ワイン女子会に潜入! 醸造家&ソムリエールの本音トーク。
Gourmet 2024.11.11
ある秋の一日、アメリカ、イタリア、チリのワイナリーのオーナーや醸造責任者、日本の実力派ソムリエが集まり、グランド ハイアット 東京内の日本料理店、旬房にて総勢5名の女子会ランチを開催。3つのワイナリーから持ち寄った6種のワインとともに日本料理を楽しんだ。みな初対面ながらもワイン仲間とあってすぐに打ち解け、女子会は楽しくヒートアップ。その赤裸々トークをレポート!
持ち寄ったワインで乾杯!
FIGARO では、まず出席者の紹介から。アメリカ・カリフォルニア州の"カルトワイン"の先駆者「グレース・ファミリー・ヴィンヤーズ」のオーナー、キャサリン(ケイト)・グリーンさん。チリ・コンチャグアバレーで世界最大規模のオーガニック栽培を行う「エミリアーナ・ヴィンヤーズ」醸造責任者ノエリア・オルツさん。イタリア・ピエモンテ州のバローロの名手「ピオ・チェーザレ」5代目当主フェデリカ・ボッファさん。
ワインコメントとマリアージュの感想をくださるのは、マンダリン オリエンタル 東京ソムリエチームの秘蔵っ子で「ポメリー・ソムリエコンクール2023」優勝者の山本麻衣花さん、人気チャイニーズレストランYAUMAY(ヤウメイ)のチーフソムリエでコンサルタントとしても活躍する上瀧美佐さんです。
今日は6種のワインを楽しみながら、それぞれのワインについて教えていただき、女性としてワインビジネスに携わることや日々感じていることを気軽に語り合えたらと思っています。
では、最初に「ピオ・チェーザレ ランゲ シャルドネD.O.C. "ラルトロ"2023」で乾杯しましょうか。
(全員で「乾杯!」&「チアーズ!」&「サルーテ!」)
フェデリカ 「ピオ・チェーザレ」は高祖父が設立したワイナリーで、私で5代目。小規模生産で高品質のワインをモットーに、いまは従兄弟のチェーザレ・ベンヴェヌートとともに頑張っているところです。私たちのワインで世界的に有名なのは「バローロ」なんだけど、この「ラルトロ 2023」も特別なワインなの。"ラルトロ"とは「別の」という意味で、私たちのもうひとつのシャルドネ「ピオディレイ」というワインの"また別の表情"の意。ソーヴィニヨン・ブランを少しだけブレンドしているの。
ノエリア おいしいわ。ソーヴィニヨン・ブランが利いていて、キラキラしてる。
フェデリカ ありがとう。ソーヴィニヨン・ブランを10パーセントブレンドしているんだけど、樽熟成はしていないの。樽に入れるのはシャルドネだけ。
ノエリア だからフレッシュ感が残っているのね。
麻衣花 "クリーンでピュアなシャルドネ"という印象です。ソーヴィニヨン・ブラン由来の柑橘のアロマが混じり、グレープフルーツの爽やかな香りと熟したフルーツの香りが魅力的。ミネラルも豊かで、フレッシュな飲み口が心地いいですね。
美佐 私は中国料理店のソムリエなので、これは飲茶と合わせたらおいしいだろうなと思いました。ホタテ貝やエビもいいですし、スイートチリソースにも合う。シャルドネやソーヴィニヨン・ブランをオーダーするゲストも多いので、バイザグラスでの提案もよさそうです。
FIGARO それでは、次に「エミリアーナ・ヴィンヤーズ シグノス・デ・オリヘン オーガニック・シャルドネ/ルーサンヌ ヴァレ・カサブランカ 2021」を。
ノエリア 私はスペイン出身で、いまはチリでワイン造りをしています。「エミリアーナ・ヴィンヤーズ」は1986年に設立されたまだ若いワイナリーだけど、初のヴァラエタルワインを造ったり、オーガニックやビオディナミですべて栽培したりと、革新的なワイナリーです。これは、冷涼なカサブランカ・ヴァレーのブドウで造られています。この年は寒くて霧が多かったんだけど、結果的にはフレッシュでバランスが取れたワインに仕上がりました。
