「結婚には性的関係の義務が伴うと考えるのは時代遅れ」フランス人弁護士の主張とは?

Lifestyle 2025.02.26

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インタビュー:離婚の際、マダムQは夫との性的関係を拒んだことを理由に、離婚の責任を一方的に負わされた。しかし最終的に欧州人権裁判所が彼女の主張を認め、フランスの対応を問題視する判決を下した。本件について、弁護士ソフィー・スビランが解説する。

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民法には明記されていないものの、「夫婦の義務」という概念は裁判官の解釈に根強く残り続けている。photography: Maryna Terletska / Getty Images

先週初め、欧州人権裁判所はフランスに対し異例の判決を下した。それは、ある女性「マダムQ」の離婚訴訟における処遇を理由に、フランスを有罪とするものだった。この問題の発端は2012年にさかのぼる。1984年に結婚し、4人の子を持つ彼女は、夫が自分や障がいを持つ娘に暴力を振るっているとして、離婚を申し立てた。しかし、夫は「2004年から妻が性交渉を拒んでいる」と反論した。彼女は健康上の問題や、夫からの身体的暴力また言葉による暴力を理由に、2014年には警察に被害届を提出していた。

果てしなく続く裁判手続きの中で、彼女の訴えは次々と退けられた。2018年、最初に審理を担当した家庭裁判官は、彼女の主張を認めず、「病気を理由に夫の欲求を拒むのは正当ではない」と判断した。彼女は異議を申し立てたが、2019年末、ヴェルサイユ控訴院は「結婚における義務の重大かつ継続的な違反であり、夫婦関係の継続は耐え難い」として、彼女に「全面的な非」があるとする離婚判決を下した。さらに2020年、フランス最高裁判所(破毀院)もこの判断を支持し、彼女の訴えを退けた。

女性支援団体「フォンダシオン・デ・フェム」などのフェミニスト団体の後押しを受け、マダムQはこの問題を欧州人権裁判所に持ち込んだ。そして最終的に、欧州人権裁判所はフランスの一連の判決を不当とし、同国に対する有罪判決を下した。

この決定について、「非常に象徴的な判決だ」と語るのは、「フォンダシオン・デ・フェム」のメンバーで弁護士のソフィー・スピランだ。彼女は「マダムフィガロ」のインタビューで、その意義を強調した。

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第212条

ーーマダムフィガロ: なぜこの件を欧州人権裁判所に持ち込むことを決めたのですか?

ソフィー・スビラン: 「フォンダシオン・デ・フェム」は、性暴力撲滅を訴える団体「コレクティフ・フェミニスト・コントル・ル・ヴィオル(CFCV)」など、他のフェミニスト団体と連携し、法的支援を行うことを使命としています。この件は、私たちが長年主張してきた重要な問題を浮き彫りにしました。それは、民法から「夫婦の義務」という概念を撤廃する必要性です。結婚が暗黙のうちに性的関係を義務づけるものであるという考え方は、もはや時代遅れです。それは、私たちが守るべき「同意」と「男女平等」という原則に反するものだからです。

ーー法律では具体的にどう定められているでしょうか?

「夫婦の義務」という概念は、民法には明記されていません。しかし、一部の裁判官の間では根強い解釈が存在します。民法第212条には「夫婦は互いに尊重、誠実、扶助、援助の義務を負う」と規定されており、むしろ「同居の義務」に言及しています。にもかかわらず、これを「性的関係の義務」と解釈する裁判官もいます。しかし、欧州人権裁判所が今回フランスに下した判決は、こうした解釈の見直しを迫るものとなりました。

ーー「夫婦の義務」と「配偶者間の性的暴行」は矛盾しないのでしょうか?

その矛盾こそが問題です。1990年にフランスで「配偶者間の性的暴行」が犯罪として認められましたが、これは刑法上の概念です。一方で、「夫婦の義務」は民法に基づく考え方です。このふたつが共存することで、「配偶者に性的関係を強制すれば犯罪だが、拒否すれば民事上の過失とされる」という矛盾が生じています。これは明らかに理不尽な状況です。さらに、「配偶者間の性的暴行」が法的に認められてからまだ30年ほどしか経っておらず、社会全体の意識が十分に変わっていないのが現実です。例えば、フランス南部のマザンで起きた性的暴行事件の裁判では、多くの被告が「夫が同部屋にいたので、妻も同意していると思った」と証言しました。まるで夫が妻の身体を支配できるかのような発想が、いまだに根強く残っているのです。こうした認識こそが、今回の判決の背景にある問題なのです。

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女性の権利の転換期

ーー離婚の責任を問われた人、例えばマダムQの場合、どのような影響がありますか?

責任を問われると、重大な金銭的制裁が課せられることがあります。これには、元配偶者への精神的苦痛に対する損害賠償や、経済的支援を受ける権利(扶養手当)を失うことが含まれ、特に女性にとっては不利です。なぜなら、女性は依然として男性よりも低い収入しか得ていないことが多いためです。

ーー離婚裁判で断罪される「落ち度」とは、法的にはどのようなものでしょうか? 民法では「忠実義務」について触れていますが......。

この問いには議論の余地があります。もし結婚が必ずしも性生活を意味しないのであれば、忠実義務を強制することができるのでしょうか? 裁判官が夫婦に対して道徳的な基準を適用することには問題があり、その判断の範囲について議論があります

ーーこの件が欧州人権裁判所にまで持ち込まれた要因は何でしょうか?

決定的だったのは、弁護士や女性団体のサポートを受けたマダムQの決意です。欧州人権裁判所に訴えるには、時間やエネルギー、そしてかなりの金銭的リソースが必要です。この判決が彼女の個人的な状況を変えることはありませんが、女性の権利にとっては大きな前進を意味します。

ーー具体的には、この判決から何が期待できるのでしょうか?

この決定は、フランスの裁判官に対して法文の解釈を見直すことを義務付けています。また、重要な議論を呼び起こします。それは、結婚の枠内でもそれ以外の場面でも、誰もが無理に性行為を強制されるべきではないということです。合意は譲れない原則であるべきです。この判決は、性別平等の実現と個人の権利の尊重に向けた重要な一歩となります。

From madameFIGARO.fr

text: Léa Mabilon (madame.lefigaro.fr) translation: Hanae Yamaguchi

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