江戸の食文化と料理、再発見。#03 香魚とも呼ばれる夏の味覚、鮎の季節が到来。

Gourmet 2020.06.26

現代日本の食文化の基本が形作られたといわれるのが江戸時代。季節ごとの食材や行事と結びついた江戸の食文化や料理について知れば、食事の時間がもっと楽しく、幸せなひと時になる。連載「今宵もグルマンド」をはじめ、多くのグルメ記事を執筆するフードライターの森脇慶子が、奥深い江戸の食の世界をナビゲート。今回は、夏に旬を迎える日本の代表的な川魚、鮎をフィーチャー。


塩焼きだけではなない、江戸の鮎料理のバリエーション。

万葉の昔から、夏の訪れとともに日本人の舌を楽しませてきた川魚「鮎」。
1年でその一生を終えることから“年魚”、また、スイカやキュウリにも似た香りを漂わせることから“香魚”とも呼ばれている。

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鮎の旬は6〜8月。いまでは資源保護のために11月〜5月は禁漁となっている場所が多い。

古来より、鮎といえば塩焼きが常套だが、保存のため塩漬けや酢漬けなどにすることのほうが多かったかもしれない。ことに「鮎鮓(あゆずし)」は、最も古人に親しまれたようで、あの源頼朝や織田信長もその味を愛でたようだ。この鮎鮓、江戸時代には、尾張藩の献上品として将軍家や諸藩に配られていたという。当時、尾張名古屋と美濃岐阜を結ぶ岐阜街道は、「鮎鮓街道」、「御鮨街道」とも呼ばれ、長良川で取れた鮎は岐阜町の鮓所で鮎鮓に調整され、加納新町岐阜問屋で宿継ぎをしてから笠松町の問屋に運ばれ、その後、東海道を下って将軍家に献上されたという。月に6回も運ばれたこともあったとか。

ちなみに、鮓といってもこちらは生熟鮓。鮒ずしなどと同じく鮎を米飯と塩で漬け込み乳酸発酵させたもの。歌舞伎の『義経千本桜にも登場するほどだから、江戸時代にはよく知られた味だったのだろう。江戸時代になると、この鮎鮓のほかにもさまざまな鮎料理が生まれたようで、江戸初期に刊行された『料理物語』には、鱠(なます)(*1)、汁、刺し身、すし、焼きて、かまぼこなどの料理が記載されている。

*1 鱠:魚肉を細く薄く切り、酢を基本にした調味料で和えた料理。

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将軍が鮎を独り占めしていた!?

この鮎をことのほか好んだのが、あの8代将軍徳川吉宗。この時代、江戸近辺のブランド鮎といえば、多摩川の鮎。なんと吉宗は、この多摩川を御留川(おとめかわ)(*2)に指定。将軍家以外は鮎を取るべからず、のお触れを出し、ここで取れた鮎を独り占めにしてしまったというから、よっぽど好きだったのだろう。

現在のように交通手段が発達していなかった時代のこと。鮎は専用の舟形の竹籠に殺菌作用のある熊笹とともに入れ、馬の背に乗せて運ばれたそうで、夜を徹して運んだのだろう、夕方に多摩川上流の羽村、福生を出た上納用の鮎は、翌日の早朝には江戸城に納入されたという。ちなみに、吉宗は8月末〜9月の初秋にれる子持ちの鮎、いわゆる落ち鮎を好んで所望していたそうだ。

*2 御留川:領主の漁場として、一般の漁師の立ち入りを禁じた河川。

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貴重な天然鮎を、炭火でじっくりと焼き上げる。

たでの葉(外苑前)

かつては、全国の河川でれた鮎。だが、近年ではダムによる自然破壊や水質汚染などで天然鮎は激減。半天然と呼ばれる養殖の鮎を出す和食店も多いなか、正真正銘の天然鮎を味わえるのが、外苑前「たでの葉」だ。

中華料理人を目指しつつも路線変更。故郷熊本の鮎とジビエの店を始めた小鶴清史さん。「自分にしかできない料理を極めたいと考えた時、小さい頃から食べてきた父の釣る鮎のことを思いだした」のだとか。いまは、その父親が地元の漁師を束ね、鮎を送ってくれているそうだ。

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炭火焼きが水分の抜け方がいちばんよい、と小鶴さん。鮎の向きや炭火からの距離を丁寧に調整しながら焼いていく。

「球磨川の支流、川辺川の鮎です。最上流でっているので質はピカいち。日本一おいしい鮎だと思っています。熊本の鮎は(体型が)大きめで、その分味が濃いですね」と小鶴さん。その鮎を串に刺し、炉端よろしく炭火でじっくり近火の強火で焼いていく。皮はパリッとさせつつも、身には水分が残るよう心持ちしっとりと焼き上げるのが小鶴流。焼きたてにかぶりつけば、鮎特有の芳香が鼻に抜けていく。スイカともキュウリともたとえられる、夏の青い川の香りだ。ホロリとしたその身は淡麗にして旨味豊か。舌に残る余韻が、短い夏の美味を教えてくれる。

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料理はおまかせコース¥13,000のみ。鮎の塩焼きは1人前2尾で、写真は2〜3人前を盛り合わせた様子。仕入れ量によっては追加注文(1尾¥2,000〜)も可能。

たでの葉
Tadenoha

東京都港区南青山3-2-3 ダイアンクレストビル2F
tel:03-6884-0612
営)日ごとに営業時間が異なります。
休)日、祝
*予約サイトOMAKASEより要予約。

※現在、豪雨被害に遭った熊本南部の人吉・播磨地方の復興支援のために、熊本の食材を使った惣菜を販売中。寄付金として通常料金から割り増しして販売、売り上げの全額を寄付します。

惣菜:
●熊本県川辺川産 鮎のおやこ和え 100g
通常¥2500→¥3000

●熊本県球磨地方産 猪の時雨煮 100g程度
通常¥700→¥1000


ご購入いただいた方にお名前(ニックネームや匿名希望も可)を伺い、寄付完了後、Facebookにてご購入いただいた方のお名前を明記の上ご報告させていただきます。


受付期間:実施中〜なくなるまで

受取日:営業日(月〜土)の13時〜17時の間
*支払いは現金のみ。


申し込み方法:
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photos : KAYOKO UEDA, texte : KEIKO MORIWAKI

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