フランス料理をサポートし続ける、テタンジェの願いとは?
Gourmet 2019.03.22
透明なグラスの底から、細かく立ちのぼる泡。いつだって私たちを幸せな気分にしてくれるお酒といえば、シャンパーニュだ。
シャンパーニュの代表的なメゾンのひとつである「テタンジェ」は、大手メゾンでありながら家族経営という稀有な存在である。そして50年以上にわたり、国際的な料理コンクールを開催しているのをご存知だろうか。シャンパーニュという枠を超えたこのコンクールは、多くのスターシェフを生み出している。
テタンジェの取締役輸出部長クロヴィス・テタンジェ氏と、2018年に開催された「第52回<ル・テタンジェ>国際料理賞コンクール・インターナショナル(パリ)」で優勝した関谷健一朗氏(「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」シェフ)に、テタンジェのシャンパーニュについて、そしてコンクールについての話を聞いた。
テタンジェのエクスポート部門を率いるクロヴィス・テタンジェ氏(右)と、「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」の関谷健一朗シェフ(左)。
―――大手メゾンでありながら家族経営という珍しいスタイルを採るテタンジェですが、創業から四代目の現在に至るまで、受け継がれているスピリッツはどんなことでしょうか?
クロヴィス・テタンジェ(以下、クロヴィス) まず、人を大切にするということです。私たちは自社畑を中心に、契約農家の人たちを大切にし、絆を深めながら品質を高めてきました。クラフトなシャンパーニュといってもいいかもしれません。そして、1本1本のボトルに「テタンジェ」とファミリーの名前を刻むわけですから、創業以来、品質には絶対の自信を持ってやってきています。
―――シャンパーニュを造るのみならず、長年、国際的な料理コンクールも主催していらっしゃいます。その目的は何でしょう。
クロヴィス このコンクールは、類稀なる食通であった創業者(ピエール・テタンジェ)への敬意を込めて、二代目(クロード・テタンジェ)がスタートさせました。フランス料理とフランス文化を世界に、そして次の世代に伝えていく役割を担っています。これはコンクールの始まった1967年以来、変わることない目的です。最初は2~3カ国の参加でしたが、いまや毎年10カ国ほどで予選が行われるという、まさにインターナショナルなコンクールです。
―――関谷シェフに聞きます。テタンジェというシャンパーニュメゾンがこうした国際コンクールを主催することについて、参加者としてどうお考えですか?
関谷健一朗(以下、関谷) クロヴィス氏が言うように、真剣にフランス料理界のためにやっていらっしゃるコンクールなんだと思いました。というのも、これは、「シャンパーニュに合う料理を作りましょう」というコンクールではないのです。事前に、コンクールで作る料理に使える材料が明確に記された紙が配られるのですが、そのリストにすら、シャンパーニュは入っていなかったんですから! 驚きましたね。自社のシャンパーニュを広めるとか、そうした枠を超え、本気でフランス料理の未来を考えたコンクールなのだと思いました。
―――日本は早い段階からこのコンクールに参加していますね。
クロヴィス はい。レベルの高いフランス料理人が数多くいることは、もちろん大きな理由です。さらに、国内での予選をするための会場を始め、規模の大きなコンクールだけに、どの国でも簡単に参加できるわけではありません。日本は1984年開催の第18回で初めて優勝者を出し、関谷シェフが2回目の日本人優勝者となります。
「第52回<ル・テタンジェ>国際料理賞コンクール・インターナショナル(パリ)」で優勝を果たした関谷シェフに贈られたトロフィー。右はシャルドネをメインに、ピノ・ノワールやムニエをブレンドした「ブリュット レゼルヴ」。1500ml¥16,200、750ml¥7,236、375ml¥4,320/テタンジェ(サッポロビール)
―――関谷シェフの師匠であるジョエル・ロブション氏も、1970年にこのコンクールで優勝を果たしています。2018年、ロブション氏が亡くなった年に優勝したことに、関谷シェフは感慨深い気持ちもあると思うのですが。
関谷 はい。このコンクール参加のため2018年春から活動しましたが、2018年5月にコンクールに出たい旨を伝えると、自身もかつて出たコンクールですから、ダメとは言いませんよね。ただ、「勝てないならやるな」と言われました。その強い言葉は、厳しかった師匠らしいと思いましたね。ロブションという名を背負ってやるという覚悟で、自分は「やる」と答えたんです。
―――日本での予選と違い、フランスという異国での本戦は、緊張感もかなりのものだと想像します。そんな中で力を出しきりましたね。
いままでいくつものコンクールに出ていますが、実は今回に限って、自分でも驚くほど緊張しなかったんです。結果的には、それがよかったのかもしれない。緊張すると味覚も変わってしまうから。ただ、コンクールとはいえベースはいつもと同じです。コンクール用の料理というのはなく、おいしい料理をお客様に召し上がっていただくという気持ちです。普段の厨房でシェフという立場は、あぐらをかこうと思えばかけてしまうし、他人から評価されにくい。だからこそ、自分自身はコンクールのような評価される機会がほしいし、部下に対してのアピールにもなると思っています。今回、優勝という結果が残せたことは、いろんな意味でとてもうれしい。
―――今回の、関谷シェフの優勝した料理は召し上がりましたか。どんなお料理だったのですか?
