エルメス、ブランケットに宿るもの。
Interiors 2021.09.10
ファッションにとどまらず、食器や家具、オブジェ、バスルームやアウトドアの品……エルメスのホームコレクションには、アールドゥヴィーヴルの真髄が宿っている。
ブランケットから始まった、エルメスのアールドゥヴィーヴルの世界。
老舗ブランドを語る時、フランス人は「メゾン」と言う。もともと「家」を意味するだけに、人間味や手仕事をも感じさせる言葉だ。パリを代表するラグジュアリーブランドの中でも、この言葉が最もしっくりくるのは、エルメスだろう。エルメスの店は、まるで個人宅に招待されたかのように、ホストの美意識を体感させる。ファッションから、ビューティ、テーブルウェアや家具まで、衣食住のあらゆるシーンに寄りそう製品が並び、カフェや書店があり、空間に合わせて選んだアートがある。ただ見かけが美しいこととは違う、一貫したビジョンに基づくスタイルの提案。それは、フランスのアールドゥヴィーヴル(生活のアート)のあり方を表現している。
19世紀末に馬用に作られたというブランケットは、エルメスの馬具工房としてのルーツを物語るアイテムだ。1920年代初頭、旅することの多い顧客のライフスタイルとニーズにこたえ、それまで馬用に提供していたブランケットにインスピレーションを得て、幌付き自動車で寒さをしのぐためのブランケット(プレード)やクッションが誕生した。その後、灰皿やアウトドア用品などが誕生し、メゾン(ホーム)部門はテーブルウェア、家具、子ども用品へと広がったが、ブランケットは、生活のスタイルそのものに目を向けるエルメスの姿勢を象徴するアイテムであり続けている。ホームコレクション部門でテキスタイルのクリエイティブ・ディレクターを務めるフローランス・ラファルジュはこう語る。
「エルメスのアールドゥヴィーヴルの価値観は、美しさ、サヴォワールフェール(職人技)、卓越した手仕事、デザインと素材の適切なバランス、素材の官能性、時代を超えて愛されること、そして、使い心地のよさと機能性です」
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ラファルジュは、糸を紡ぎ、織り、染め、刺繍する、それぞれの職人の姿を思い、そのサヴォワールフェールに導かれるという。今年のホームコレクションでは、“触れる新たな幸せ”を讃えた。たとえば、金糸を織り込んだブランケット。グラフィックデザイナー、ジャンパオロ・パニのモチーフを金糸でキルティングしたカシミアのベッドカバー。素材とデザイン、手仕事の生む美しさと、使うほどに愛着を生む使い心地のよさが調和している。また、《Hダイ》は、柔らかな表情の染めが、手仕事の魅力をひときわ感じさせるブランケット。Hを構成する2本の縦縞は織りでシャープに。織り上がった後に上と下から別々に手染めを施して、Hの文字が浮かび上がる。
「よく見ると一枚一枚表情が違います。昔ながらの手仕事は、時を超えた美しさを見せてくれる。それは、シンプルでありながら時間をかけた仕事だから、職人の忍耐と信念の成果だからなのです」
毎年発表される年間テーマがクリエイションチーム全員に同じ世界観を与え、各クリエイション部門は、それぞれのインスピレーションでコレクションを作り上げる。
「家具もオブジェもテーブルウェアもテキスタイルも、補い合いながら調和し、ひとつの世界を作り出すのです」
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一枚の布に込められたクラフツマンシップ。
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*「フィガロジャポン」2021年9月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office)