名作を読んで、空想の「世界一周」の旅を。

Travel 2022.01.01

From Newsweek Japan

文/デービッド・ダムロッシュ(ハーバード大学・比較文学者)

古代ペルシャから平安時代の京都、現代のナイジェリアまで、名作の舞台となってきた多種多様な土地。本を通して世界一周の旅を満喫しよう。

211226-newsweek-03.jpgイランの都市シラーズ。TUUL & BRUNO MORANDI/GETTY IMAGES

ジュール・ベルヌの『80日間世界一周』に触発されて、ハーバード大学の比較文学者デービッド・ダムロッシュは「80冊で世界一周」を試みた。これらの本の舞台となった地はどれも、コロナの行動制限が解けたら行ってみたい場所ばかりだ。

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『80冊世界一周(Around the World in 80 Books)』デービッド・ダムロッシュ著 ペンギン・プレス刊 ©PENGUIN PRES

*本稿は上掲書からの抜粋です

01. 『奇妙な孤島の物語』ユーディット・シャランスキー著

英領ピトケアン諸島(南太平洋)

211226-newsweek-04.jpgMICHAEL DUNNING/GETTY IMAGES

あちこちの海に浮かぶ50の島をそれぞれ見開きで紹介したユニークな本。片側のページには手描きの素敵な地図があり、その対向ページには島にまつわる不思議な話が添えられる。ピトケアン島にやって来たのは、自由を求めて反乱を起こした英艦バウンティ号の乗組員たち。だが彼らを待っていたのは過酷な運命......。著者は言う。「パラダイスは島、地獄もまたしかり」と。

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02. 『アメリカの息子のノート』ジェームズ・ボールドウィン著

ニューヨーク

211226-newsweek-06.jpgMARCO BOTTIGELLI/GETTY IMAGES

黒人作家ボールドウィンが故郷のさまざまな風景を鮮やかに描く自伝的エッセイ集。ハーレム地区にある小さな教会からグリニッチ・ビレッジの素敵なジャズシーンにいたる自身の成長過程が、遠く離れたパリに滞在する著者の冷めた目線で語られる。「人種のるつぼ」ニューヨークの複雑な社会的・心理的ランドスケープが、ある意味まぶしい。

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03. 『オメロス』デレク・ウォルコット著

セントルシア(西インド諸島)

211226-newsweek-07.jpgPHILIPPE GIRAUDーCORBIS/GETTY IMAGES

古代ギリシャの偉大な詩人ホメロスの物語を下敷きに、漁師ヘクターとアキレスが美しきヘレンをめぐって争うさまを壮大な筆致で描いた叙事詩。クレオール語の対話にダンテやジェームズ・ジョイスの要素も織り交ぜた物語は島を超えて世界的な広がりを見せる。なお本書が出版されてから2年後の1992年、ウォルコットはノーベル文学賞を受賞している。

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04. 『家族の絆』クラリッセ・リスペクトール著

リオデジャネイロ(ブラジル)

211226-newsweek-08.jpgLUIZ SOUZAーNURPHOTO/GETTY IMAGES

リオに根差した物語でありながら、リスペクトールの小説は世界文学の域に達している。年老いた母は、現代の『リア王』さながらに義理の娘を拒絶する。ゴキブリの大群は、カフカの『変身』の主人公が増殖したかのようにキッチンを侵略する。リオを訪れたら、ノートを手にコパカバーナ海岸前に腰掛けるリスペクトールの銅像と並んで自撮りをするのも一興だ。

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05. 『ダロウェイ夫人』バージニア・ウルフ著

ロンドン

211226-newsweek-09.jpgLUNAMARINA/iStock

第1次大戦の傷がようやく癒えてきた1923年のロンドンを舞台に、ある1日を描いたウルフの傑作。主人公のダロウェイ夫人は、彼女の愛する「馬車や自動車、サンドイッチマンなどが入り交じりスウィングするロンドンの6月のこの瞬間」を感じて街を歩く。

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06. 『逃亡派』オルガ・トカルチュク著

クラクフ(ポーランド)

211226-newsweek-10.jpgEDWIN REMSBERG/GETTY IMAGES

古都クラクフは文学が盛んで、トカルチュクを含め6人のノーベル文学賞受賞者を輩出している。2018年に英ブッカー賞を受賞した本書のヒロインは、人体パーツを集めた博物館を訪ね歩く。116の断片的なエピソードをつなぎ合わせて縫い合わせた、不思議な作品だ。

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07. 『バイ・イッツ・カバー』ダナ・レオン著

ヴェネツィア(イタリア)

211226-newsweek-11.jpgSBORISOV/iStock

スイス人だが30年以上もベネチアに住んでいた著者の描く、ベネチアが舞台のベストセラー犯罪ミステリーの第23弾。ブルネッティ警部補が図書館で起きた窃盗殺人の犯人を、海中に水没しつつある美しい水の都で追う。

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08. 『なにかが首のまわりに』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著

ラゴス(ナイジェリア)

211226-newsweek-12.jpgAGAFAPAPERIAPUNTA/iStock

ナイジェリア出身の著名な女性作家による短編12本を収録。タイトル作に登場するナイジェリアとアメリカを行き来する人たちは、著者に言わせると「単一ストーリーの危険」を象徴しているらしい。舞台となったラゴスでは伝統と現代、家父長制とフェミニズム、都会の混乱と家族の絆が入り交じって不思議な魅力を醸し出す。

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09. 『無垢の博物館』オルハン・パムク著

イスタンブール

211226-newsweek-13.jpgEXPLORA_2005/iStock

イスタンブールを世界の文学地図に載せるために最も貢献した人物がノーベル賞作家のパムクだ。本書では主人公の裕福な青年がいとこに恋をし、彼女との思い出の品を大切に持っているのだが、やがて彼女との関係が終わると、その貴重な品々を展示する「無垢の博物館」を建てる。2012年にはパムク自身が、実際に同名の博物館をイスタンブールにオープンした。

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10. 『フェイシズ・オブ・ラブ』ハーフェズ、カトゥーン、ザカーニ著

シラーズ(イラン)

211226-newsweek-03.jpgTUUL & BRUNO MORANDI/GETTY IMAGES

14世紀のペルシャを代表する詩人ハーフェズら3人の作品を英訳した詩集。3人が暮らした中西部の都市シラーズのワインや歌、そしてロマンティックなライバル関係などが描かれる。神秘派のハーフェズと、エロチックな女流詩人カトゥーン、そして風刺の利いたザカーニ。この3人が語り出すシラーズは地上の楽園だ。

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11. 『源氏物語』紫式部著

京都

211226-newsweek-14.jpgD3SIGN/GETTY IMAGES

単一の著者による世界最古の長編小説とされる。平安時代の京都の貴族社会を舞台に、政界の権力争いやロマンティックな恋愛模様が、「光り輝く王子」である源氏の生きざまを通じて描かれる。深い心理的洞察に貫かれた1000年前の作品だが、主人公は最後まで紫の上(「紫式部」というペンネームの由来とされる)への愛に忠実だ。

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text: David Damrosch

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