麻衣花 とてもアロマティックなワインですね。リンゴの蜜やネクタリンなど、フレーバーに果実の甘やかさが感じられます。
美佐 そして、とてもビューティフル! アプリコットのニュアンスもチャーミングです。レモングラスやスパイスの香りがあるので、イカのカレーやスパイスを使ったインド料理に合わせてみたいです。
美佐 おいしい。ワサビが利いたお造りにも合いますね。
フェデリカ 私のシャルドネもマグロに合うと思うけど、「エミリアーナ」のシャルドネはまろやかに感じるわ。
FIGARO 次は、本日唯一のロゼ「グレース・ファミリー・ヴィンヤーズ ロゼ・オブ・カベルネ・ソーヴィニョン セント・ヘレナ ナパ・ヴァレー 2021」です。
ケイト OK、"ロゼタイム"ね(笑)! 私は2019年に「グレース・ファミリー・ヴィンヤーズ」のオーナーになったの。ワイナリーを設立したのはグレース夫妻で、素晴らしいワインを造っていたんだけど縁あって私が引き継ぐことに。ナパ・ヴァレーはファミリーヴィンヤードが多く、イタリアやスペインの方も多いのよ。私は、ファミリーでワイナリーを守ることはとても素敵な素敵なことだと思っていて、自分もそうありたいと思ったの。実は、このロゼは販売していない特別なロゼ。今日は特別な女子会だから、みなさんに飲んでいただきたくて持ってきました。
ノエリア とてもおいしい! なのに販売しないの?
ケイト 20年にナパ・ヴァレーで大きな火事があったでしょう? 私たちのカベルネ・ソーヴィニヨンの畑も煙の影響を受けてしまって。だから、その年はカベルネ・ソーヴィニヨンを造っていないのよ。
ノエリア あの火事は本当に大変だったわ。
フェデリカ そう、みんな心配してた。
ケイト ありがとう。それで、21年はカベルネ・ソーヴィニヨンでロゼを造ってみたの。思ったよりおいしくできたと思う。
麻衣花 本当に大変でしたね。でも、これが火事の影響を受けて造られたロゼと知って驚きました。とてもエレガントなスタイルで、アセロラやハーブの香りもあり、ミネラルも豊か。シソやワサビなど日本のハーブや調味料とも合いますね。
美佐 そうですね。そしてとてもアロマティック。桜のシーズンに飲みたくなります。ロゼはペアリングの幅が広いので、「一杯だけ」というゲストにお勧めしたくなりますね。ロゼはとても中国料理との相性がいいんです。
フェデリカ ロゼは、イタリアでも人気があるの。
ケイト アメリカもそう。ロゼを飲む人が増えたわ。
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国が違えば事情も違う? 女性の働き方。
FIGARO では、せっかくの女子会なので、みなさんが働く上で、日頃どんなことを思っているのかお聞きしたいと思います。お酒の業界で働くのは男性の方が多いように思うのですが......。
ノエリア チリでは、畑でもワイナリーでも女性は多いですね。フランスや日本は伝統がある国だけど、チリはニューワールドだから女性が多いのかもしれない。ただ、役職などでは男性が一番手、女性が二番手のことは多いかも。私はラッキーで、上司がリベラルな人だから醸造責任者になれた。でも役員会議の場では9人のうち、女性は私だけ。しかも女性に対しての要求は厳しいわ。でも、私たちがそれをクリアしていけば、状況は変わるでしょうね。
ケイト ワインメーカーになれる女性は、強さと繊細さを同時に持っているような人。そして、自分が造ろうとしているものがはっきりわかっていて、自信がある。そうでないと男性から指図されてしまうでしょう?
