世界の独特すぎる、美しき墓地たち。
Travel 2021.11.13
ルーマニア・サプンツァの共同墓地 SORINCOLAC/iStock
海底の「ネクロポリス」から死者をおちょくる墓碑銘、断崖につるされた棺まで。地域色豊かな世界の墓地11カ所を紹介。
「美し過ぎる墓地は人を死へといざなう」とは、エクアドルの墓管理人の言葉。彼は墓地に植樹し、剪定をして見事な装飾庭園に仕立てた。死者の安らぎの場は生者の文化を物語る場でもある。世界各地の「死者の街」を訪ねてみよう。
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01. ハリウッド・フォーエバー
ロサンゼルス
photo: ALIZADASTUDIOS/iStock
『オズの魔法使』の名子役ジュディ・ガーランド、先住民の長役で鳴らしたアイアン・アイズ・コーディ、無声映画時代のイケメン俳優ルドルフ・バレンチノら往年のスターが眠る。コンサートや夏限定の野外映画会など各種イベントの会場ともなる。墓守を気取って敷地内をうろついているのはフラミンゴ。墓を映す凝ったスタイルの人工池は彼らの水浴び場でもある。
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02. ネプチューン記念リーフ
フロリダ州キービスケーン沖
photo: TODD ESSICK/NEPTUNE MEMORIAL REEF
人工リーフに築かれたこのネクロポリス(死者の都)の水深は12m。遺体は火葬され、遺灰をコンクリートに混ぜて、ライオンの彫像が見張りを務めるゲートの内側に安置される。ここを訪れるには、ダイビングのライセンスが必要だ。
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03. ハニツィオ島の墓地
パツクアロ湖(メキシコ)
photo: BETE MARQUES/iStock
毎年11月初めに行われるメキシコの伝統的な祭り「死者の日」。この日には各地から観光客や遺族が湖岸に集まり、キャンドルをともした何艘ものボートに乗り込んで死者が眠る島に向かう。遺族はオフレンダ(祭壇)をマリーゴールドの花などで飾り立て、土着の踊りに興じ、蒸留酒のメスカルを飲んで一夜を墓地で過ごす。祭りの間は墓地の鐘が繰り返し鳴らされ、死者の魂を呼び出す。
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04. トゥルカン墓地
トゥルカン(エクアドル)
photo: KALYPSO WORLD PHOTOGRAPHY/iStock
この墓地を管理する仕事をしていたホセ・マリア・アサエル・フランコ・ゲレロは敷地内に多数のイトスギの木を植えた。大きく育つと剪定して、インカのシンボルや神話に登場する鳥などの動物を形作り、見事な装飾庭園に仕立てた。死後は自らの作品のそばに埋葬され、生前語っていた言葉がその墓に刻まれた。いわく「美し過ぎる墓地は人を死へといざなう」。
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05. ホエーラーズ湾墓地
デセプション島(南極)
photo: PK VISUAL JOURNEYS/iStock
世界屈指の過酷な土地にも墓地はある。かつて捕鯨基地があったこの島には、廃墟となった建物と就労中に亡くなった漁師たちの墓、そして海に没した死者たちの慰霊碑が残されている。ここは活火山の島で、1969年の噴火で大半の墓は火山灰に埋もれてしまい、小さな十字架がわずかに残された。
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06. 陽気な墓
サプンツァ(ルーマニア)
photo: SORINCOLAC/iStock
明るい青の墓標には、故人の人柄や生涯が正直過ぎるほど正直に記してある。「大酒飲みだった」とか「仕事に追われる人生だった」とか。気難しい義母をおちょくった墓碑銘まで! 背景には死を厳粛なものではなく祝福すべきものと見なす伝統がある。
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07. 死者の街
ダルガフス(ロシア)
photo: MAKSIMMANEKIN/iStock
このロシア南部の辺鄙な村には16世紀にさかのぼる墓地がある。地元の言い伝えによると、ここに入ったら生きては出られない。疫病がはやった時期に患者はここの墳墓に隔離されて死を待ったとか。数人の死者を納めた舟形の木棺もある。川を渡ってあの世に行くと信じられていたと、歴史家は説明する。
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08. オリーブ山
エルサレム
photo: VENTDUSUD/iStock
聖書に登場するこの山にはユダヤ人墓地があり、現代ヘブライ語の父エリエゼル・ベン・イェフダーやイスラエル芸術の父ボリス・シャッツら著名人が眠る。山頂に立てば旧市街と神殿の丘、ユダヤ砂漠を見渡せるため、異教徒の訪問者も多い。
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09. ワディ・アル・サラーム墓地
ナジャフ(イラク)
photo: HOMOCOSMICOS/iStock
イラク中部のイスラム教シーア派の聖地ナジャフには、世界最大級の墓地がある。アラビア語で「平和の谷」を意味するこの墓地には500万人を超える死者が眠り、毎年何百万人もの生者が巡礼に訪れる。預言者ムハンマドの親族で、シーア派の初代のイマーム(指導者)であるアリーの霊廟もここにある。
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10. サガダのつるされた棺
エコーバレー(フィリピン)
photo: RWEISSWALD/iStock
ルソン島北部の山岳地帯に位置する村サガダ。ここに暮らす少数民族イゴロットは長年、松材の棺(ひつぎ)に遺体を納めて断崖につるす伝統を守ってきた。生前に自分の棺を作るのが彼らの習わしだった。高所につるすのは野生動物が遺体を損傷しないため、また水害などで遺体が腐るのを防ぐためだが、死者の霊魂が祖先の待つ天界に旅しやすいようにとの思いも込められていた。
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11. ウェイバリー墓地
ブロンテ海岸の崖(オーストラリア)
photo:IROSEBRUGH/iStock
シドニー郊外に位置し、タスマン海を見下ろすこの墓地は、野生動物の楽園にもなっている。ワライカワセミが墓石に止まり、キツネや爬虫類は古い石碑の下などに巣穴を掘る。細部に象徴的な意味を込めた凝った造りの墓地で、頭部のない石像は風化して崩れたように見えるが、生命の終わりを暗示するため意図的に造形されたものだ。
text: Meghan Gunn