暮らすように旅するリトアニア [リトアニアへの旅]サウナにハーブティー、暮らしに息づく聖なる伝統に触れて。

Travel 2024.01.15

「一度体験したらサウナのイメージが変わりますよ」と噂に聞いていたリトアニアの伝統サウナ「ピルティス」。人々の暮らしに欠かせない「ハーブティーの淹れ方」や古くから伝わる「ライ麦の黒パン作り」。聖なる伝統と自然崇拝への意識が息づくバルトの国リトアニアへの旅をレポート!

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想像以上にスピリチュアル、伝統サウナ「ピルティス」とは。

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1994年にユネスコ世界遺産都市となっている首都ヴィルニュス。

北欧フィンランドの南のバルト海沿岸沿いにエストニア、ラトビア、リトアニアと続くバルト三国。一番南に位置するリトアニアは、北海道の8割ほど国土を有し、約300万人が暮らす。同じバルトでも首都が港に面したエストニアやラトビアとはひと味違い、内陸部に開けていて、大自然にあふれ人も風景ものんびりとしている。

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リトアニアは国の3分の1を森が覆い、大小3,000以上の湖が点在する森と湖の国。豊かな森林は古代から人々の暮らしとともに存在した。実に穏やかな時の流れの中で、心と体を本来の自分に戻してくれる場所、それがリトアニアだ。

街から20分も歩けば木々が茂り、都会に住む人たちも週末は田舎に足を延ばして自然の中で心身を癒す。森の中にサウナがあり、訪れる人も多い。

日本でも蒸気式の北欧サウナが知られてきたが、同じ北欧圏内でもフィンランドのサウナとは異なる。大きな違いは「バスマイスター」と呼ばれる指導者がいることと、白樺や柏の枝などで作ったウィスク(リトアニア語:ヴァンタ(vanta))で全身を叩くウィスキング(トリートメント)。どこの国とも違う、生まれ変わりの「儀式」として考えられているという。

地球のエレメントに感謝し、心を開放するひととき。

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ピルティスには命のサイクルを表す「冬」、「春」、「夏」、「秋」4つのセッションがある。まず「冬」からスタート。4畳半ほどのサウナ室の奥にドーム式の釜戸が備わり、上段に石が置かれ下段では薪が燃えている。石にまずマイスターが水をかけると最初の蒸気が上がる。これを「パラス」と呼び、皆で天井に手の平を向けて「パラス」に触れて挨拶をする。そして大きく深呼吸。

マイスターが、2回目の柄杓(ひしゃく)の水を汲んだ後、皆がその柄杓に順番に指を入れながら、各々自分の願いを言葉にして祈る。この最初のふたつの工程は日本の神道の「祈り」にも似ている。

水を再び石にかけた後、マイスターが大きなウィスク(木の枝を重ねたもの)で、団扇のようにして皆に蒸気をまんべんなく送る。ふわ~っと熱い蒸気が全身を包み込み、恍惚感があふれ出す。参加者皆が「お~っ!」と歓声を上げ、それは笑いに溢れた愉快なひと時で、サウナ室に一体感が生まれた。

それが何回か繰り返されると、最初はほとんど熱くなかったサウナ室が、一気に温度が上がり、汗がじわっと肌を伝わってきた。その後、マイスターがたっぷりと水を含んだウィスクを参加者全員にふりかけ、全身をウィスクで軽く叩く。それがまた気持ちよく再び歓声が上がる。231206-Lithuania-travel-19.jpg

そして8種類の木のウィスクが参加者に1束ずつ渡されて、自分の肌や顔、頭全体をパタパタと軽く叩いて、終わったら隣の人に自分が使ったウィスクを手渡す。ちなみに、ウィスクは白樺、樫の木、ネズの木、柏、胡桃、菩提樹、麻、フェンネルなどで作られていて、季節によって種類が変わる。

最後はハーブ入水が入ったボウルが一人ひとりに回ってきてそれで顔を洗い、ウィスクに顔をうずめて木々の力をいただく。これで「冬」のすべてが終わり、一度サウナ小屋の外に出てリラックス。昼間ならば、外のデッキチェアに横たわり風に吹かれて体を冷やす。

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ソルトの吸入セラピーと、蜂蜜マッサージでうっとり。

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春と夏の章。「春」では、ネズの木のエキスとカモミールなどを混ぜた新鮮なハーブ塩を各自が手にして、自分の体に擦り付けてウィスクを軽く叩いてトリートメント。「夏」のセッションでは、参加者同士がそれぞれの背中をウィスクで叩いてトリートメントをし合う。次は蜂蜜を全身に塗ってトリートメントする。マイスターは冬の時と同様、ウィスクで私たちを軽く叩いたり熱波を送ったり、を繰り返す。琥珀の粉を使うときもあるそうだ。最後はマイスターが皆にハーブ水を頭から全身にかける。そこでまたサウナ室が笑いに包まれて「儀式」は終了した。

「ピルティスを受けた後、人は本来の姿を取り戻し、すべてから解放されるのです」と話すマイスターのビルテさん。ビルテさんが体験の最初に「エモーションを隠さないで」と何度か口にしたのは、開放的なこの時間を楽しんでもらいたいからだったのかもしれない。疲れ切った体が、この開放的な体験でスベスベの卵肌になり、心も体もスッキリした。

