Kawatsura Japan vol.1 秋田の土地が育んだうつわ、川連漆器の魅力とは。
Interiors 2022.01.17
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秋田県湯沢市の伝統工芸、川連漆器。かつて川連村と呼ばれた半径2キロの地域にいまも職人が集まり、漆器作りの技術を800年以上も脈々と受け継いでいる。その特徴のひとつが、工程ごとに専門の職人がおり、分業で作ること。天然素材・手仕事の温もりを守りながら、職人の専門性を高める。その手法は、クラフトマンシップとプロダクト、両方のよさを併せ持つ“実用の美”を生み出した。
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800年の歴史が磨いた、実用の美。
川連漆器の起源は12世紀、鎌倉時代にまでさかのぼる。厳しい冬を乗り越えるために武具の加工を内職としたのが始まり。それからお椀やお盆、重箱といった生活道具へ移り変わっていった。分業制が生まれたのも、冬場でも人々に仕事を巡らせる、という雪深い地域ならではの知恵だ。
川連漆器の材料は、栗駒山麓の豊かな自然を活かしたトチやブナ、ホオノキなどの天然木。漆も化学成分を加えない天然漆を用いる。日本では食器から建材、仏像などの美術品まで古くから天然漆が使われてきた。その理由は、木材の強さを増して防腐させるだけでなく、断熱性・耐熱性に優れ、油にも耐えうるから。近年では抗菌効果も明らかに。美しさに注目が集まる漆器だが、そういった実用性に優れていることも見逃せない。
川連町は、原木の切り出しから漆器の完成まですべての工程を同じエリア内でまかなう、全国的にも希少な産地だ。漆器ができるまでの工程は、木地を作り、下地を付け、漆を塗るという大きく3つに分けられるが、塗りひとつをとっても地塗り・中塗り・上塗り・花塗りと細かく分化され、それぞれを担うのが熟練の職人たちだ。
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専門の職人、分業による物作り。
たとえば、漆器の装飾のひとつ「沈金」。この道70年の沈金師、大関廣さんは毎日早朝から作業を開始する。
「完成したうつわに彫刻を施すので失敗は許されません。曲線や角の部分を滑らかに仕上げるには集中力が必要ですから、太陽が出て明るいうちに作業するのが長年の習慣です」
漆器の表面に絵柄を彫り、溝に漆を刷り込んでから金箔を乗せ、定着させることで繊細な文様が浮かび上がる。
釘を使わず、木片をつなぎ合わせる日本の伝統技術「指物」。滝健一さんはもう40年、お盆や重箱の土台となる木の加工を手がけている。指物師には、節の有無や木目の状態を目で見て感じ取る「木を読む」技術が必要なのだそう。
「木を組むときは、漆を塗った時にちょうどいい具合になるよう適度な“許し”を残す加減がいる。完成品がぴったりきれいに仕上がっているのを見るのがうれしいですね」
「蒔絵」は、漆で描いた模様の上から金粉や銀粉を施す、漆工芸の代表的な装飾の技法。蒔絵師の佐藤渉さんは職人となって30年余り。職人によっても絵の個性はさまざまだが、佐藤さんは現代的でモダンなタッチを得意としている。
「漆には水分で乾く特性があるため、気候や湿度の変化に合わせて作業の手順を考えなければいけません。何年やっても決して思いどおりには進まないのが難しさ。世代を超えて、長く使っていただける絵に仕上げたいという一心です」
「難を転じる」縁起のいい柄として親しまれる、南天の実を酒器に描いていく。あらかじめ下絵を描き、硫黄の粉で器に転写する。動物や四季の草花など、自然をモチーフにしたさまざまな柄が。
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環境に優しく、長く使うほど味わいが増す。
川連漆器の伝統を守り、塗りにまつわるすべての工程を自社で行う「佐藤商事」を訪ね、商品開発から販売までを手がける佐藤真澄美さんに話を聞いた。
「私自身、この家に嫁ぐまで漆器はお正月など特別な時に使うもの、と思っていました。でも実際に毎日使うと、驚くほど丈夫で使いやすいんです。長い歴史の中で日用のうつわとして作られてきた川連漆器は、漆器らしい味わいと堅牢さを合わせもっています。それに漆器は使えば使うほど水分を含んで丈夫になる。万が一、欠けたり割れたりしても研ぎ直せば新品のように直せるので、まさに一生ものです。我が家の子どもたちを見ていて、ほかのうつわがあっても自然に漆器を選ぶことに気がつきました。子どもの素直で繊細な感覚では、漆器の軽さや口当たりの柔しさが心地よいのではないでしょうか」
持続可能な社会を作るSDGsの文脈から、川連漆器に魅力を感じている世代もいる。豊留侑莉佳さんは、湯沢市を拠点に地場産業の活性化をサポートしている「みちのくreMakers」のコーディネーター。800年間も製造工程を変えず、土に還る素材だけで作られていることを知り、感動したのだとか。
「川連漆器の代表的なうつわが汁椀です。両手でうつわを持ってお味噌汁を飲むのは日本ならではの食べ方ですが、漆器には熱から手を守りながらお味噌汁の温かさを保ってくれるよさがありますよね。それに、この地で作られたうつわの中に、湯沢で採れたお米や水、野菜……地域経済のすべてが一杯のお味噌汁の中に入っている。川連のお椀が、これから私たちが目指す循環型社会を象徴しているように思えます」
大学に通いながら、「みちのくreMakers」のインターン生として働く加藤美空さんは、湯沢に来てから毎日漆器を使うようになった。
「使うたびに味が刻まれて、“私の漆器”になっていくことにおもしろさを感じました。安い物を使い捨てにするより、気に入った物を丁寧に使うほうが暮らしも豊かになる気がして。何より愛着が湧きます。分業で作るという製造法も、助け合いが日常の中にある雪国らしい文化ですね」
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多彩な表情を見せる、川連漆器の「いま」。
時代の変化を越えて、暮らしに寄り添う日用の品として現在まで受け継がれてきた川連漆器の伝統。これまでもさまざまなデザインのうつわが作られ、いまもなお更新され続けている。伝統的な一品から新しい発想を取り入れたモダンな新作まで、「佐藤商事」のアーカイブから川連漆器の“いま”を感じてみたい。
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photography: Aya Kawachi, Naohiro Ogawa director: Takeshi Taniyama director of photography: Tomohiro Yagi editing & text: Aki Kiuchi