クロヴィス 実はまだ食べていないんです。テーマは、舌平目を使った料理でしたね。いつか食べさせてくださいね。
関谷 もちろんです。コンクールの料理のテーマは、前日の夜に発表されるんです。3つの封筒から無作為にひとつが選ばれ、それに舌平目と書いてあった。フランスの舌平目は分厚く、日本のものとは異なりますが、好きな素材で、得意な素材でもあったので、よし!と思いましたね。ちなみに残りのふたつの封筒には、スズキとホタテと書かれていました。そこまで見せてくれるなんて、公平なコンクールだなという印象も持ちましたね。
コンクール受賞料理「舌平目のターバン仕立て」は、期間限定で「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」で提供していた(現在は提供終了)。
―――クロヴィスさんは、テタンジェのシャンパーニュはどんなお料理に合うとお考えですか。
クロヴィス テタンジェのシャンパーニュは、すべてにおいてシャルドネに力を入れています。シャルドネのもたらすミネラルとフィネスは、フェミニンでピュアな印象を作ります。ですから、幅広い料理に合うと思っています。料理を邪魔せずサポートすると言えばいいでしょうか。女性の顔を思い浮かべてください。顔そのものが料理。メイクがシャンパーニュ。本来のよさをより引き立て、サポートするのがシャンパーニュの役割です。
―――おふたりがシャンパーニュを飲むのはどんな時ですか。また、みなさんにシャンパーニュを飲んで欲しいシーンはありますか?
関谷 何と言ってもシャンパーニュは泡が美しい。あの泡に、何か思いが詰まっているような気がします。そして見ていると、異空間に行けるような気持ちになりますよね。ですから、レストランでの最初の一杯にはやはり最適だと思う。それまでの時間からの切り替えを助けてくれると思います。
クロヴィス そう、その通り! シャンパーニュはとてもポジティブなお酒です。ロマンティックなお酒でもあります。私たちは、幸せ、愛、夢を込めて作っているし、それを運びたい。高級料理だけでなく、ピッツァや生ハムと合わせてもいい。いい仲間と一緒にシャンパーニュグラスを傾ける、その瞬間を楽しむのが大切だと思っています。飲めば幸せになる魔法の薬。テタンジェのシャンパーニュが皆さんにとってそんなお酒であるといい。そんな願いを込めて作っています。
100%シャルドネで造られる、テタンジェを代表するシャンパーニュ「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」。口に含むと滑らかで生き生きとしており、グレープフルーツとかすかなスパイスの風味がする洗練された味わいが特徴だ。¥23,760(2016年ヴィンテージ)、¥24,840(2017年ヴィンテージ)/テタンジェ(サッポロビール)
www.sapporobeer.jp/wine/taittinger
●問い合わせ先:ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション
tel:03-5772-7500(受付時間:11時~21時)
www.robuchon.jp/latelier
texte:CHIEKO ASAZUMA