南のまな板、東のテーブル 季節のセミドライフルーツと、ロワールの土地に根差した白ワイン。

Gourmet 2021.10.28

沖縄で創作料理のレストラン「胃袋」を営む関根麻子さんと、自然派ワインを愛し、ワインショップ「bulbul」を始めたアタッシェ・ドゥ・プレスの鈴木純子さん。おふたりのコロナ禍での手紙のやり取りを、こっそりのぞき見しました。今回の手紙の話題は「掘り下げる」ことについて。不安を感じながら、深く突き進んでいった先にふたりが見出したものとは? ロワールの土地に根差した白ワインと、長い夜のお供にぴったりのセミドライフルーツのレシピをご紹介!

まだまだ蛍がピカピカな南より

じゅんこさん、アルザスの思い出話をありがとう! あぁ、いつかご一緒させて欲しい。自然の中でダンスを舞い、ワインを飲む。そんな時期がやってくることを希望しています。夢じゃないね、きっと。状況緩和の10月、4ヶ月以上ぶりにワインを開けました。泡でもないのにわざとぽんって音出してコルクを抜いた。小さな祝いの音、カウンターの中で思わずガッツポーズ。ただただ嬉しかった。見られたかしらん、お客様に。その日お出ししたワインは2杯のみだったけれど、私にとって特別な2杯でした。


写真 2021-10-26 9 05 39.jpgお店をかたどる頼もしいメンバーのひとつとしてワインがあります。お酒があり、料理があって、目の前に広がる群青の森や音楽、絵、スプーンひとつも、そこにあるというだけで嬉しい。ささやかに手を添える程度の自分がいて、オーディエンスではない、大事なメンバーと言えるお客様。皆で瞬きを呼応し、奏でる時間。ドタバタの日も、お祝いの日も、その時間だけの共同作品だなぁと日々感じます。各々、次の記憶へと続く。

前回の手紙で、友人たちが自らを掘り下げる作業をしていて、私もそのさなかと綴りました。
今年は悩みも失敗も多々でした、とほほ。ひとりで営むことで自己完結になりがち。友人たちと顔を見合わせ、ああだこうだと話し込むこともままならなかった。けれどもそんな時期が訪れたのだな、それなら味わい尽くそうと思いました。

潜っていくうちに、ひとりの世界ゆえか不安になり、地上に戻りたくなる。それでももぐらのごとく深く進むと、あるとき他の人や物事につながっていく層にたどり着くのです。安心感がある。そこからは行きつ戻りつつも、縦横無尽に行けるような気がしました。命名もぐら掘り、な、さなか。

じゅんこさんの言う自由なワインの話とは違うのかも?ですが、この層からのもぐら堀りが、私のいま感じる自由なのかなぁとぼんやり思ってます。

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あらら、話がもぐらの吐露に。。
そうだ、この話の流れで、お客様からいちばん作り方を聞かれる定番おつまみのレシピを送ります。アレクサンドル・バンの「ネゴスワイン」とともに、今夜も楽しいワイン時間を!

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鶏とカシューナッツのペースト 季節のセミドライフルーツ

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⚪︎スターフルーツ(もしくは季節のブドウ、パイン、いちじく、プルーンなどお好きなものを)
⚪︎脂身のない鶏肉の部位(胸肉の皮を外したものや、ささみなど)
⚪︎カシューナッツ
※ 鶏肉:カシューナッツ=1:3くらいの分量
⚪︎カラシナシードの酢漬け(粒マスタードでOK)適量
⚪︎塩、オリーブオイル少々

1 好きな形に切ったフルーツを110℃〜130℃くらいの温度で様子を見ながら1時間ほどセミドライに仕上げる

2 ひとつまみの塩を入れたお湯で煮立てないよう、ゆっくり鶏肉を茹でる

3 中まで鶏肉に火が通ったら、フードプロセッサーにカシューナッツ、少しほぐした鶏肉、粒マスタード少々、茹で汁、オリーブオイルを入れて、がががーっと回す。固いようであれば茹で汁を足し、好みの滑らかさにする。塩で味を整え出来上がり。

