アップダウンの激しい2011年の気候が育んだ、「クリュッグ 2011」の美しさとは?
Gourmet 2024.03.31
"世界最高峰"と謳われるシャンパーニュメゾン、クリュッグから新ヴィンテージ「クリュッグ 2011」がこの4月に登場。6代目当主のオリヴィエ・クリュッグがその魅力とメゾンのヴィジョン、そして最新の取り組みを語ってくれた。
シトラスやアプリコットなど、フルーツキャンディのような華やかな香りがグラスから立ち上る。奥からハーブの香りが顔を出し、甘やかな香りに涼しさを添えている。味わいは芳醇で奥深く表情は豊かで、クリュッグ 2011の美しさにたちまち魅了される。クリュッグ6代目当主のオリヴィエ・クリュッグは、2011年というヴィンテージについてこう語る。
「2011年は気候が安定しない年でした。春に訪れた夏のような暑さ、夏の降雨と冷涼な天候など、"アップダウンの激しい年"だったのです。ですが、出来上がったキュヴェは素晴らしく、結果、ふくらみのあるスタイルに仕上がりました」
ちなみに、メゾンのテイスティング委員会が2011年ヴィンテージにつけたニックネームは「活き活きとしたふくよかさ」。暑い年が生み出したピノ・ノワールの芳醇さが美しいストラクチャーをもたらし、酸を保ちつつも理想的に熟したシャルドネがエレガントなアロマを吹き込んでいる。そしてムニエがみずみずしいフレッシュ感を与えている。
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クリュッグは1843年にシャンパーニュ地方のランスに設立されたメゾンで、創設者ヨーゼフ・クリュッグの「どんな気候にも左右されず、最高品質のシャンパーニュを造る」という夢と哲学のもと、メゾンのフラッグシップであり、複数年のワインをブレンドして造られる最高峰のシャンパーニュ、クリュッグ グランド・キュヴェを世に送り出してきた。ヴィンテージに左右されない、芸術性とクラフトマンシップを兼ね備えたハーモニアスな味わいは、常にオーケストラの協奏曲にたとえられ、多くの"クリュッグラヴァー"を生み出している。
だが、ヨーゼフの哲学に沿いつつ、ヴィンテージを超えた"シャンパーニュの最も寛大な表現"にこだわるクリュッグが単一年のブドウで造る"ヴィンテージ"にも力を入れるのはなぜなのか。オリヴィエ・クリュッグはこう話す。
「創設者のヨーゼフ・クリュッグは『優秀なメゾンは、高品質のシャンパーニュをふたつのみ造り出すべきである』と考えていました。そこで、複数年のワインをブレンドしたクリュッグ グランド・キュヴェだけでなく、その年の気候を表現するヴィンテージも造ったのです」
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また特筆すべきは、クリュッグが音楽と縁の深いメゾンであることだろう。その味わいがしばしばオーケストラにたとえられることから、国内外の音楽家たちとコラボレーションし、シャンパーニュと音楽が織りなす至高のペアリング体験「KRUG×MUSIC」を提案している。たとえば、一昨年の坂本龍一とのコラボレーションは話題を呼び、いまもワインと音楽の世界で語り草となっている。
今年、メゾンが「KRUG×MUSIC」に招聘したのは、日本やドイツ、韓国、イタリア、香港の5人の世界で活躍する音楽家。それぞれがクリュッグ 2011にインスパイアされた楽曲を製作している。その中で「プリズム」を作曲した沖野修也はこう語る。
「ブドウを育む太陽と雨は、虹を生み出します。この虹にクリュッグ 2011を重ね、クリュッグならではの自然とともにあるエレガンスを表現しました」
沖野の楽曲は、スタイリッシュでポップ、心躍るような心地よさを感じさせる。その旋律が、クリュッグを開けた時の感動とどこかリンクするのだ。クリュッグ 2011を飲んでいると、太陽の煌めきやブドウ畑の光景がふと目に浮かぶ。おそらくそれは、ブドウの生命が自らの物語を静かに語りかけてくるからに違いない。
text: Kimiko Anzai