これを着て踊るの? オスカー・シュレンマー展へ。

Paris 2016.12.21

パリの装飾芸術美術館で開催中の『バウハウスの精神』展で、オスカー・シュレンマー(1888~1943)がデザインしたバレエ衣装が来場者を驚かせ続けている。彼の名前はカンディンスキーやマルセル・ブロイヤー、ラズロ・モホリ・ナギなど、バウハウスを語る時に上がる名前に含まれることが少ないし、バウハウスとダンスというのも、あまり語られないからかもしれない。シュレンマーは、20世紀前衛芸術の代表作家のひとりである。彫刻家、壁画家、デザイナー、教員……という複数の顔を持つヴィジョネアだった。

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ポンピドゥー・センター・メッスの『オスカー・シュレンマー』展に展示されている「トリアディック・バレエ」の衣装。素材はメタル、プラスチック、スポンジなど。

装飾芸術美術館で展示されている立方体、円錐、球体の衣装は彼による創作『トリアディック・バレエ』のためのもの。これを着た人間がどんな風に踊れるのだろうか? この疑問に答えてくれるのが、メッスのポンピドゥー・センターで1月17日まで開催されている『オスカー・シュレンマー/踊る男』展である。

細長い会場。中央の3つのステージにずらりと並んでいるのは『トリアディック・バレエ』のコスチューム、そしてマスクだ。タイトルにもあるように「3つ」という数字にこだわった創作で、黒、ピンク、黄色と3つのシークエンスにステージは分かれている。ステージの両サイドの壁を、この衣装に関わる多数のデッサンが囲む。

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コスチュームのパレード! 左のステージの5点は黄色のシークエンスの衣装。その右のステージはピンクのシークエンスの衣装だ。

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会場の壁を埋める「トリアディック・バレエ」のための衣装デザインの数々。
©2016 Oskar Schlemmer, Photo Archive C. Raman Schlemmer ,
www.schlemmer.org

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左:黒のシークエンスの衣装。 右:ピンクのシークエンスの衣装。

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左:彫刻のようだが衣装である。これを着た人間の動きには制約があり、そこからシュレンマーはバレエの振り付けを考えた。
右:マリオネットの機械的な動きも彼の興味の対象だった。

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このバレエは衣装から生まれた作品で、そこから振り付けが生まれ、音楽がつけられて……という工程を辿っている。ちなみに音楽を担当したのは、ポール・ヒンデミットだ。振り付けがあって、衣装がつくられるクラシック・バレエと逆の流れをとり、ダンス界のコードを覆す独創的なものだった。シュレンマーがこの作品に取り組みを始めたのは、1916年。1922年9月にシュトゥットガルトで初演された(公演に際し、彼は仮名でダンサーとして参加)。この時の成功を、彼は抽象のフォルムの勝利、と表現している。翌年、ワイマールのバウハウス校でも公演が行われ、その後、ドイツ国内のさまざまな都市でも踊られた。1932年には、フェルナン・レジェの招きでこの作品はパリのシャンゼリゼ劇場で開催された振り付けコンクールに参加し、銅賞を受賞している。

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左:「トリアディック・バレエ」のカーテンとマスク。
右:黒子のダンサーが動かした「ワイヤーリングのダンス」(1927)。

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人体、人間と空間の関係についての考察も追求していたシュレンマー。

会場内に設置された大きなスクリーンで、『トリアディック・バレエ』の再演時の映像を楽しむことができる(メッスまで行かれない人は、youtubeで鑑賞を!)。100年近く前に生まれた斬新で個性的なこの作品が、後世の振り付け家やコスチュームデザイナーに与えた影響は計り知れない。

シュレンマーはバウハウス校において、1920年から29年まで教授を務めている。最初は彫刻のアトリエで人間工学の授業を、そして1923年からは舞台のアトリエの授業を受け持った。1929年にバウハウスを去った後、イゴール・ストラヴィンスキーと仕事をした時期がある。展覧会は特に時代順の構成ではないが、会場は入ったら左側に進み、ぐるりと回るのがよさそうだ。というのも、こうして一周をすると、このストラヴィンスキーとの仕事について当てられているパートを最後にみることになるからだ。ここのメインは、ストラヴィンスキーの歌劇「ナイチンゲール」の衣装、舞台装置である。なお、右奥の小部屋はバウハウスとバレエをテーマにした書籍や、バウハウス絡みの作品を展示している。

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左:手前は、ストラヴィンスキーの「ナイチンゲール」のための舞台装置。1920年代とは思えぬカラフルでモダンな仕事だ。
右:台の上の子供の椅子は、マルセル・ブロイヤー作。シュレーマンがデッサウのバウハウス校の教授舎に引っ越して来たときに、彼の長女のためにブロイヤーが制作した。

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左:会場の入り口に掲げられたバウハウスの印章。カンディンスキーの希望で、シュレンマーが1923年にデザインした。
右:ポンピドゥー・センターのエントランス・ホールには針金による顔と人体の展示があるので、入ったら目を上へ。

この展覧会場の下のフロアでは、3月27日まで『Un musée imaginé』展が開催されている。時間が許せば、覗いてみよう。読書を禁じ、書物を焼却するというレイ・ブラッドベリーのSF 小説『華氏451度』にインスパイアされた展覧会で、「2052年、もしアートがこの世から消えたら」というのがサブタイトルだ。小説では、物語を未来に残すべく本を暗記する本の国が登場するように、この展覧会では後世に残すアートを記憶しようというもの。展示されているのは、マルセル・デュシャン、アンディ・ウォーホール、ルチオ・フォンタナ、ブリジェット・ライレー、ルイーズ・ブルジョワ、シグマール・ポルカ、河原温……。パリのポンビドゥー・センターやリヴァプールのテイト、フランクフルトのモダンアート美術館からの作品も含め約100点で構成されている。

「想像のミュージアム」というタイトルの展覧会らしく、最後の一室は来場者が会場をまわって記憶したものを描いて残すカードの部屋である。ここは本の国ならぬ、アートの国、というわけだ。

白い帽子をかぶったような板茂の建築によるメッスのポンピドゥー・センター。来年は、大規模な日本展の開催があるという。内容は建築、モード、ダンスなど多岐の分野にわたるというから、楽しみにしよう。

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左:「変容: 平凡の昇華」の部屋。左から、マルセル・デュシャン『Fresh Widow』(1920/1964)、ロベール・マラヴァル作『Grand aliment blanc』(1962年)、ダニエル・スポエリ作『La douche (Détrompe-l'oeil)』(1961年)
右:『画像の継続』の部屋。

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左:『un musée imaginé』展より。 イザ・ゲンツケンのインスタレーション「OIL XV; OIL XVI 2007 」(2007)。
右:パリ東駅から約1時間半。Metz(メッス)駅で下車し、Centre Pompidou方面の出口へ。渡り廊下風の通路をたどると左に広場があり、その奥にポンピドゥー・センターの建物が見える。

Oskar Schlemmer / L’homme qui danse展
会期:2017年1月17日まで

Un musée imaginé展
会期:2017年3月27日まで

Centre Pompidou-Metz
1 , parvis des Droits de l’homme
57020 Metz
開館:10:00~18:00
休館:火
www.centrepompidou-metz.fr/

réalisation:MARIKO OMURA

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