ファン・デザイナーという仕事、
そして香る扇子について。
Travel 2011.11.30
大村真理子の今週のPARIS
シルヴァン・ル・ゲン(1977年生まれ)。ロンドンの扇子博物館(The Fan Museum)でいくつかの扇の展示を終えたところだ。そのカタログによると、彼の肩書きはコンテンポラリー・ファン・デザイナーとある。
子どものときに祖母の隣家で扇子を初めてみたときに、まるで手品みたい!と、親が心配するほど、彼は扇に魅せられてしまった。閉じているときには見えなかったものが、開くと同時に眼にとびこむ、という3Dのような面も、子ども心を大いに刺激した。18歳の時にパリの扇子博物館を訪れ、そして、独学で彼は扇子作りの道を歩みはじめる。
上:ロンドンの扇子博物館が出版した図録。ミュージアムでは2012年2月26日まで、パリのガリエラ・モード美術館とのコラボレーションで、18世紀にヨーロッパ皇室の女性たちに愛されたフェリックス・アレクサンドルの扇展を開催している。 下:図録でシルヴァンのクリエイションを多数見ることができる。このページに紹介されているのは、羽とシルクでランの花を描いた扇子。横並びにみえるランの花が、扇子をとじると縦に並ぶデザインだ。
扇という枠の中でクリエイションを追求する彼は、日本の折り紙からも多くのインスピレーションを得ている。閉じて、開いて、という扇子には、確かに折り紙に似た部分がある。
彼は鼈甲、象牙、白蝶貝など昔の扇の骨を活用している。そうした素材にアルミや木を貼り合わせて、強化するのだ。扇面にはレース、クリスタル、羽といった扇子に似つかわしいフェミニンな要素を用いたものがあるが、見慣れたものとは一線を画すクリエイションがそこには見られる。また、閉じているときは一輪の花しかみえないが、扇をひらくと同時に折り目に畳み込まれていた花々がぱーっと開く、という驚きが隠されているものや、大中小の3サイズの入れ子式扇子という楽しいアイデアのものも。
フランシス・クルクジャンのブティックで、11月のある日、シルヴァンの仕事を紹介する小さな集まりが開催された。右下の3点が入れ子式の扇で、上から大、中、小。
彼はパフューマーのフランシス・クルクジャンとのコラボレーションで、香る扇もクリエイトした。扇面はとても薄い革とオーガンジーの組み合わせで、その革の部分を組み立て前に香水に漬け込むことで匂い付けがされている。その方法は、その昔手袋に香りがつけられたのと同じだそうだ。フランシスのメゾンでは革に香りをつけたブレスレットを販売しているので、そうした技術には事欠かない。かくして黒と白のモダンな扇がふたりのコラボレーションによって誕生した。
上:フランシスとのコラボレーションの香る扇にも使用した極めて薄い革は、楽器に使われるものとか。 下:フランシス・クルクジャンのブティックで販売されている革の香るブレスレット、Tout Atour(180ユーロ)。香りは「Aqua Universalis」、「APOM」、「Lumière Noire」の3種類。
ロンドンの扇博物館のカタログのカバーになっているのは、香水をかぐときに使う短冊状のムイエットを立体的にならべた扇である。これはフランシス・クルクジャン創業10周年の記念パーティに際して創られたものだという。ムイエットの紙は香りによって若干色がつくことから、通常より少しばかり黄みがかった紙が使われたそうだ。開くと、まるで鳥が大きく羽を広げるような印象を受ける、とても立体的な扇。このすばらしいクリエイションは現在、パリ1区のフランシスのブティックのウィンドーに飾られている。
シルヴァンは写真家や画家ともコラボレーションしている。古くさいオブジェに思えていたが、シルヴァンの仕事により扇に向ける視線が変わる、といってもいいかもしれない。
写真家アルベール・ルモワンヌとのコラボレーション。写真を焼いた印画紙をオーガンジーに貼付けている。
Maison Francis Kurkdjian
5, rue d'Alger - 75001 Paris
Tel. 01 42 60 07 07
営)11時~13時30分、14時30分~19時
休 日、祭
http://www.franciskurkdjian.com