2025年ミラノデザインウィークで発表した、ファッションメゾンの新作たち。
Interiors 2025.05.09
毎年4月にイタリア・ミラノで開催される世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ」。それに伴い、デザイナー、インテリアブランド、ギャラリー、ファッションブランドなどによる展示が市内の各所で行われる「ミラノデザインウィーク」も開催された。年々訪れる人が増える市内での展示から、ファッションブランドのプレゼンテーションをレポート。
■ロエベ
ポエティックで遊び心あふれるティーポットが勢揃いした、ロエベ。
会場には25人のアーティストやデザイナー、建築家による作品が展示。photography: LOEWE
2016年から「ロエベ財団 クラフトプライズ」を行うなど、クラフトをブランドの根幹としているロエベ。昨年はさまざまなアーティストの一点モノの照明を発表し話題となったが、今年のテーマは「ティーポット」。25名のアーティストやデザイナー、建築家がつくりあげるユニークな作品たちが一堂に会した。
京都の陶芸制作ユニット、スナ・フジタによる可愛らしい作品。photography: LOEWE
デザイナーの深澤直人、建築家のデイヴィッド・チッパーフィールドなど多彩な面々が考えるティーポットは、素材も形もさまざま。実際に使うのは至難の業⋯⋯なアートピースに近い作品から、普段使いにもピッタリ実用的なものまで、多彩なティーポットたちは見ているだけで楽しい。磁器や陶器を用いながらも、多様な釉薬や仕上げで表現していた。
奥の白いポットは深澤直人の作品。手前は中国人陶芸家のルー・ビーンによるもの。photography: LOEWE
例年通り、今年も発表と同時にほぼ完売という人気ぶり。今後の展開も目が離せない。
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■ルイ・ヴィトン
今年も多彩なアイテムを展開する、ルイ・ヴィトン。
新古典様式の空間が広がるミラノの宮殿で行われたプレゼンテーション。photography: LOUIS VUITTON
今年もパラッツォセルベローニで新作を発表したルイ・ヴィトン。2012年から始まった、現代の著名なデザイナーが手掛ける「オブジェ・ノマド」に加え、ブランド独自のホームコレクションを展開。家具、照明、オブジェ、ホームテキスタイル、テーブルウェア、そしてユニークなゲームまで、幅広いアイテムを発表した。
フォルトゥナート・デペーロの絵画から作られたテキスタイル。photography: LOUIS VUITTON
特に印象的だったのが、歴史に名を残してきたデザイナーの作品からファブリックに展開しているアイテム。20世紀初頭にイタリア未来派の画家として活躍したフォルトゥナート・デペーロ、女性建築家でデザイナーのシャルロット・ペリアンの作品から作られたファブリックが展示された。
デザイナーのクリスチャン・モハデッドによるテキスタイル。photography: LOUIS VUITTON
ほかにも、ブランケットやクッションなどを組み合わせたプレゼンテーションが見られるなど、日常使いしやすいテキスタイルのアイテムが多数見られた。また、ルイ・ヴィトンはミラノデザインウィーク期間中に、ピーター・マリノ設計による4階建ての巨大な店舗をモンテナポレオーネ通りにオープン。ふたつのレストランが併設されていることも大きな話題を呼んでいる。
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■エルメス
心機一転のエルメス、真っ白な空間に浮かび上がる軽やかなオブジェ。
白い箱が浮かび上がる空間での展示。photography: Maxime Tetard
昨年は、黒を基調とした空間に土やレンガといった自然の素材を使ったプレゼンテーションを展開したエルメス。今年は一転、真っ白な空間で行われたのが印象的だった。この空間をデザインしたのは、エルメスのホームコレクションのアーティスティック・ディレクターである建築家のシャルロット・マコー・ペレルマンとアレクシィ・ファブリ。吊り下げられた白い箱のようなスペースのなかに新作オブジェを展示、さらに床には鮮やかな色彩の照明が反射し、シンプルかつ軽やかな彩のある空間となっていた。
透明な吹きガラスに着色されたガラスを被せた花瓶。photography: Maxime Tetard
特に印象的だったのが、ガラスをつかったオブジェ。これまで、エルメスのホームコレクションでは見ることのなかったガラスのオブジェの美しさは、メゾンの「素材」に対する敬意と探求心を感じさせた。色を重ねた被せガラスにガラス職人がコールドワークでカッティングを施すことで、表面にストライプやチェッカーボードのパターンが描き出されている。ゆらぎのあるガラスの質感も魅力的だ。
トマス・アロンソによるテーブル。photography: Maxime Tetard
もうひとつ、印象的だったのがデザイナーのトマス・アロンソによる高さ75cmほどのサイドテーブル。ラッカーで仕上げたガラスの上に、日本の伝統的な木工技術「曲木」で制作した日本の杉材のテーブルトップが載せられている。テーブルはボックス仕様になっており、その内側にはヴォ―・エプソンのレザーも張られている。見る角度によって色の重なりを感じられるオブジェは、今回の空間構成のインスピレーション源のひとつになっているのだろう。
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■サンローラン
