日本の食の知恵を再発見、八雲茶寮が考える現代の精進料理。
Gourmet 2026.02.08
日本が長い歴史の中で培ってきた技術や素材を再発見し、現代における豊かな暮らしを提案している緒方慎一郎。これまでに和菓子やお茶、日本料理、器、香り、酒など日本人ならではの五感に訴える愉しみを、洗練された職人とともに発信してきた。目黒にある八雲茶寮は「食」と「職」を通じて日本文化を体感できるサロンだ。

八雲茶寮では併設の和菓子店「楳心果」で丁寧に作られた上生菓子や節句菓子と共に、日本各地から厳選したお茶を楽しめる。
日本各地に伝わる食の知恵を研究してきた八雲茶寮が今回取り組んだのは、日本料理の原点ともいえる精進料理。鎌倉時代、宋から禅宗とともに日本に伝わった精進料理は、仏教の戒律に基づき、動物性食品はもとよりニンニクやネギといった食欲を刺激する五葷(ごくん)も控える僧侶の修行食だが、八雲茶寮では現代の食養生にかなうよう、心身をととのえ養うための「季節の精進料理」を考案した。
参照したのは江戸時代に隠元禅師が煎茶とともに伝えた精進料理のひとつ、普茶(ふちゃ)料理だ。「普茶」とは「普(あまね)く衆人に茶を施す」という意味があり、茶による接待を指す。油を用いた揚げ物や炒め物、葛でとろみをつけた濃厚な味わいの料理を大皿で供する普茶料理を基本としながら、八雲茶寮では五葷の香味も生かして大勢で楽しめるよう工夫を凝らしている。

精進料理の調味の要である昆布は、北海道折浜の天然真昆布を使用。
肉や魚、乳製品など動物性の食品を用いない精進料理の肝となるのは野菜の旨みを引き立てる出汁だ。出汁の要ともいえる昆布は北海道折浜で採れる天然の真昆布。温暖化の影響で天然物は危機的状況にあるとのことだが、コースの始まりに水で一昼夜戻した真昆布の出汁をいただく。続いて精進料理の代表的な一品、胡麻豆腐が滋味深い精進出汁とともに供される。胡麻を炒って練り上げ、濾すといった手間暇をかけて作られるひと品は、食への感謝の念を呼び起こす。
続く「精進百珍」は七草と金柑の白和え、海老芋の蒸し焼き、金時人参のかぶら寿し、南高梅の天麩羅、きのこ朴葉味噌焼きなどが見目美しい器を取りわけていただく。旬の食材と日本人の知恵が凝縮された料理の数々に会話も弾む。今回は食事の合間に日本茶のペアリングも提供され、味覚をリセットしてくれる。

手間暇かけて作られる胡麻豆腐。胡麻の焙煎は季節によって時間を変えるなど細やかな配慮が。

「精進百珍」より七草と金柑の白和え。なめらかな白和えとみずみずしい野菜が調和する。

海老芋の蒸し焼き。ほくほくした食感と香ばしい香りが五感を刺激する。

金時人参のかぶら寿し。梅の季節に合わせたお重とともに。
コースの終盤では四つ椀でご飯と味噌汁、香の物を、八寸盆に盛られた鰻もどきと和え物とともにいただく。大小ふたつの漆椀にはご飯と味噌汁がよそわれているが、精進料理では蓋を香の物の取り皿として使用し、食べ終わった後は豆茶を注いで器を洗い清め、最後は器を重ねて下げることができる。食べ終わった椀をお茶ですすぐという理にかなった作法は、「命をいただく」という行為の締めくくりであり、自然に対する深い慈しみの心や環境への配慮が込められた知恵の結晶といえる。精進料理の作法には数え切れないくらいの決まり事があるが、八雲茶寮では現代のライフスタイルに適ったエッセンスをうまく取り入れて発信したいという。

ご飯と味噌汁は朱塗りの四つ椀でいただき、最後は豆茶ですすぐ。
しっかり満足感がありつつ、食後は体が軽くなったように感じる八雲茶寮の精進料理。過剰に食物を摂取しすぎている現代の食生活を見直すと共に、日本の美しい伝統と食の知恵が詰まった料理を、洗練の空間で楽しんでみてはいかがだろう。
東京都目黒区八雲3-4-7
03-5731-1620
営))9:00〜16:00
※「季節の精進料理」(¥16,500 税込・別途サービス料10%)は昼の部 12:00〜14:00(L.O.)のみ。夜のお食事は紹介制。
休)日、月
https://yakumosaryo.jp/