ノエリア 女性のほうがワインに対して情熱的なのかも(笑)!? そうでないと家庭と両立できないわ。
フェデリカ イタリアでは、多くのワイナリーは家族経営なの。うちでは母や祖母など、女性が代々重要な役割を果たしてきた。女性がリードしていたほうがうまくいくと思う。私の場合はひとり娘だったから必然的に家業を継いだけど、小さい頃から家業を継ぐことについては、いろいろと言われてきたわ。18歳の時からワイナリーで手伝い始めて、取引先との付き合い方やプレス対応の重要性も教わった。でも、それを教えてくれたのは父や叔父など、男性だった。いまも従兄弟とはよくディスカッションをするけど、ファミリーだから男性とか女性とか、特に意識したことはなかったわ。
ケイト フェデリカが女性としてファミリービジネスのトップに立つのは、イタリアは多いかもしれないけど、ワイン業界では特別なケースかも。家業を継ぐのは息子のほうが多いでしょう? 父と息子の組み合わせのほうが関係は強いかもしれないけど、ビジョンが違ったり、喧嘩をしたり、難しいこともあるわね。
フェデリカ 私も父とはまったく正反対の意見を持つこともあった。でも、世代が変わって新しい方向に進むことはいいことよ。もちろん、伝統は大切にしないといけないけど。
ケイト 私はこのワイナリーを引き継いで10年。伝統という意味では前の所有者のディックからいろいろ聞いていて、よいところはそのまま引き継ぎたいと思っているの。私の夫は生化学者なので、化学の力で土地を分析する作業は引き継いでから加わった新しい活動のひとつ。気候変動が問題になっているいまだから必要なことだと思っているわ。
フェデリカ みんな、まわりとのバランスを取りながら仕事をしている感じね。いま私が気を付けているのは、女であることを言い訳にしないということ。いつも一生懸命にベストを尽くして、しっかり働くということね。
ケイト 私はずっと、どの世代でも、女性は150%のパフォーマンスをしないと認められないと感じていたの。でも、「女性であるという言い訳はしない」、それだけでいいのよね。
全員 (うなずく)
FIGARO みなさんの頑張りに、私たちも勇気づけられました。では、テイスティングに戻りましょう。今度は赤ですね。「エミリアーナ・ヴィンヤーズ コヤム コルチャグア・ヴァレー 2021」から。
ノエリア これは、私たちのワイナリーの有機栽培の出発点といえるワイン。試験的に植えた品種がすべて素晴らしくて、全部の品種をブレンドした赤。これで、すべての畑をビオディナミに変換することを決意したの。
麻衣花 とてもきれい! 酸も果実味もまとまっていますね。熟した赤果実や牡丹の花などを感じさせ、とても華やか。ブドウ本来の魅力が引き出されていて、ワインにエネルギーを感じます。タンニンもシルキーで、冷涼な気候から来る味わいは、まるでクラシックなボルドーを彷彿させます。
美佐 これはとてもガストロノミックなワイン。純粋に食を楽しみたい人にお勧めしたいです。
フェデリカ では、私たちのフラッグシップ「ピオ・チェーザレ バローロ D.O.C.G. 2019」を。バローロのさまざまな村のネッビオーロをブレンドして造る古典的なワイン。異なる畑の魅力をまとめることで"バローロらしさ"を出したいと思っているの。
麻衣花 とても洗練されたバローロですね。酸味もきれいでタンニンもエレガントです。
美佐 テクスチャーがとてもやわらか。ネッビオーロがきれいに表現されています。
ノエリア これ、最高においしいわね。フェデリカに乾杯よ!
ケイト ノエリアのワインもとてもエレガントよ! さあ、次は「グレース・ファミリー・ヴィンヤーズ カベルネ・ソーヴィニヨン コーネリアス・グローヴ セント・ヘレナ ナパ・ヴァレー 2019」。コーネリアス・グローヴはセント・ヘレナの西にある隠れた名産地。凝縮感があって繊細なブドウができるのよ。
麻衣花 全体的に美しく、テクスチャーもしなやかで球体を描くような味わいです。ナパの"究極のエレガント"を体現したカベルネ・ソーヴィニヨンですね。
美佐 本当に。これは、スペシャルなディナーのためのものですね。熟成のポテンシャルも高いと思います。
ノエリア 素晴らしいワインばかり揃ったわね!
ケイト 麻衣花と美佐の意見は、とても参考になったわ。
フェデリカ 何より、とっても楽しかったわ。
ノエリア 日本に来てよかった!
FIGARO 素敵な女子会でした。みなさん、また日本でお会いしましょう。では、もう一度、乾杯!
WINE TO STYLE
03-5413-8831
text: Kimiko Anzai