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体と心を開放して、火と水にすべてを預ける。サウナ室にはピルティスの神様がいて、マイスターは私たちをピルティスの世界へ誘う役目なのかもしれない。ウィスクの木の葉を抱きしめた時の安心感は、人が自然と繋がっていることを感じさせた。森の民から学ぶリトアニア式のピルティスは、禅やメディテーションにも似た、精神的でスピリチュアルな世界そのものだった。

※通常は四季4つのセッションを4~5時間かけて行う。ヴィルニュスに住む若者たちは、伝統的なピルティスは年に数回、クリスマス前などの特別な休暇でリフレッシュしたいときに参加する。通常は、スーパーでウィスクを購入して、普通のサウナに通っているという。

今回取材したのは取材のみの対応となり、同じような体験は下記アドレスで行える。

アンゲル・マルナス
(Angelų malūnas)

Telšių rajonas, Luokės seniūnija, Kūlio Daubos kaimas
tel:+370 655 74447
www.angelumalunas.lt/en/
ゲルヴィウ・ジェスメ
(Gervių giesmė)

Viliūšių k., Jankų sen., Kazlų Rūdos sav.
tel: +370 686 30759
www.gerviugiesme.lt/en/
リトアニア・ピルティス・アカデミー
(Profesionalių pirtininkų asociacija)

Dainavos g. 3, 62466 Miklusėnai, Lithuania
tel: +370 689 56969
info@pirtininkuasociacija.lt (英語で要連絡)
https://pirtininkuasociacija.lt/en/home/

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薬草のチカラで体調を整えるリトアニア人。

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ハーブミュージアムを管理するティーマイスター、ラムーナス・ドゲラディチュスさん。

ピルティスと同様、リトアニア人の暮らしに欠かせないのがハーブ。知る人ぞ知るハーブの国として知られるリトアニアは、古来よりハーブティーをよく飲む。とくに体調が悪い時は、病状によって合う薬草がありそれをお茶にして飲んでいる。「病院でもらう薬は飲めばすぐに効きますが、長続きはしません。ハーブティーは時間がかかっても、病の根本を治癒してくれます。自然の力がその人の体調を元に戻してくれるからです」と話すのは、アニクシャイでハーブミュージアムを管理するハーバリスト(薬草師)、ラムーナス・ドゲラディチュスさん。たとえばキク科のアルテミシアというハーブは胃腸に良いとされ、2か月間飲み続けると回復するという。リトアニアに限らず、周辺諸国でも各家庭にさまざまなハーブを庭に植え、ちょっと頭痛がするというときにはハーブを採ってきてお茶にして飲む習慣がある。

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※写真はイメージです

ビッテレスレ(Bitkresle、学名:Tanacetum vulgare)という薬草は和名でヨモギギク。ガンに効くといわれているが、苦いので蜂蜜を入れて飲む。調べてみると、西洋では台所の入り口に植えられ、アリなどの虫除けとして使用されてきたとの説明もあった。
ミュージアム内のカフェでリトアニア式の正式なハーブティーの淹れ方を見学した。まず、石をコンロにおいて直接熱し、焼けた石を水に入れて沸騰させる。そのお湯を少し冷ましてティーポットに入れたら出来上がり。日本のお茶の淹れ方に通じるものがあるが、花は70度、茶葉は80~90度の温度にしてお湯を注ぎ、色が濃くなるまで待って飲む。

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いただいたお茶は、ハーブの花々をミックスしたお茶、ドングリのお茶、タンポポの根のコーヒー。ストレートに飲むのもよいが、蜂蜜やアーモンドミルクなどを入れて飲むのがリトアニア風。春と夏に採れた蜂蜜を両方いただき、絶妙な季節の甘さの違いが楽しめた。ドングリ茶は、アーモンドミルクを入れてカプチーノ風に。やさしい風味でとても飲みやすい。ドングリ茶は血液をきれいにして、濃くするという効用もあるそう。

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ミュージアムのカフェに置かれていた薬草は、白樺の芽、サルの腰掛、バレリアーニャ(心臓の薬)、琥珀。琥珀は4~5時間太陽にあてて水に浸すと琥珀酸が溶け出し、お茶になる。しかし、これを見ると、完全に東洋医学的な世界。「植物+石+動物で世界がつながる」とラムーナスさんも話していた。

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薬草師でもあるラムーナスさんは、幼少の頃に親からハーブの教えを受け、その後メディテーションを学び、23年前に大好きな薬草の仕事をスタートさせた。アニクシャイの自然公園の川や湖で薬草を約100種類は集め、さまざまな薬草をミックスさせてオリジナルのハーブティーを販売している。お店の名前はアルバトス・マギア(お茶の魔法)。夏至祭の1週間前に摘む薬草はいちばんエネルギーを有するため、その時期にたくさんのハーブを採り乾燥させて保存するそう。ちなみに、ここのタンポポの根のコーヒーは2017年のリトアニア最大のカジウク見本市で最高のリトアニア料理食に選ばれた実績がある。

