イタリア政府観光局 ダンテゆかりの街、フィレンツェに惹かれる7つの理由。
Travel 2021.09.24
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2021年は、『神曲』で有名なイタリアの大詩人、ダンテ・アリギエーリ没後700年。日本人には難解な『神曲』を知らなくても、ダンテ生誕の地フィレンツェと亡くなったラヴェンナ……街そのものが美術館のような街は、いつだって魅力的な旅先だ。
イタリアに1265年に生まれ、1321年に没したダンテ。「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の3部からなる叙事詩『神曲』はダンテ自身が地獄や天国を巡り、ベアトリーチェに導かれて最後に神に会うというストーリーだ。そのダンテ研究者で『神曲』の翻訳や大ヒット歴史漫画『チェーザレ 破壊の創造者』の監修も手掛けた原基晶と、アートライター青野尚子が、ダンテにまつわる7つのキーワードからそのゆかりの地のさらなる魅力をナビゲート。旅に出られないいま、ユネスコ世界遺産でもあるフィレンツェの歴史に想いを馳せて。
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Keyword#01.
ルネサンス建築巡り、始まりはドゥオーモの南から。
青野:フィレンツェは15〜16世紀のルネサンス美術の宝庫。サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂やサンタ・マリア・ノヴェッラ教会などの美しい街並みも歩いていて楽しいですね。
原:いまのフィレンツェの街並みは、ダンテが生きた時代のおよそ200年後につくられたものです。しかし、ダンテはルネサンス文化の先駆者的存在として知られています。彼はヨーロッパ中世でいち早く、神や聖人ではなく、実在の人物や場所をモデルに詩を書いた画期的な人物。彼のリアリズムが、ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチら、ルネサンスの画家たちに受け継がれ、彼らはより精巧な表現に昇華させていきました。
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Keyword#02.
ダンテの鼻を捜せ!
青野:ルネサンスを代表する画家のひとり、ボッティチェッリもダンテの肖像を描いていますね。ダンテと同時代の肖像画やデスマスクもありますが、顔つきがそれぞれ違うように思います。
原:フィレンツェにあるヴェッキオ宮殿の博物館のデスマスクは本物のダンテの顔から型取りしたものではなく、後から作られたものと考えられています。ダンテと同時代を生き、交友があったであろう画家で建築家のジョットが描いたダンテの鼻もまた違う。最近の研究ではダンテは鷲鼻ではなかったという説が有力ですが、実際はどんな顔だったのか、『神曲』などから想像してみるのも楽しいと思います。
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Keyword#03.
疑似恋愛の舞台。
青野:『神曲』に登場するベアトリーチェは、ダンテ初恋の人と言われていますね。フィレンツェには実際にふたりが出会ったといわれる場所がいまもあるようですが。
原:ベアトリーチェは実在の人物ですが、最近の研究でふたりは単なる知り合いだった可能性が浮上してきました。彼女の兄とダンテは親友で、早世したベアトリーチェのためにお兄さんから詩を依頼されたようなのです。ダンテがベアトリーチェ以外の女性にあてた抒情詩も残されており、彼女との間には恋愛感情はなかった、というのが通説になりつつあります。現実のダンテはジェンマ・ドナーティという裕福な家の娘と結婚しました。ダンテはいわば逆玉だったと言えそうです。
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Keyword#04.
華やかな宮殿にまつわる切なさ。
青野:ダンテには詩人のほかにも職業があったようですが。
原:ダンテは政治家としても活動していたのですが、政争に負けて1302年に故郷フィレンツェを追放されてしまいます。もともとダンテの生家、アリギエーリ家は小さな金融業者でした。これまでは没落貴族だとされていましたが、現在ではそうではないとされるようになっています。こういった小口金融事業では貸し倒れで損を被らないよう、貸す相手となる人物をよく見る必要があります。そういう鋭い観察力が類いまれなる執筆活動にも生かされ、政治家としての顔にも一役かっていたと思うんですね。
青野:ドラマ「半沢直樹」シリーズを思い出させますね。苦労して育ち、金が人を狂わせる様子を間近に見ていたことが『神曲』を生んだのかもしれません。
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Keyword#05.
巨人たちが住むところ。
青野:フィレンツェ近郊で原先生のお気に入りの街はありますか。
原:ダンテ時代からその姿を残すモンテリッジョーニという街が好きですね。フィレンツェから車で1時間ほどです。14本の塔が立つ城壁に囲まれていて、この塔をダンテは地獄の谷を見下ろす巨人にたとえました。塔は47.5mありますが、もともとはもっと高かった。大砲が発明されると標的になってしまうので上部が切り取られてしまったのです。城壁の中の街は半日もあれば一周できる大きさですが、ホテルもあるし、ミシュランの星付きレストランもあるんですよ。
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Keyword#06.
実在するエデンの園へ。
青野:フィレンツェを追放されたダンテは海辺の街、ラヴェンナで「天国篇」を完成させ、そこで没しています。フィレンツェからラヴェンナまで、いまは車で2時間半ですが、ここでの見どころを教えてください。
原:有名なビザンチン様式の教会のモザイク画など名所もありますが、海岸沿いの松林、ピネータ・ディ・クラッセがお薦めです。ここは、『神曲』の「煉獄篇」第28歌のエデンの園のモデルになった場所。地上の楽園として書かれているのですが、まさにそのとおりの場所です。静寂に満ちた散歩道はまるで天国に続くようです。
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Keyword#07.
ダンテが教えてくれること。
青野:現代の私たちがダンテや『神曲』から学べることはありますか。
原:ダンテの時代、ヨーロッパでは気候寒冷化や大飢饉、疫病で人口が10%も減りました。こういった危機的な状況では、ダンテは「(人同士が)議論して、決定しなくてはならない」と言っています。生き残りをかけて殺し合うのではなく、共存を目指して、現状を把握したうえで話し合うべきと言っているのです。またダンテは実際の場所を舞台に人間の複雑な面を描いた、世界で初めてのリアリズム作家でもあります。フィレンツェや周囲の街に『神曲』の舞台が残っているのもそのためです。歴史の街イタリアで700年の時を超える旅を楽しんでください。
1967年生まれ。ダンテ研究者。現在、東海大学准教授。専攻は、イタリア文学、中世ルネサンス文化。ダンテ『神曲』(2014年、講談社刊)の新訳を上梓。監修する歴史漫画『チェーザレ 破壊の創造者』(惣領冬実著、講談社刊)は累計140万部を超える。
青野尚子
アート、建築を中心にするライター。池上英洋との共著に『背徳の西洋美術史』(エムディエヌコーポレーション刊)、『美術でめぐる西洋史年表』(新星出版社刊)、ペンブックス『ルネサンスとは何か。』『ダ・ヴィンチ全作品・全解剖。』(ともにCCCメディアハウス刊)、シヲバラタクとの共著に『新・美術空間散歩』(日東書院本社刊)がある。
cooperation: Motoaki Hara text: Naoko Aono