歴史に埋もれた名作に焦点を当てる、サンローランの4つの家具。
ペリアンはベトナムの植民地政府から工芸・応用美術のディレクターに任命、その際に自身のためにつくられた「インドシナのゲスト用肘掛け椅子」。photography: SAINT LAURENT
2016年からサンローランのクリエイティブ・ディレクターを務めるデザイナー、アンソニー・ヴァカレロ。彼が今回手掛けたのは、シャルロット・ペリアンの未発表の家具の復刻だ。1943年から1967年にかけて、ペリアンがデザインし試作品やスケッチとしてのみ存在していたアイテムを復刻、限定品として販売した。
1962年にペリアンの夫のために制作された「リオ・デ・ジャネイロの本棚」。photography: SAINT LAURENT
昨年もジオ・ポンティのアーカイブから復刻された食器を発表するなど、近年、サンローランは歴史のなかに埋もれてきた名品やデザイナーにに焦点を当てることに力を入れている。イヴ・サンローランが存命の頃、彼は生涯を通じてペリアンのデザインを収集し、サンローランのパートナーのピエール・ベルジェは世界各地で開催されたペリアンの回顧展を支援していた。ペリアンが生み出す作品のピュアでモダンな雰囲気は、サンローラン自身のクリエイションと重なるという。
1967年、メインの応接室用につくられた「パリ日本大使公邸のソファ」。photography: SAINT LAURENT
4つの家具のなかには、日本とのつながりを感じさせるものも。日本のモダニズムを牽引した建築家の坂倉準三は、パリに日本国大使の新公邸を設計。その内装と家具のデザインはシャルロット・ペリアンが担当している。その際にぺリアンは応接室用に、5人掛けソファをデザインした。今回その約7mを超えるバンケットソファが復刻。他にも世界各地の邸宅のための未発表の家具が展開された。
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■グッチ
竹の魅力に迫ったグッチ、7組のアーティストがその魅力を表現。
サン・シンプリチャーノ教会の中庭と回廊を使ったインスタレーション。photography: Gucci
グッチは、ミラノで二番目に古いと言われているサン・シンプリチャーノ教会でインスタレーションを開催。クリエイティブ・エージェンシー 2050+とその創設者であり建築家/キュレーターのイッポリト・ペステリーニ・ラパレッリが企画・デザインした展覧会のタイトルは「バンブー・エンカウンターズ」。7組のアーティストやデザイナーによる「竹」をテーマにした展示だ。
ディマ・スロウジによる「ハイブリッド・エクスハレーションズ」photography: Gucci
グッチは、1940年代半ばにハンドバッグの持ち手に竹を採用したという歴史がある。以降、竹を芸術、文化、デザインの交差点に位置し、多様な意味を持つユニークな素材として位置づけてきた。今回は教会の中庭と回廊を使った屋外の空間で、長い歴史をもつ「竹」の魅力を現代的なアプローチで三者三様に表現。パレスチナ出身の建築家、芸術家、そして研究者であるディマ・スロウジは、緻密な竹細工のかごに軽量の手吹きガラスを組み合わせた作品を発表。回廊に吊るされ風になびく様子が印象的だった。
左はナタリー・デュ・パスキエの竹の屏風「パッサヴェント」。右はカイトクラブが制作した凧「サンキュー、バンブー」。photography: Gucci
フランス人アーティスト、ナタリー・デュ・パスキエは、竹を組み合わせた屏風を制作。シルクプリントを額装する軽量パネルをデザインしている。プロダクトとテキスタイルデザイナーのバートヤン・ポット、写真家リーズベス・アベネスとモーリス・シェルテンスによる「カイトクラブ」は、竹やナイロンといった現代的な素材で作った凧のシリーズ「サンキュー、バンブー」を制作。ほかにも個性豊かな作品が揃う展示だった。
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■ディオール
クリスチャン・ディオールの原点に立ち返る、特別な花器。
ガラス職人による技術で、ガラスの周囲を取り囲むツタを表現。photography: Dior
ディオールは、フランス人デザイナーのサム・バロンがデザインした3つの特別な花瓶をモンテナポレオーネの店舗で展示した。創設者のクリスチャン・ディオールのラッキーナンバーにちなんだ"8点"限定のアイテムで、ディオールのインスピレーション源である自然の美しさにフォーカスし制作された花器だ。
「くびれ」のあるガラスのフォルムと、繊細さを兼ね備えた植物のディテールが再現されている。photography: Dior
すべてクリアガラスで作られており、さまざまな植物の枝、花、葉のモチーフを組み合わせ、魅惑的な庭の散歩を想起させるデザインだと言う。大きなもので高さが約1mもあり、バラのツルのような繊細な曲線美がていねいに表現されている。イタリアのガラス職人、マッシモ・ルナルドンが手吹きで1点ずつ制作している。
高さ1mほどの花器は、店頭で特別な存在感を放っていた。photography: Dior
1947年にクリスチャン・ディオールが手がけた初のフレグランス「ミス ディオール」のボトル「アンフォラ ボトル」は、絞ったウエストとエレガンスなフレアスカートが特徴的な、コレクション「ニュールック」を象徴するシルエットから誕生した。サム・バロンによるこの花器も、アンフォラ ボトルのフォルムを彷彿とさせるものだ。また、店頭にはこの秋に発売されるディオール・メゾンのために制作したガラス作品も同時に展示されていた。
text: Michiko Inoue