パリは今、アフリカ!!
Paris 2017.05.17
故人のアフリカ人写真家として名高いセイドゥ・ケイタの写真展がグラン・パレで開催されたのは昨年夏のこと。そして、「City Guide / Afrique à Paris」(シティ・ガイド/パリのアフリカ)が出版され……そして今、パリはますます“アフリカ”で賑わっている。5月末にはラ・ヴィレットでは1週間のアフリカン・フェスティバルも! 誰もが簡単にアフリカのヴァイブレーションを感じられるパリの5つのアドレスを紹介しよう。
■フォンダシオン ルイ・ヴィトンでアフリカの現代アートを発見する。
フォンダシオン ルイ・ヴィトンでは目下4フロアを使って、3つの視点からアフリカの複数の国のアーティストたちの最新作品を紹介している。フランク・ゲーリー建築の巨大な建物内には、絵画、写真、インスタレーション、映像など多様な表現方法で制作された作品から発せられる熱いエネルギーが充満しているよう。展示されているアーティストたちは、日本に知られてない名前が多いのではないだろうか。この展覧会は未知のアーティストの作品に触れられる素晴らしい機会。理想的には、ビデオ作品をじっくりと鑑賞する時間を割ける余裕をもって訪れるのがいいだろう。
エスカレーターをアフリカの国々の旗がカラフルに下降していき、エントランスホールのブティックの上にも作品が展示され……館内、ギャラリー以外のスペースも要チェックだ。
「Les Initiés(レジニシエ)」と題された、地下1階のフロアからスタートするのがおすすめ。 というのも、ここはミリオネアでアートコレクターであるジャン・ピゴッツィが1989年から2009年に集めた1万点のアフリカのコンテンポラリー・アートから、象徴的な15名の作品を展示しているからだ。1989年に彼がコレクションを始めることになったのは、ラ・ヴィレットで開催された「大地の魔術師たち」展で、シェリ・サンバ、キンゲレズなどの作品を知ったことがきっかけ。彼のコレクションのアドバイザーに選ばれたのはそのキュレーターだったアンドレ・マニャンで、彼はサハラ以南で活動する現地のアーティストたちの元へと出向いてゆき、かくしてアフリカの現代アートシーンを紹介する類い稀なるピゴッツィ・コレクションが作り上げられた。アフリカのアートに精通していない人はこのフロアの展示作品を見ることによって、ピゴッツィが1989年に得た興奮をわかちあうことができる。アフリカの現代アートへの、素晴らしい入門をここで果たせるのだ。地下1階へは、アフリカ諸国の国旗に装飾されたカラフルなエスカレーターで!
左:地下の「les Initiés」の会場内。ブルーの壁にかけられたのはポリタンクを素材にしたRomuald Hazouméによるお面の数々。手前のポリタンクをつなげたスクーターは同じ作家の作品である。
右:社会、政治などをテーマにしたChéri Sambaの絵画の前で、人々はゆっくりと時間をかけて鑑賞する。
左:地下1階の会場より。廃材と豊かなクリエーティヴィティの出会いから生まれたお面からほとばしるエネルギーが凄い。
右:2015年にカルティエ財団の「Beauté Congo」展でも紹介されたBodsy Isek Kingelezの作品に再会できる。
Seidou Keita, Malick Sidibeなど現代写真家の作品も見応え十分。
第2パートの「Etre là(Being There)」 は、地上階とその上の2フロアを使っている。これはピゴッツィのコレクションフロアを補完する役を果たすのが目的の展示。南アフリカのダイナミックなコンテンポラリー・アートシーンを舞台に活躍する15名のアーティストの作品が見られる。国際的に知名度があり、その社会政治的な取り組みが若い世代に影響を及ぼしている1970年代生まれのアーティストたちの作品。1980年代生まれのアーティストたちからは、南アフリカのアパルトヘイト直後のアイデンティティの葛藤について問う作品を選んで展示している。ビデオやインスタレーションなど表現媒体はさまざまでも、植民地化の歴史にフォーカスをあて、黒人であり、南アフリカ人であることを肯定し人種、肌の色、ジェンダーを超えて個のアイデンティティを主張した作品ばかり。ダイナミズム溢れる2フロアである。
Jane Alexanderによる「Infantry with Beast」に始まり、2フロアを使ってインスタレーションや写真など現代アーティストの作品を展示。
William Kentridgeによるトリプティック・ビデオ「Notes Towards a Model Opera」(2015)。11分強と短くないが、席を立つ人は少ない。
アフリカ人作家の中でも知名度が高く、最近あるオークションでは彼のコラージュ作品が4千万円近い価格で落札されたとか。
