センスのいい人が、いま買いたいアートとは?
Interiors 2024.10.18
感度が高く、自身がクリエイトするものも注目される人が、いつかは欲しい!と憧れる作家のアートピースは何か? スタイリストやデザイナー、ライターなど7人に聞きました。
まるで祈りを捧げる子ども?
不思議なエネルギーを感じるガラス彫刻。
Karin Ohira' s What to Buy
▶︎▶︎パロマ・ヴァルガ・ワイズのWilde Leute 5
Paloma Varga Weisz
1966年、ドイツ生まれ。現在はデュッセルドルフで主に彫刻やデッサンを作成。擬人化された作品やハイブリッド型など、奇妙な形の人物像作品が多い。ベルリンやヴェネツィアなど世界各国で展覧会を開催している。@palomavargaweisz
最近、ガラスの花瓶や氷を被写体とした写真など"透"をテーマにしたアートコレクションを楽しんでいるという大平かりん。
「昨年訪れたロンドンのサディコールズギャラリーで、パロマ・ヴァルガ・ワイズの鋳造ガラス作品を見た時のインパクトをいまだに覚えています。メランコリックな雰囲気を漂わせながらも静かで凛とした佇まいで、まるで祈りを捧げる子どものよう。光を透かすことでガラスが輝きを増し、空間を静かに満たしていました。鑑賞者の心の奥底までをも照らすような、神秘的な作品だなと感じました」
photography: Mei Hattori
大平かりん
ファッションエディター
東京都生まれ。雑誌「GINZA」「BRUTUS」編集部を経て、現在はIT会社員兼ファッションエディターとして活躍。「365日同じコーディネートはしません」がモットー。インスタグラムで更新している私服のスタイリングにファンが多数いる。@ko365d
---fadeinpager---
大胆に描かれたモチーフは、
花と対話しているかのよう。
Chie Sumiyoshi' s What to Buy
▶︎▶︎中武卓のBlooming11
Suguru Nakatake
小学生の頃から絵を描くことが好きで、日常生活で目にするコップ、果物などを文字を交えて描いていた。現在はアートステーション、どんこやに所属し、表現活動中。鮮やかな色合い、生き生きとした筆使いが魅力。
THE WORLDは、住吉の友人、杉本志乃が障がいのある人をはじめ、多様な表現者の創作活動の支援を行う数年前に設立したプロジェクト。美術教育の影響を受けず、瑞々しい発想と自由な表現力から生み出されるユニークなアート作品を多数発掘し、ウェブサイトで販売している。
「そこで出合ったのが、大きなキャンバスにあふれるように描かれた中武卓さんのブルーミングシリーズ。どの作品も色彩のトーンとバランスが絶妙で、自分の肌感覚にしっくりきます。活動の幅を広げる杉本さんと才気煌めくアールブリュットの作家らを応援していきたいです」
MP Risaku Suzuki
住吉智恵
アートジャーナリスト RealTokyoディレクター
1990年代よりアートジャーナリストとして活動。2003年から12年間、ギャラリー&バーTRAUMARISを主宰し、18年よりカルチャーレビューサイト「RealTokyo」のディレクターを務める。現在は展覧会やパフォーミングアーツの企画を手がけている。@btraumaris
---fadeinpager---
空間に、雄大な洗練と深みを与える
モダンファニチャー。
Sohee Park' s What to Buy
▶︎▶︎ファン· ヒョンシンの黄銅 酸化処理テーブル
Hyungshin Hwang
1981年、ソウル生まれの家具デザイナー。日常の経験や過去の記憶をオブジェで表現する。代表作の「レイヤード」シリーズは、東京やミラノのデザインウィーク、ベルリン国際デザインフェスティバルなどで発表している。@hyungshinhwang
「フランスの哲学者ジャン=マリー・ギュイヨーは、『美しさに対する私たちの観念には、肌やベルベットの柔らかさのような美の本質的要素が含まれている』と言いましたが、まさにファン・ヒョンシンの作品は、金属でありながら、まるでイルカの背中のように柔らかく、撫でていると心が癒やされます」
日常で遭遇するあらゆる建築的要素からインスピレーションを受け、オリジナルの造形言語に昇華するヒョンシンの作品は唯一無二の存在感を放つ。「たとえ味気ない空間でも、彼の作品を置くだけで、たちまち雄大な洗練が加わるのも魅力です」
パク・ソヒ
hinok(ヒノック)ファウンダー
20年間、化粧品業界でブランドマーケティングと商品開発を担当。母になり、「持続可能で健康な社会を維持するため、地球と人が共生できる世の中を」という目標を掲げ、ライフエチケットブランド、ヒノック(@hinok.life)を設立。
---fadeinpager---
現代社会への率直な懸念を、
ポップな色彩で投げかける。
KIKUNO' s What to Buy
▶︎▶︎バリー・マッギーのペインティング
Barry McGee
1966年生まれ。サンフランシスコ・アート・インスティテュートで絵画と版画の学士号を取得。アーバンリアリズムやグラフィティ、アメリカ民芸芸術に影響を受け、サンフランシスコを拠点に現代アーティストとして作品を制作している。
