近年、ニューヨークでは寿司やラーメンなどの日本食ブームとともに日本酒がトレンドとなっている。コロナ前に当地で開催された獺祭のイベントに行った時は本当に驚いた。何百人もの地元の人々が参加したその会場では、5種類ほどのテイススティングができたのだが、それぞれの味の特徴がわかるほどの日本酒通の人ばかりだったからだ。
実は、近年ニューヨークでは日本酒の酒蔵までいくつかオープンしている。なかでも最初にオープンしたのが、ブルックリンクラだ。アメリカ人男性2人が、日本滞在中に出合ったおいしい日本酒に感銘を受け、自ら酒蔵をオープンした。市内の水とアメリカのカリフォルニア産とアーカンソー産の山田錦などから作られたメイドインブルックリンの日本酒が飲めるようになって4年が経った。
できたての日本酒は市内のレストランのほか、酒蔵に併設されたタップルームでも味わえる。オープン当初より人気で、女性客もよく見かける。
「最高のSAKEを日本国外でつくる」という目標を掲げるブルックリンクラは、歴史ある日本の酒蔵とも積極的に交流し、タップルームでイベントを開催するなどもしている。2021年末には、「八海山」で有名な新潟県の八海醸造とパートナーシップを結ぶことを発表。 世界各国で日本酒の現地醸造が広まるなか、伝統的な酒蔵とニューヨークの新しい発想の酒蔵の協業は、ますますクリエイティブな日本酒のあり方を進化させていきそうだ。
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そして、大成功した日本酒の次に注目を浴びそうなのが焼酎。
「ニューヨークでは日本酒シーンが成熟して20年くらいになります。ラーメンブームより歴史は長いです」。そう教えてくれたのは、マンハッタンのイーストビレッジに近々オープン予定のバーGongo(五合)のマネージャー岡田崇宏氏だ。当地の飲食&アルコール業界に長年携わっている。
実際、焼酎は日本酒に比べ馴染みがないというニューヨーカーが多いのだが、大成功している日本酒に続いて焼酎にも勝算はあるのだろうか?
「興味のない人はないけれど、ある人はあるとはっきり分かれるのがアメリカ。焼酎、とくに焼酎カクテルは都市部に住む異なる食文化に探求心あふれる人々に受け入れられていくのではないかと思います」
現在このバーを含むニューヨークとロサンゼルスの8つのバーでは、2022年2月3日から3月6日まで期間限定で「SHOCHUカクテル」を提供している。日本食を海外で広める活動をしているジェイフードが主催する日本産の焼酎・泡盛のキャンペーンの一環で、人気ミクソロジスト9人とコラボしたカクテルは客の評判も上々のようだ。
アメリカでの焼酎の未来に期待が高まっている。
ニューヨークの人気バー「Oldies」のミクソロジスト、ジョン・カールソンさんによるYuzu Drop Martini。
text: Kasumi Abe
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在ニューヨークジャーナリスト、編集者。日本の出版社で音楽誌面編集者、ガイドブック編集長を経て、2002年に活動拠点をニューヨークへ。07年より出版社に勤務し、14年に独立。雑誌やニュースサイトで、ライフスタイルや働き方、グルメ、文化、テック&スタートアップ、社会問題などの最新情報を発信。著書に『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ 旅のヒントBOOK』(イカロス出版)がある。