現代アートの中に泊まれる、極上の温泉宿。
Travel 2023.05.17
京都・亀岡の湯の花温泉を代表する旅館「すみや亀峰菴(きほうあん)」。
かつてはジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻が訪れたことでも知られる1955年創業の老舗温泉宿が、世界的に活躍する現代美術家・柳幸典のプロデュースにより大胆なリノベーションを遂げたのが2021年。
訪れる客をアート作品で迎えるロビー兼ギャラリー「百代(はくたい)」をはじめ、伝統と現代美術が絶妙に融合する旅館へと生まれ変わった。
エントランスの突き当たりには、柳幸典による「アント・ファーム」シリーズの新作で、葛飾北斎の名画を再解釈した「Study for Japanese Art -Hokusai-」を展示。
静寂なムードが漂う「百代」。窓際に配置された陶芸家・石井直人の破れ壼をはじめ、数々の作品がさりげなく展示されている。
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中でもスイートルーム「呼風(こふう)」は、空間そのものがアート作品となった唯一無二の客室としてリノベーション当時も大きな話題を呼んだが、この4月に京都の帯匠「誉田屋」十代目当主・山口源兵衛による最後のアートピース「八重菊白金(やえぎくしらかね)」が加わり、完成を迎えた。
140平米の室内には、和紙職人・ハタノワタルによる手漉き和紙の壁面に囲まれた回廊や、天と地という対極的なテーマを表現したふたつの露天風呂、ここだけのスペシャルなメニューが堪能できるプライベートダイニングなどが備わり、京都/丹波を拠点とする作家や職人たちと柳幸典とのコラボレーションによるアートを体感することができる。
「呼風」の和室の壁面に飾られた「八重菊白金」。八重菊の文様はプラチナの糸で織り上げたもの。帯をアートピースへと昇華させたこともさることながら、それが空間の一部としてごく自然に溶け込んでいるのが素晴しい。
柳幸典による「天の風呂」。お湯という主役を視覚的に際立たせるべく、極限まで存在感をなくした透明の浴槽は空をイメージ。夕暮れとともに虹が現れる粋な趣向も見逃せない。この他に、左官職人・久住章と陶芸家・石井直人がつくりあげた「地の風呂」もある(上奥写真右奥)。
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photography: Mariko Tagashira
「呼風」の完成を記念し、柳幸典と山口源兵衛のトークイベントも開催された。「菊は湯の友であり、不老長寿の証。伊藤若冲の『菊花流水図』が本作のインスピレーションソースとなった」と語る山口源兵衛(右)。柳幸典(左)は「アーティストが設計段階から関われること、作品を自分だけで独占して観賞できるところ」を、今回のプロジェクトが他と異なる決定的な要素と語った。中央手前に見えるのは柳幸典の手による、戦艦長門を鋳物で制作した「Nagato70・Ⅰ-Ⅱ」。
住所:京都府亀岡市ひえ田野町 湯の花温泉
tel:0771-22-7722
客室数:25室
「呼風」の宿泊料:110,000円〜(2名利用時の1名分)
https://www.sumiya.ne.jp/
text: Mami Aiko