フランスで発酵食品が人気! その効果は?
Gourmet 2021.04.01
韓国のキムチ、コンブチャ、ココナッツヨーグルト…いま、フランスで発酵食品が人気を集めている。人類古来の食物保存技術である発酵は健康維持にも効果を発揮する。詳しく説明しよう。
古来からの保存テク。発酵食品には様々な健康への利点が。 photo : Getty Images
フランスで人気のテレビ番組「トップシェフ」を見ている人なら、おそらく気づいているだろう。今年の挑戦者たちが毎回ほぼ必ず料理に使っている食材がある。そう、ピクルスだ。
酢漬け野菜は世界中に数ある発酵食品の一種。フランスではここ数年、発酵食品がシェフや食の専門家たちを魅了している。雑誌『6000万人の消費者』の最新増刊号「食事と健康」も、数ページを割いてこのテーマを扱っている。
同誌によると、フランスは発酵食品の新製品の数で世界記録を達成したという。栄養面で様々なメリットがあり、とくに腸内フローラを改善する効果もあるという発酵食品。いったいどんな秘密が隠されているのだろう?
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発酵食品とは?
発酵食品は私たちの食卓に上る食材の大きな部分を占めており、世界には3500もの品目が存在する、と語るのは、微生物学者のフローランス・ヴァランス。「動物性か植物性かに関わりなく、ほぼすべての食材が発酵食品の原材料になります。たとえば、牛乳、穀物、野菜、果物、豆類…」と、フランス国立農学研究所国際微生物資料センター所長であるヴァランスは列挙する。食品ではどんなものがある? おなじみのシュークルートに、ピクルス、ヨーグルト、オリーブ。それから乾燥ソーセージ、チーズ、ワインもそうだ。
「酸素のない状態で、細菌や酵母、一般的にカビと呼ばれる糸状菌などの働きによって食物を変化させるのが発酵です」と微生物学者は説明する。
起源は紀元前1万年にまでさかのぼるという発酵は、食物の保存性を高める優れた加工方法。微生物が食物に含まれる糖分を分解することで、乳酸、酢酸、プロピオン酸などさまざまな種類の酸やアルコールが生成される。それらが病原菌の生育を阻害し、食品の腐敗を防ぐというわけだ。
免疫と消化の味方
発酵食品には多くの栄養成分が含まれている。「食物を発酵させると、糖質などの分子が分解され、人間の生命維持に欠かせないビタミンやミネラル、抗酸化物質が作られます」と、ヨーロッパ食事療法・微量栄養学研究所所長で、『微生物叢の健康のために一人ひとりに適したレシピ』(1)の著者の一人であるディディエ・ショスは話す。
この作用を間接的に確認できるのがたとえばエメンタールチーズだ。「エメンタールに穴が開くのは細菌の仕業。そのおかげでビタミンB12が作られるのです」と前述した微生物学者のヴァランスは解説する。生成される栄養素はそれだけではない。「ビタミンB2やB9、短鎖脂肪酸、抗菌さらには抗がん作用のあるプロバイオティクスも含まれます」
発酵食品の健康効果は分離株による試験管内、および生体内の実験以外では科学的に証明されていないが、こうした微生物の多様性が人間の第2の脳と呼ばれる腸の環境改善に及ぼす影響は科学者の間でも注目されている。「発酵の過程で食物の事前消化が行なわれ、体内での消化を助ける役割を果たしている」とショスは説明する。その一例がヨーグルト。ヨーグルトに含まれる主要な2種類の細菌が消化不良の原因となるラクトースを分解してくれているのだ。
クラマールのアントワーヌ=ベクレル病院肝臓胃腸・栄養科科長で、『ストレス、過敏症、うつ…解決の鍵は体内微生物?』(2)の著者であるガブリエル・ペールミュテールによると、発酵食品には「プロバイオティクス効果」もあるという。プロバイオティクスとはこうした「健康にいい細菌」の総称で、サプリメントで摂取するのが一般的。体内の微生物叢、つまり腸内フローラのバランスを整えるのに役立つ。「こうした微生物にはさまざまなレベルで炎症を抑制する効果があります。免疫や消化に効果があり、腸壁の菲薄化、糖尿病、高コレステロール血症、関節炎にも有効です」
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選び方は?
食料品店の棚を前にすると、あまりにたくさんの食品が並んでいて、いったいどれを選んだらいいのかと途方に暮れる。しかし胃腸科医のペールミュテールが強調するように、発酵食品の中には身体に悪影響を及ぼすものもあるから、まず選択肢から排除できる。
「乾燥ソーセージには、消化管に有害な乳化剤や硝酸塩が含まれています。ワインやビールなどのアルコール発酵から生まれた食品も避けるべきです。アルコールは腸壁の菲薄化や、肝臓の障害を招く要因です」
これらを除けば、大部分の発酵食品には甲乙つけがたい利点がある。「いろいろなものを摂るように心がけましょう」とヴァランスは力を込める。「2種類の細菌を含むヨーグルトを食べるのと、何十種類もの細菌や糸状菌や酵母を含む生乳のトムチーズを食べるのは、別のことです」
発酵食品のなかには手作りできるものもあるが、スーパーやオーガニック食品店で市販されている製品は食品表示に注意を払って。「ピクルスやしょうゆのような食品は塩分過多に気をつけましょう。心血管疾患のリスクを高める恐れがあります」と胃腸科医は指摘する。
大量生産製品の場合、保存加工を施す過程で食品の質が損なわれることもある。「加熱殺菌や低温殺菌された食品には、生きた微生物はもはや含まれていませんから、微生物がもたらす効能も期待できません」」とヴァランスは付け加える。
食べ方は?
シュークルートにとびつく前に、いくつかのアドバイスに耳を傾けておこう。微量栄養学者のショスは、自分の体質に合うかどうかがまず肝心だといい、1日1~3食品程度から徐々に試してみることをすすめる。
「発酵食品は体内に入った後も発酵を続けます」と言うのは胃腸科医のペールミュテール。「食べ慣れていない場合、とくに腸が過敏な人は、腹痛を起こす可能性があります」
患者にアドバイスするときは、初めはハードタイプの若いチーズ(エメンタール、コンテ、ミモレット)のように発酵度の浅い乳製品から試すといいと勧めている。ただし「脂肪が多くカロリーが高い」ので量は控えめに。
あるいは「アジアで長生き食材として知られている」しょうゆ、キムチ、味噌汁などの乳酸発酵食品もおすすめだ。栄養士のソルヴェグ・ダリゴ・ダルティネは料理のバリエーションを広げるのにこうした食材を使ってみることをすすめている。たとえば、味噌風味のビネグレットソース、ニンジンやビーツのピクルスをスモークサーモンに添える、スープやサラダに発酵野菜を入れる、デザートはスキルヨーグルトのフルーツソースがけなど。
最後にもうひとつ、ヴァランスからのアドバイス。スーパーで購入するにせよ手作りするにせよ、生きた微生物の効能を試してみたければ、発酵食品はなるべく早く消費するように。「チーズのようないくつかの食品を除いて、乳酸発酵させた野菜やヨーグルトなどの発酵乳製品に含まれる微生物は、消費期限が近くなると作用が弱まります」
(1)Didier Chos, Solveig Darrigo Dartinet共著『À chacun ses recettes pour un microbiote en forme』Solar出版刊
(2)Gabriel Perlemuter著『Stress, hypersensibilité, depression…Et si la solution venait de nos bactéries ?』Flammarion出版刊
texte : Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)