パリのグルメの理想郷、
シャングリラ・ホテル。
Travel 2011.09.28
大村真理子の今週のPARIS
昨年末、ヨーロッパ初のシャングリラ・ホテルがパリにオープンした。パレ・ドゥ・トーキョーやガリエラ美術館、ギメ美術館から遠くない場所にあり、地下鉄イエナ駅から徒歩1~2分という便利な立地だ。 ヨーロッパ初のこのシャングリラ・ホテルは、東京よりずっと小規模でスイートを含めて合計81室。
イエナ通りの10番地の建物を前にすると、ホテルに入るというより、招待を受けて知人の豪邸にお邪魔するという感じがする。パリの歴史建造物に指定されている建物は、ナポレオンⅠ世の弟リュシアンの孫にあたるロラン・ボナパルト(1858~1924)がかつて暮らしていた邸宅だ。1896年に完成し、イエナ・パラスと命名された。
探検家、地理学者、植物学者として知られたロラン王子はこの邸宅に当時の文化人や学者たちを多く招き入れ、またアジア諸国も見聞している人物。シャングリラの名前は、ジェームス・ヒルトンの小説に登場するチベットの理想郷に由来する。そのチベットもロラン・ボナパルトは旅しているというから、彼のかつての邸宅がシャングリラ・ホテルになったのも、縁なのかもしれない。
さてきめの細かいサービスは フランスではあまり経験できないものだけに、このホテルはその点で"アジア資本のホテルならでは!"とパリの人々の関心を集めている。でも、それは日本人には珍しくないこと。では日本からの観光客には、このホテルの何がうれしいかというと、タイプの異なる3つのレストランとバーだろう。
庭に面したレストランは、フレンス料理のラベイユ。シェフのフィリップ・ラベによる料理は、香りだけでなく視覚的にも食欲をそそる。夜だけの営業というのが残念だ。
フレンチレストラン、ラベイユ。ヒラメ(上中左/90ユーロ)、マス(上奥右/65ユーロ)、スズキ(上中右/75ユーロ)など、幅広い魚料理のチョイスがうれしい。お菓子のように見えるのは前菜のフォアグラ(上左/75ユーロ)。デザートも料理同様、愛らしい(上右/23ユーロ)。
午前6時30分から23時までノンストップで営業しているのは、ラウンジタイプのラ・バウイニア。メニューはフレンチ30パーセント、アジアン70パーセントという割合で、食事時間以外はティータイムが楽しめる。1930年代のアールデコ・スタイルの丸いガラス天井から差し込む光が快適なスペース。朝食をとりにくるのも悪くないかもしれない。
エントランス・ホールの奥に広がるラウンジ・レストラン、ラ・バウイニア。メニューには、フランス的にヒラメのグージョネット(上奥右/42ユーロ)もあれば、インドネシア風魚料理のオタック・オタック(上左/40ユーロ)もある。締めくくりのデザートにはまるで花のように盛りつけたパイナップルのカルパッチョ(上右/14ユーロ)を。
3つめは、この秋オープンした中華料理のシャン・パラス。パリの高級ホテルで中華料理というのは、シャングリラ・ホテルならではだろう。広東料理をつくるのは、もちろん中国からやってきたシェフと料理人たち。彼らはフランス語を解さないので、通訳がついている、というのが面白い。本国人にしか作れない高級中華料理がパリで味わえる、というわけだ。
シャン・パラスは、庶民的な13区や20区の中華街のレストランとはまるで別世界のシックな内装。エビを包んだ赤ライスのクレープ(上奥右/19ユーロ)、蒸しパンを添えた豚とアサリのソテー(上中/38ユーロ)、季節の野菜と炒めたエビ(上左/42ユーロ)、カボチャのデザート(上右/14ユーロ)。
アルコール派におすすめのバーは、16時から翌朝2時までオープン。高級ホテルの中で異国を旅しているような錯覚に陥るインテリアの落ち着いた空間である。
オリジナルカクテルの「ピンク・レディ」は、30年代にこの建物に暮らしたエルシー・ドゥ・ウルフにちなんだものという。女優からインテリアデザイナーに転身し、その先駆的な仕事と生き方が、米ヴォーグ誌の名物編集長だったダイアナ・ヴリーランドにも影響を与えた女性だ。ベージュ好きで"ミス・ベージュ"とも呼ばれていたそうだ。なぜカクテルが「ピンク・レディ」なのか。これはバーでカクテルを味わいながら、ぜひバーマンに教えてもらおう。わさびや四川胡椒を使ったカクテルもある。夕方や深夜に小腹がすいたときに、点心をつまみながらという寛ぎの時間を過ごすのもよいだろう。寒い季節には暖炉がうれしいバーでもある。
大理石を惜しみなく使った豪奢なエントランス・ホールなどのパブリックスペースや大階段は、食事に訪れれば堪能できる。もちろん予算が許せば、ホテルに宿泊を。1泊の室料は750ユーロから18,000ユーロ。