アートは「飾って、使うもの」。チダコウイチと野口アヤ夫妻が暮らす、絵画とオブジェのある家。
Interiors 2024.12.28
アートコレクターは、どこで作品と出合い、どんなふうに部屋に飾っているのだろう。クリエイティブディレクター/ギャラリーオーナーのチダコウイチさん、ファッションデザイナー/ギャラリーディレクターの野口アヤさん夫妻がお気に入りに囲まれて暮らす、素敵なお宅を訪ねました。
日本のモダニズム建築を代表する建築家・吉村順三が1970年代に手がけたユニークな集合住宅に暮らす、チダコウイチと野口アヤ夫妻。実は以前同じ建物の隣の部屋に住んでいたことがあり、思い入れがあって20年以上の時を経て戻ってきたという。現在は都内にあるこの集合住宅のほか、秋谷にも古い物件をリノベーションした住居を構えている。さらに代官山でも100年近い日本家屋を改築し、絵画、陶芸、木工など幅広いアートを扱うシソンギャラリーを夫婦で主宰する。
「僕らはずっと古いものが好きで、ファッションも古着から入っています。昔からあるものに自分自身で価値を見つけ、そこからどう新しいものを作るかを常に考えてきました。そういう積み重ねが、仕事でありライフスタイルでもあったのです」(チダ)
それは、彼らがアートを選ぶ基準にも通じている。「本当に好きだと思えるものをちょっとずつ集めてきた」という野口がまず紹介してくれたのは、リビングにある「大好きな『E.T.』がモチーフで、すごく気に入っている」という奥村乃の大きな墨絵。
「奥村さんは古物商でもあって、変わった日本の骨董や古道具を自身の価値観で選んで世界に発信している人。現代美術家になったのは、古物商として仕入れた古い大きな和紙に書画を描いたことがきっかけ。そんなユニークな活動に興味を持ったので声を掛けて、シソンギャラリーでも個展を開いてもらいました」(野口)
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ダイニングにある、猫を抱いた人物の肖像画など個性的で可愛らしい絵画も目を引くが、鑑賞するだけでなく実際に使いながら楽しむ作品も多く所有している。たとえば、盛長省治。ウッドターニングという技法で、丸太から削り出すスツールや彫刻、うつわなどが注目されている木工作家だ。
「丁寧な手仕事ですべて表情が違うアートではありますが、彼の作品は実用性のあるプロダクトとしてもしっかり機能している。うつわはオブジェとして飾りながらも、中には飼っている猫のグッズを入れたり、実際ちゃんと使っているんです」(野口)
基本的に自宅に飾られている作品は、仕事を通じて関わった人や、活動に共感できるアーティストのものが中心。アトリエを訪問したり、対話を重ねたりする関係性をとりわけ大切にしているという。
「制作や展示の話もするけれど、他愛もない会話をしながら、作家と並んで歩くような時間がとても楽しくて」(チダ)
居住空間に飾るアートは"リラックス"がテーマだという野口。
「自分たちがそうであるように、生活になじむ心地いい作品を見つけて、家にアートを飾る人がもっと増えてほしいですね。服を買ったら着るのが普通。それと同じで、アートも買って飾ることで成立する。もっと身近にアートを捉えてもらいたいです」(野口)
チダコウイチ(クリエイティブディレクター/ギャラリーオーナー)
ayanoguchiayaのデザイナーである野口と、数多のブランドのディレクションやプロデュースに携わってきたクリエイティブディレクターのチダ。2017年より夫婦でアートギャラリー、シソンギャラリーを運営。
@ayanoguchiaya @chida__koichi @sison_gallery
*「フィガロジャポン」2024年12月号より抜粋
photography: Akemi Kurosaka text: Kana Miyazaki