リースリングの爽やかな逆襲。 #03 思わず笑みがこぼれる、日向夏の香りのリースリング。
Travel 2016.09.09
アウスレーガーがワイナリーの目印です。
ラインヘッセンで2軒目に訪ねたのはヴァイングート・トーレというワイナリーです。ドイツらしい鍛鉄製の飾り看板、アウスレーガーのあるゲートから入ると、幾種類ものバラが咲く前庭がワイナリーの建物まで伸びていました。トーレ家は代々ワイン造りを生業としてきた一家で、エステートの中には500年前のワイン貯蔵庫もあるとのこと。
ゲートから母屋まではバラが歓迎してくれました。
われわれを出迎えてくれたクリストフ・トーレさんは「ジェネレーション・リースリング」の初期メンバーのひとり。弟のヨハネスさんとふたりで2006年から家業を切り盛りしています。
ヴァイングート・トーレのブドウ畑には110もの個性豊かな区画があります。土壌だけを見ても、軽い粘土から石灰岩、赤色砂質ローム、片岩(シスト)などさまざま。「この多様性に富んだ区画の個性を忠実にワインに表現するのが僕の仕事です」とクリストフさん。その「忠実な表現」のために彼は畑を有機栽培にし、自家酵母(セレクトされた単一菌種のみを培養する培養酵母に対し、現場に常在する酵母のこと)による自然発酵(温度調節等を行わない昔ながらの醸造法)にこだわっています。できあがったワインに対してもなるべく外部からの影響を受けさせたくないとの理由でスクリューキャップを使用。
クリストフ・トーレさん。
ワインをテイスティングしてみましょう。シングル・ヴィンヤードのザウライヤー・リースリング2015は、黄桃やアプリコットの香りがあり、暖かな日差しを思わせますが、ミネラル感がグッと印象を引き締めます。口の中ではトロリと粘性があり、コクが感じられます。
リースリングの魅力は果実味とミネラル感のランデブー。
もう1本のエステート・リースリング・ファインヘルプ2015は、日向夏の香りが生き生きと立つ軽めの微発泡性ワイン。飲むと思わず笑みがこぼれます。同じリースリングという品種を使って、まったく印象の異なる2本。これがクリストフさんの言う、畑の個性の違いなのでしょう。
リースリング(左)とシュペートブルグンダー(右)。
最後に、ドイツワイン界のもうひとつの注目株、シュペートブルグンダー(ピノノワール)の赤ワインを飲んでみましょう。野生の赤い果実とスミレの香りが生き生きとして立ち上ります。口の中では細身ながらテンションが感じられ、清廉でチャーミングな印象。熟成の際に20%だけ使ったという新樽由来の風味が絶妙なアクセントになっています。
総じて、このワイナリーのワインには奥ゆかしさが感じられました。ハーブや出汁を使った繊細な調味の料理に合わせてみたいところです。
次回も、ラインヘッセンの若手ワインメーカーを訪ねます。
家族経営のワイナリーらしい窓辺の装飾。
ブドウの花。この状態でちゃんと開花しています。
ライター、ワイン・ジャーナリスト、編集者
ワイン・ジャーナリストとして、これまで取材したワイン産地は11カ国30地域以上、訪問したワイナリーは約500軒に及ぶ。ワインと観光要素を結びつけた「ワイン・ツーリズム」の紹介に重点を置いている。各誌ワイン特集の企画・監修・ワインセレクトを担当することも。
吉田パンダ Panda Yoshida
フォトグラファー
世界の犬とおいしいものを、こよなく愛するフォトグラファー。スタジオ勤務を経て、2000年よりパリに拠点を移す。愛犬は黒いトイプードル。雑誌・広告媒体では吉田タイスケとして、旅、ライフスタイルを中心に幅広く活動。
texte: YASUYUKI UKITA, photos: PANDA YOSHIDA, collaboration: WINES OF GERMANY