3 セミドライフルーツとペーストを一緒に盛る。ソフトなチーズがあればなお最高です。

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ピクニック日和な秋晴れが続く東より

あさこさん、お手紙をありがとう。
4ヶ月以上ぶりに空けたワインの音、ここ東京にいる私にも伝わってきましたよ(笑)。
私も今夜は、ワインの栓を音を立てて抜き、お祝いに換えようと思います。そしていつか、葡萄畑のなかでも一緒に。

あさこさんの言う、もぐら堀りの時間。私はコロナ渦の数年間前から続いていたんだと思いました。コロナ渦、今年3月にワインショップをオープンする前のお話。

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自然派ワインを知るには、彼らの土地で造り手に会うことが大事だと直感し、2011年からはじまったライフワークの造り手訪問。畑やカーヴで会う彼らは、少しほつれた作業着で迎えてくれ、まさに“農民”の佇まいにはっとしたことを覚えていて。自然に寄り添い、土地をリスペクトし、家族や仲間たちとの時間を何より大切に。自身が選んだ大変な日々を、なおかつ心から満足していること。豊かに生きるってことを、彼らは言葉を使わずに教えてくれた。

イチ飲み手の私をただただ温かく迎え入れ、一緒にワインのブラインドをしたり、ごはんをふるまってくれたり、寝床を提供してくれたり。イチ飲み手である私は、彼らにお返しができず、帰路はいつも忸怩たる思いを抱えてた。どうやってワインを自身の生業にするのか。そこからの数年間で、イメージは浮かんだとはいえ、実行に移すなんて考えられない毎日を送っていたんです。

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そのなかの、コロナ渦。多くのコト・モノが変容し、世の中の価値観が変わっていくのを感じながら、新しいこと……ワインショップを始めるならば、きっといまなのだろうと。ワインを通して造り手の思いや自然派ワインの世界を伝えられる……とても幸せな仕事だと、いまは感じています。

これが正解だったのかは、もちろんまだわかりません(笑)。でも、根っこが繋がっている同士たちと、より良き時間を信じて進むことが大事と信じて、ね。

もぐら堀り仲間、遠いあさこさんとも繋がっていること、心強く感じています。

今回のワインは、アレクサンドル・バンのもの。「ジュンコは親友だから」と言ってくれる彼には、良くそんな相談をしていたものです。収穫減が続いたアレックスが導き出した選択は、自身の好きな生産地のブドウでワインを造ること。自然とともに仕事をすることは、こんなリスクとも背中合わせですが、どんな環境にも受け入れ、しなやかに自身の道を進む彼の姿に、いつも勇気づけられます。彼のワインを音を立てて開けつつ、あさこさんが届けてくれたレシピを楽しみたいな。

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ワイン名 :キュヴェ ヌメロ・ソワサント・ユイット 2018 / Cuvee No.68
ドメーヌ名:アレクサンドル・バン / Alexandre Bain
エリア:ロワール
品種:シルヴァネール、リースリング、ピノ オーセロワ、ゲヴェルツトラミネール(アルザスのビオディナミ生産者からの買いブドウ)
黄白桃や白系の野花を思わせるような繊細なフレーバー。冷やし目からスタートすると、時間の経過とともに蜂蜜のような甘いリッチなニュアンスや、ダシ系の優しい果実の旨みの広がり変化を楽しめます。ドメーヌ物のソーヴィニヨン・ブランの澱の上で熟成させたこともあり、ネゴスでも彼のアイデンティティが伝わってくるワインです。

関根麻子 Asako Sekine
2000年に沖縄に移住、2014年南城市にレストラン「胃袋」をオープン。移住20年以上となるが、沖縄の土地や自然に未だ新鮮な瞬きを日々もらっている。残りものには福があると、日記のような瓶詰めをこしらえる毎日。
Instagram: @ibukuro_okinawa

鈴木純子 Junko Suzuki
フリーのアタッシェ・ドゥ・プレスとして、食やワイン、プロダクト、商業施設などライフスタイル全般で、作り手の意思を感じられるブランドのブランディングやコミュニケーションを手がけている。自然派ワインを取り巻くヒト・コトに魅せられ、フランスを中心に生産者訪問をライフワークとして行ういっぽうで、ワイン講座やポップアップワインバー、2021年3月末よりワインショップ「bulbul」をスタートし、自然派ワインの魅力を伝えている。
Instagram: @bulbul_du_vin

 

text and photos: Asako Sekine, Junko Suzuki

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