パリ、ジュ・ドゥ・ポーム美術館で
クロード・カーアンの写真を見る。
Travel 2011.06.08
大村真理子の今週のPARIS
扮装した自分を被写体にしてポートレート撮影をするアーティストというと、シンディー・シャーマン、森村泰昌といった名前があがるだろう。彼らより、もっともっと早い時期に同じように撮影していた女性がいる。その名はクロード・カーアン(1894~1954)。現在、ジュ・ドゥ・ポーム美術館で回顧展が開催されている。
左:1927年撮影のセルフポートレート。©RMN / Gérard Blot 右:1929年撮影のセルフポートレート。©Photo André Morin
左:1929年撮影のセルフポートレート。©Musée d'Art Moderne de la Ville de Paris/ Parisienne de Photographie 右:1927年撮影のセルフポートレート。©Collection Soizic Audouard
初公開写真を含め、展示作品は140点。その中の扮装作品は1920年代後半に撮影されたものだ。女性でもなく男性でもなく、中性がいちばん自分にフィットすると語っている彼女。会場に入るや目に飛び込んでくる頭を丸刈りしたセルフポートレート(この記事には掲載なし)は、大変インパクトが強い。この時代にあって、実に大胆な試みといえる。
クロード・カーアンとはどんな女性なのだろう。彼女が残した写真、文筆作品同様に、彼女の人生も興味深いものがあるので、簡単に紹介しよう。
彼女の本名はリュシー・シュオッブという。ナント市に生まれたが、ユダヤ排斤主義者たちの犠牲となり、幼少期はイギリスで教育を受けている。15歳でナントに戻った彼女は、その後アーティスト活動も生活もともにすることになる女生徒のシュザンヌ・マレルブ(後のアーティスト名はMoore)と高校で知り合う。偶然にも、クロード・カーアンの父親が、シュザンヌの母親と再婚したことで、ふたりは義理の姉妹となるのだ。この展覧会では1930年代にクロードが製作したシュールレアリスティックな写真も多く展示されているが、その中にふたりの共同作品を見ることができる。
1939年頃撮影のセルフポートレート。©Jersey Herirtage
1939年頃撮影のセルフポートレート。©Jersey Heritage
1930年代のパリで、シュールレアリストたちが集っていたモンパルナス。彼女たちのアパルトマンもその界隈にあり、ふたりはアンドレ・ブルトンを始め、大勢のシュールレアリストたちと親交を深める。彼らとの活動は、ふたりがジャージー島に1938年に引っ越した後も続いた。
移り住んだ島がドイツ軍に占領された1940年からは、クロードはシュザンヌの協力を得て、レジスタンス活動に精力を傾ける。その結果ゲシュタポに逮捕されたふたりに死刑宣告が。幸いにもドイツ軍による減刑のおかげで死刑は免れ、1945年には自由を取り戻す。その後シュールレアリストたちと再び活動をとパリに戻るものの、クロードは健康を害し、1954年心臓発作で61歳の生涯を閉じる。
左:「Pupée I (Prends un petit baton pointu) 1936年撮影 ©Richard and Ronay Menschel 右:フォトモンタージュはMooreとの共作。©Photo Béatrice Hatala
9月25日まで開催のこの展覧会では、サセックス大学映画部門の教授であるLizzie Thynneが製作した「the story of Claude Cahun」が上映されている。45分と長いので、時間に余裕をもってジュ・ドゥ・ポームに出かけるのがいいだろう。なお美術館ではこの後も女性写真家の展覧会が続く。10月18日から2月5日まで『ダイアン・アーバス』展、2月21日から4月29日まで『ベレニス・アボット』展が予定されている。
1, place de la Concorde 75008 Paris
Tel. 01 47 03 12 50
開)12時~21時(火) 12時~19時(水~日)
閉)月
入場料:8.50ユーロ
http://www.jeudepaume.org