サンフランシスコとロンドンでアートを学んでいた菊乃は、サンフランシスコ出身の伝説的なアーティストとして知られるバリー・マッギーの名を挙げた。
「10代の頃から好きなアーティストで、いつかは作品を買いたい!という憧れがあり、特別な存在です」
マッギーの作品はどれも、"社会から疎外された人々に貢献すること"を目的に、現代社会への率直かつ洞察力に富んだ観察から生まれている。「どの作品も素敵ですが、カラフルな色使いの中にスプレーで描かれた線が隠れている点にグラフィティの要素が感じられ、この作品に最も惹かれました」
菊乃
MARMOT ディレクター
1990年生まれ。デザイナー、モデル、クリエイティブディレクターとして活動。幼少期から影響を受けたストリートカルチャーをベースに、ファッションと映像、音楽、アートを繋ぐ独自のセンスと、ほどよく力が抜けたムードで注目を集める。@kiki_sun
---fadeinpager---
壊れたものを作品に昇華する、
丁寧な手仕事。
Aimi Sahara' s What to Buy
▶︎▶︎黒田雪子の金継ぎシリーズ
Yukiko Kuroda
グラフィックデザイナーとして活動した後に金継ぎを学び、2007年から金継ぎ作家として活動。金継ぎにとどまらない作品制作で国内外で作品の発表を続けている。@yukiko_krd
「金継ぎを通して壊れたものを美しく蘇らせる、黒田雪子さんのアーティストとしての優しい眼差しが好きです。新しいものではなく古いものを使い続けるのに、豊かさを見いだしていることに共感しています」
作家、濱中史朗のうつわの欠けた部分を銀で仕上げた作品で、銀の部分は経年変化でくすんでいくのも魅力。
「以前、お気に入りの茶碗が欠けた時に金継ぎをお願いしたのですが、手仕事が加わることで一層愛着が湧きました。作品の中に持ち主の思い、美意識、自然との繋がりさえも内包していると感じます」
佐原愛美
Tu es mon Tresor デザイナー
1985年生まれ。2010年にファッションブランドを立ち上げ、20年にデニムブランドとしてリローンチ。今年、熱海の邸宅にてファッションと建築、写真をはじめとしたアート領域を横断するキュラトリアルプロジェクトを発表。@tuesmontresor_official
---fadeinpager---
ずっと眺めていたくなるような
強く心を惹かれた一点。
Naomi Shimizu's What to Buy
▶︎▶︎南川史門のスプレー絵画シリーズ
Shimon Minamikawa
1972年、東京都生まれ。91年〜94年、多摩美術大学デザイン学科に在籍。2012年よりニューヨークや東京、ベルリンなどを行き来しながら制作活動を行う。2010年代以降を代表するペインターのひとりとして、国内外の展覧会にて作品を発表する。
南川史門のファンで、個展や展覧会が開催されるたびに足を運ぶという清水奈緒美。今年行われた個展でひときわ心を奪われたのがこちら。南川が近年手がけているのは筆による描写ではなく、スプレーを吹くという簡潔かつ連続的な動作から生み出す絵画シリーズ。
同作品は東京という雑然とした都市の残響から、洗練された別の都市へと作家本人が"移行・MOVE"したことに伴う心境を反映している。「ずっと眺めていたくなるような、また日や時間が変わるたびに観てもいつも新しい気持ちで向き合えるような、なんとも言い表せない作品です」
清水奈緒美
スタイリスト
ファッション誌の編集者を経て、2010年スタイリストに転身。モード誌を中心に広告やアーティストのスタイリングなどを手がける。美しい服を着て、美しいものを見ることが日々の色彩。@smznmi
---fadeinpager---
太陽のエネルギーを体現した
立体作品に息を呑む。
Akihiro Motooka' s What to Buy
▶︎▶︎山口歴のPROMINENCE NO. 2'
Meguru Yamaguchi
1984年生まれ。2007年に渡米し、ブルックリンを拠点に活動。代表作品群「OUT OF BOUNDS」では、平面ではなく、筆跡の形状を立体化する独自の手法によりダイナミックな作品を制作。フェンディ財団などにも収蔵。@meguruyamaguchi
「7年前、移住しようとしていたニューヨークで初めて観た時に魅了されたのが山口歴さんの作品です」
この作品は地球上の自然や人間の存在に不可欠な太陽、その特異な現象であるプロミネンスのエネルギーを表現することを試みた立体作品シリーズ。アート作品からヘアメイクのインスピレーションを受けることが多いという本岡明浩は、色の組み合わせや躍動感のある部分に直感的に惹かれたと言う。
「友人の紹介で山口さんと会話をする機会があったのですが、作品だけではなくパーソナルな部分にも魅力を感じました。物腰柔らかで、人としても大好きです」
本岡明浩
メイクアップアーティスト
1981年生まれ。2005年にメイクアップアーティストのKOSHINOに師事し、08年に独立。東京を拠点に、雑誌、広告、カタログ、アーティストなど多方面で活動する。ベースメイクにこだわりがある。@akihiromotooka
*「フィガロジャポン」2024年11月号より抜粋