラ・ラフォンらによる共同著作、『Sorité(ソロリティ)』(Points刊)を監修した。作家のクロエ・ドロームによると、友情の良い点は、安定していて長続きすることだそうだ。

この関係は「平等であることが前提。一方でカップル関係というのは家事であれ、給料や余暇であれ、不平等さがつきまとうことが多い」と研究者のベアトリス・ソミエも指摘する。女の友情ならば、嫉妬も独占欲も私利私欲も、勝った負けたもなく、性欲が失せる心配もない。慈愛に満ちたぬくぬくとした友情は、なににも増してありがたい。とりわけ女性にとっては。

経済危機、コロナの蔓延、ウクライナや中東での戦争、テロ攻撃等々が起きる中で、家族や仕事場での絆が揺らいでいる。その代わりに浮上しているのが友情だ。

研究者のベアトリス・ソミエは、「友情は世界的な不安から逃れるための避難所のようなもの」と言う。「真の友人とは、不安に感じていることも含めて、何でも話せるものだ」とも。

作家のクロエ・ドロームは、「最近、友情は愛情よりもはるかに尊いものだと知った。それは独身であることの代償ではなく、名もなき混乱の中でのよりどころなのだ」と語った。

"混乱 "は女性にさまざまな形の不公平を強いる。暴力、性差別、経済的不安等々。だから女性たちは「運命共同体」として連帯感を抱くのかもしれない。「ストレートの男性の友人もいるけれど、性差別に苦しむ人たちとは、自分たちもそれを実感しているからこそ理解し合い、共感できる」と作家のクロエ・ドロームは実感をこめて語った。

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長続きする友情

友情からソロリティへ----1970年代にフェミニズム運動の中で生まれた概念であるソロリティへ友情を昇華させるのはたやすいことだ。フェミニスト向けニュースレター『Les Glorieuses(レ・グロリユーズ)』を発行するレベッカ・アムゼルレムは「友情は苦難の中で育まれるもの。『テルマ&ルイーズ』やアルモドバル監督の映画のようにね」と言う。

表面的に仲良かったり、実はライバルだったり、といったステレオタイプな女友だちの描き方は徐々に減っている。前述のセリーヌは、ローレンスとは「特別な」関係にあることを自覚している。すでに一緒に暮らしたこともあるため、将来ローレンスと一緒に暮らすことだって想定内だ。「大きな家じゃないとダメね。彼女は散らかし魔で、私は片付け魔だから」と笑う。

シングルマザーのレスリーも、パリ近郊のモントルイユにある、高齢女性のためのフェミニスト・レジデンス、メゾン・デ・ババヤガに関心を寄せている。現実主義者のレスリーは、「女性の方が長生き」という点も考慮に入れつつ、年齢も健康状態も異なる友人同士が相手のプライベートを尊重しつつ、ゆるやかに連帯できないか、と考えている。

フェミニストのレベッカ・アムゼルレムは誕生日に親友からカードを受け取った。そこには、レベッカが敬愛するイギリスの作家兼ジャーナリスト、ドリー・アルダートンの言葉が記されていた。「愛について私の知るほとんどは、女性たちとの長年の友情から学んだ」。本当にその通り。

text : Delphine Baue (madame.lefigaro.fr)

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