心に染み込ませておきたい、セックス・ポジティビティについて。

Lifestyle 2024.10.25

性的同意について理解が進んできたなかで、セックス・ポジティビティに触れたい。これは、セクシュアリティに対するスティグマ(負の烙印)に対するアンチテーゼとして生まれた思想のこと。ジェンダーと性科学に詳しいジャーナリスト此花わかがセックス・ポジティビティについて解説する。

そもそもセクシュアリティとは?

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しかし、その前に、セクシュアリティの意味を考えたい。セクシュアリティとは、一言で説明すると「性のあり方」。自分の身体や他者との関係性を理解するために使う言葉である。日本でセクシュアリティを外見や性行為と結び付けて、性的魅力や官能(セクシーやエロ)と混同する人がいるが、まったく違う。セクシュアリティは、性に対する価値観や信念、性自認、性的指向、欲望、人間関係、ジェンダー(社会が作った女性らしさ、男性らしさ)など、私たち自身の性に関するあらゆる要素を包括する概念なのだ。

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セックスは自然なもので、喜びや快楽も含めて自分を知ることだ。

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そういった自他の「性のあり方」をポジティブにとらえ、「性のあり方は自然なもので、セックスの喜びや快楽も含めて自分を知る」ことがセックス・ポジティビティをさす。米・テキサスの性教育者であるグッディ・ホワード(Instagram @askgoody)が非常に上手に説明している。ホワードは「批判されたり、恥じたりすることなく、誰もが自分のセクシュアリティやジェンダーを体現し、探求し、学ぶ場を持つべきだ」という思想がセックス・ポジティビティだという。

ただし、肝に銘じなけばいけないのは、「対等な立場」における「同意」が前提だということだ。例えば、ペドフィリア(小児性愛)はセックス・ポジティブではない。性的同意を理解できるほど成長していない子どもからは本物の同意が得られないから、ペドフィリアは子どもへの人権侵害であり、性的虐待とみなされる。

セックス・ポジティビティをもっとよく理解するにはセックス・ネガティビティの特徴を覚えておきたい。以下に、前述のホワードやエミリー・ナゴスキ博士など世界的に有名なセックスエデュケーターが主張している特徴をまとめてみた。

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セックス・ネガティビティとは?

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① 女性に肌を覆う格好をさせる
② 公共の場で授乳することを恥ずかしいととらえる
③ セックスを恥ずべきものとしてタブー視する。
④ セックスを禁止する性教育、生殖行為だけを教える性教育
⑤ 処女信仰
⑥ スラットシェイミング......性的行動や露出の多い服装を理由に女性を批判する
⑦被害者非難......被害者に落ち度があったから性暴力にあったと被害者に暴力の原因と責任を負わせること
⑧ 女性を「良い女の子」と「悪い女の子」として二極化する
⑨性の多様性や指向性を無視する
⑩性と生殖にまるわる健康を恥だと考える
⑪性的関係にジェンダーロールを強制して持ち込む
⑫自分や他人の体についてネガティブなコメントをする(ボディ・ネガティビティ)

日本はほぼセックス・ネガティブな社会だと言えるのではないだろうか。例えば、女子学生のツインテールやポニーテールを「うなじを見せると欲情的だから」として禁止するブラック校則、緊急避妊薬が性のみだれにつながるような意見を述べた日本産婦人科学会の副会長(当時)、DJ SODAさんが痴漢被害に遭ったときに受けたスラットシェイミングと被害者非難、一向に合法にならない同性婚、「アラフォーがするとイタいファッション」と年齢差別を煽るメディア、女子高生を性的モノ化するコンテンツ、受精は教えるが性行為は教えない日本の教育「はどめ規定」、未成年にレーザー脱毛や美容整形をすすめるコンプレックス広告など......あらゆるセックス・ネガティブな特徴が日本にあてはまる。

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なぜセックス・ポジティブが必要なのかー-?

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対等な立場における同意に基づいたセックス・ポジティビティは、性を「恥ずかしいもの」「秘めごと」とせず、オープンに正しい情報で語ることで、健全な性のあり方を探求する。それは自分や相手をよく知り、お互いに幸せになることにつながる。

EUのなかで、2011年から2021年に出生率増加率NO.1を成し遂げ(1.23→1.61)(※ハンガリー政府の研究所KINCS調べ ※他の先進国同様、2023年はウクライナ戦争などが理由で1.52まで低下した)、婚姻数を2倍にしたハンガリーでは、2010年ごろからセックスポジティブな性教育に力を入れている(2023年の日本の出生率は1.20)。西側諸国では中学3年間で15時間〜30時間ほどの性教育が行われているが、中央ヨーロッパにあるハンガリーは多くの西側諸国よりも内容が豊富な66時間を費やしている。ハンガリーの性教育は、「ファミリー・ライフ・プログラム」の名のもと、年齢により「生物」や「倫理」の授業として、小学校1年生から高校3年生まで継続して行われているのだ。

しかもその内容は、本人が望むなら「女の子はキャリア、子供、夢のすべてを手に入れられる」「性的関係をもつ意味をポジティブに捉える」ことが軸となり、通常の性的同意やセーファーセックスの性教育に加えて、人が人生で直面するあらゆる出来事についてオープンディスカッションで教えているそうだ。そこには、男女平等、家族とのコミュニケーション、親密さ、恋愛・結婚・家族の意味、マッチング・アプリ、性的関係がもつ意味、妊娠、中絶、出産、孤独、大切な人の喪失、SNSとの付き合い方など実に幅広いトピックが含まれている。ただしハンガリーでは、精神的・性的に不安定な未成年には早すぎるとして、LGBTQのトピックスは公の性教育プログラムに入っていない。この点については国内外で賛否両論がある。

一方で、日本は中学3年間で9時間ほどしかなく、性行為は教えられないし、妊娠、性感染症、リベンジポルノや性暴力などから自分を守ることばかり教えられる。もちろんこういった知識は必須。だが、「性行為」や「性的関係をもつ意味」について考えることをしないと、セックスをネガティブに捉えるどころか、セックスに対する恐れをもちかねないのが問題だ。その要因もあるのだろうか、リクルートが20~49歳の未婚男女1200人を対象に行った調査では、3人にひとりに交際経験がなかった。

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性的なレベルで他者と"健全"につながるには、お互いへのリスペクトと理解が必須だ。世界のセックスセラピストのパイオニアだった、性科学者の故ドクター・ルースは「最も重要な性器は耳の間(脳)にある 」と語った。これは、性的関係には精神的・感情的なつながりが必要だという意味だ。だからこそ、私たちが自分の欲望を探求し、理解し、自分をよく知った上でパートナーとオープンにコミュニケーションをとるセックス・ポジティビティという思想が重要なのだ。

人間関係が希薄になっている傍ら、性欲だけをきりとった性風俗や売春、そして女性の人間性を無視したルッキズムが蔓延している日本において、セックス・ポジティビティは単なる個人的思想ではなく、社会的に必要なムーブメントではないだろうか。

text: Waka Konohana photo: Shutterstock

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