◆アルバボス・マギア・アニクシャイ 
(Arbatos Magija Anykščiai)

Tilto g. 3B, 29106 Anykščiai, Lithuania
Tel: +370 607 92650  
営) 10時~18時 
休) 月、日
http://www.arbatosmagija.lt/
※「ティーセレモニーと心得」のクラスは1人10ユーロで予約できる。

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パンと会話する? リトアニア人の黒パン作り。

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リトアニアの主食、ライ麦の黒パンにも聖なる伝統が息づいている。首都ヴィルニュスから北へ車で約1時間半、大自然にあふれ、スキーリゾートとしても有名な人口約9,000人のアニクシャイという町の古民家博物館で昔ながらの黒パン作りを見学した。

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こちらの古民家博物館は、約150年前の建物を移築したオリジナルの古民家。メインダイニングの釜戸のほか、目に留まったのが、部屋の隅の上部に備わる祭壇の供物の黒パン! かつては、肉を毎日食べられないし、バターもチーズもない。毎日食べていたのは黒パンだけだった。当時のリトアニア人にはなくてはならない食材で、いまだに黒パンは聖なるものとして、祭られている。そんな場所だからか、新生児が洗礼を受ける場所でもあったという。

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リトアニアではライ麦以外の穀物は育たなかったため、パンの材料はライ麦しかなかった。食物繊維、カリウム、マグネシウムなどを多く含むヘルシーなライ麦は、バルト民族の体質にあっているという。昔ながらの黒パンを作るときは、必ず前回のタネを残しておいて、その上に新しいライ麦粉と水を混ぜて温かい場所に置いて新たな酵母菌を作る。経験がなければおいしい黒パンは焼けない。

「パンは、人間の話が分かるのです。パンを作るときは家族がいつも健康でありますように、とパンに話しかけながら作業をします」常に食べ物に感謝し、心を込めて家族のパンを焼くヤニナさん。自然の恵みへの想いをここでまた知ることができた。

ホース・ミュージアム (Arklio Muziejus)Niūronių k., Anykščių

営)9:00~17:00(土・日~19:00)
https://arkliomuziejus.lt
※古民家博物館はホース・ミュージアム内に併設。ホース・ミュージアムはリトアニアの馬の歴史について紹介している。 

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ヴィルニュスとアニクシャイのおすすめ宿。

最後に中世都市の佇まいの首都ヴィルニュス旧市街と、リトアニア北東部にあるスキーリゾートの町のおすすめの宿を紹介。

ラディソン・コレクション・アストリア・ホテル(ヴィルニュス)

Radisson Collection Astorija Hotel (Vilnius)

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リトアニアの南東に位置するヴィルニュス旧市街地の中心、聖カジミエル教会の目の前。街中を散策するのに最高の立地にある。客室はクラシックスタイルで高級感が漂い居心地もよく、ベッドボード上のタペストリーの絵画も美しい。食事も美味。サウナ、スパ、スイミングプールあり。サウナは無料だが、男女共有なので水着が必要。

ラディソン・コレクション・アストリア・ホテル(ヴィルニュス)
Radisson Collection Astorija Hotel (Vilnius)

Didžioji g. 35-2, 01128 Vilnius, Lithuania
Tel : +370 521 20110
1泊料金:111ユーロ~(2人1泊)
https://www.radissonhotels.com/en-us/hotels/radisson-collection-vilnius-astorija

ビストラムポリス・マナーホテル (パネヴェジーズ)
Bistrampolis Manor Hotel (Panevėžys)

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ヴィルニュスから北へ1時間ほどで着く田舎町アニクシャイ。どちらかというと、パネヴェジーズの街に近いが、これぞリトアニアの田園風景という景色の中に建つマナーハウス。15世末から存在する宮殿だったところで、現在のマナーハウスは1850年に建てられた。

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古典主義様式の2階建て。クラフトビール工房、広大な農場もあってさまざまな動物との触れ合いもできる。優雅な農場を散策できる夏がおすすめ。
現代社会で当たり前と考えていたさまざまな常識を、いったん立ち止まって考えさせられた今回のリトアニアの旅。リトアニア人の根底にある揺るぎないスピリットは、自然との共存にある。自分再生への旅、ぜひとも一度体験していただきたい。

ビストラムポリス・マナーホテル (パネヴェジーズ)
Bistrampolis Manor Hotel (Panevėžys)

Bistrampolio dvaras, Bistrampolio g. 1, Kučių k., LT-38240 Panevėžio r., 38240 Kučių k., Lithuania
Tel : +370 5 212 0110
1泊料金:55ユーロ~(2名1泊)
https://bistrampolis.lt/
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リトアニア政府観光局 https://lithuania.travel/jp/
photography: ©︎Giedrius Akelis

LOT機体写真.jpg

LOT ポーランド航空 https://www.lot.com/jp/en

※リトアニアのヴィルニュスへは、東京・成田からポーランド航空のワルシャワ経由便で行くのが便利。

Photography: Yayoi Arimoto  text: Sachiko Suzuki (RAKI COMPANY)

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