ロエベ、24名の作家が手がけた美しきランプをミラノサローネで発表。
Interiors 2024.06.28
会場地下の展示風景。
ロエベはゆかりのある24名のアーティストたちに制作を依頼したランプを発表。ランプというタイポロジーとクラフトに対する概念を変える、作家たちの創造力が輝きを放った。
炎をイメージした竹工芸家、四代田辺竹雲斎のランプ。
『ロエベ ランプ』展の会場となったパラッツオ・チッテリオには、竹工芸家や陶芸家、美術家といった、表現手段を異にする作家たちが手掛けた竹やセラミック、ガラス、レザー、さらには馬の毛、灯りすらも素材として取り込んだランプが展示された。
「人の気分を大きく左右する灯りには不思議な魅力があります。さらに言うと、直接照明ではなく、なにかの間からこぼれる灯りにたまらなく引きつけられる。そういった灯りのあり方によってムードが変わっていく、そのプロセスにデザインという造形行為が加わることでどうなるのか、見てみたいと思いました」
ロエベのクリエイティブ ディレクターであるジョナサン・アンダーソンは、企画の背景についてそう語る。だから、作家たちには裸電球といった直接照明ではなく、作品の中に光を取り込むランプシェードの制作を依頼した。
作家それぞれの芸術的実践を応用し生まれたものもあれば、これまで用いたことのない素材や技術と向き合い生まれたものもある。それぞれの素材が持つ透光性や反射性といった特性と光との相互作用は、照明を制作したことのない多くの作家に思いがけない発見をもたらした。また同時に、見る者にとっても、漆芸や陶芸といったクラフトに対する見方を一新する表現となった。
会場へ下りるエントランス。
ランプだけでなく、作家たちがロエベの工房とコラボレーションした商品も発表。松本破風(写真左・台の上)、ケイ・セキマチとのコラボレーションバッグはオンラインと日本のカサロエベで6月下旬より展開予定。
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ロエベのレザー職人の技が光る『Juha La Nyota』
●マグダレン・オドゥンド
アフリカ・ケニア出身の陶芸作家による星をイメージしたランプ。自身の創作においては土を用いた陶器を制作するオドゥンドは、ロエベの工房を訪れ、バッグ「ハンモック」に見られるしなやかなレザーを自在に丸めて折りたたむ職人の技に魅了され、自身で制作するのではなく、ロエベの職人の技を取り入れることを考案した。職人との対話を重ねて生まれたランプは、たたんで先端をとがらせたレザーのプリーツの隙間からこぼれる光が幻想的。灯りのない時はそれ自体が彫刻のようだ。
満月と三日月を同時に照らし出す『Mangetsu to Mikazuki』
●平井明子
ロエベ財団 クラフトプライズ2019年のファイナリストである陶芸家・平井明子。彼女は、かつて工房で使っていた焼成窯のスチール製煙突を用いた。作陶のなかで時の経過を大切にしてきた平井は、長年にわたる窯の焼成によって錆を被った煙突を用いることで、時の経過を表現した。筒型煙突の内部に仕込まれた光源からは、満月を想起させる灯りが室内の天井に浮かび上がり、煙突のベースを床からわずかに持ち上げることで生まれる隙間からは、三日月が姿をのぞかせるようなデザイン。
シャッターが上がる瞬間の高揚を表す『Storefront lamp BAT-F 2023-2024』
●アルヴァロ・バーリントン
ベネズエラ出身のアーティスト、アルヴァロ・バーリントンは、自身が胸を弾ませる瞬間を灯りのもたらす作用に重ねた。シャッターが降りた店先のような枠組みに、ロエベのシンボルでもあるゴールドのドーナツチェーンのプルコードを装着した。ニューヨークで過ごした頃、好きなレコードの発売を待ちわびて、開店前の店先でシャッターが上がる瞬間を待っていた時の高揚する気持ちを表現した。映画『ティファニーで朝食を』のシーンを引用し、煌びやかなウィンドウのイメージも重ねた。
漆芸の新たな可能性を照らし出す『Light Membrane』
●石塚源太
漆芸に対する見方を大きく変える作品で、2019年のロエベ財団 クラフトプライズ大賞を受賞した石塚源太は、漆を用いたランプを制作した。アルミニウムのダクト管に結び目をつくり、その表面に伝統的な乾湿技法を用いて黄色と黒色の漆の膜を塗り重ねていくことで完成したランプは、伝統的な技法を用いながらも伝統的な用途からは切り離し、漆を完全に素材として捉えた作品だ。照明という機能が求められたランプでは、「光をどのように作品に取り込んで一体化させるかに腐心した」と語った。
text: Kanae Hasegawa