最上階Niveau2では、フォンダシオンの所蔵品から、祖国を離れて活動するアフリカ人アーティストやアフリカ系アメリカ人アーティストたちの作品を4つのギャラリーで展示。展覧会を締めくくる最後の第11ギャラリーでは、現在NYで活動をするケニアの女性アーティストであるワンゲチ・ムトゥのビデオアートが見逃せない。カミュの小説でもおなじみのシーシュポスの神話の現代アフリカ版といえばいいだろうか。10分45秒と短くないが、途中からではなくぜひ最初から鑑賞して欲しい。アフリカのアーティストにあまり詳しくないという人は、地下1階からこのフロアに来て、その後第2パートを巡る方が馴染みのないアフリカのコンテンポラリー作品に近づきやすいかもしれない。
セネガル生まれの写真家Omar Victor Diopが、16~19世紀のアフリカの歴史の主要な人物に自ら扮して撮影したシリーズ。
Wangechi Mutuによる10分45秒のビデオ作品「The End of carrying All」(2015)。背負う荷が徐々に増やしながら画面を左から右へと進む女性の姿に、見る者の背にもずっしりと感じるものがある。photos:Mariko OMURA

「Art /Afrique, le nouvel atelier」展
会期:2017年8月28日まで
会場:Fondation Louis Vuitton
8, avenue du Mahatma Gandhi
75116 Paris
tel: 01 40 69 96 00
開)12:00~19:00(月、水、木)、11:00~21:00(金)、11:00~20:00(土、日)
休)火曜
www.fondationlouisvuitton.fr/ja.html
≫ ギャラリー・ラファイエットで出合う、モードなアフリカ。
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■現代のアフリカと気軽にデパートで出会うのもいい。
ギャラリー・ラファイエットでは6月25日まで全館あげて「Africa Now」 。主役はアート、デザイン、モード、音楽……アフリカの現代のクリエーションだ。モード館のオスマン大通り側に緑を茂らせ、その青く熱い匂いは道行く人に異国にトリップしたような錯覚を起こさせる。ショーウインドーを飾るのは、若手ファッションフォトグラファーLakin Ogunbanwoの作品だ。
Lakin Ogunbanwoの写真と商品を組み合わせたパワフルでカラフルなウインドーが、オスマン大通り沿いに続く。
モード館内、3階と4階ではアフリカを連想させる植物や花の大柄プリントで装ったマネキンたちが並び、気分を盛り上げる。ギャラリー・ラファイエットのオリジナルブランドのコーナーでも、マネキンたちがワックスプリントの布でターバンをし、ポリタンクを持って、といった遊びで参加。このイベントを記念して、アフリカのコードを用いたKoché, JW Anderson, Rochasなどのスペシャルアイテム、ワックスプリントを使ったパリ・ブランドとして有名なMaison Château Rougeによるエクスクルーシブ・アイテムの販売をしている。
モード館内、あちこちのディスプレーがアフリカンテイストを取り入れたこの夏の装いのヒントをくれる。
左:エクスクルーシブ商品のひとつは、Radのスウェット。34.90ユーロ。
右:アフリカといったらヘアサロン! こんなプリントも楽しい。
メゾン・グルメ館では、アフリカらしい幾何学パターンや色合わせなどの食器やクロスなどが勢ぞろい。ゼブラ、アンティロープなどアフリカの動物を手描きした食器は買い逃せないかも。
メゾン・グルメ館のNow Africa。インテリアにもファッションにも活用できるプリント布の豊富なセレクション。
モード館の2階にあるアートスペースGalerie des Galeries(ギャルリー・デ・ギャルリー)では、6月10日まで「The Days That Comes」という展覧会を開催中。アフリカのコンテンポラリー・アーティストたちのインスタレーション、ビデオ、写真などの展示で、フランスで紹介されるのが初めていというアーティストも含まれている。フォンダシオン ルイ・ヴィトンまで行く余裕がないなら、コンパクトにまとめられたこの展覧会へ、ぜひ。
アフリカの新世代アーティストの写真、インスタレーション、ビデオなどに触れられるThe Day That Comes」展は6月10日まで。フォンダシオン ルイ・ヴィトンで紹介されている作家の作品も展示している。photos:Mariko OMURA
【モード館】
40, bld Haussmann 75009 Paris
【メゾン・グルメ館】
35, bld Haussmann 75009 Paris
営)9:30~20:30(日 11:00~19:00)
無休
http://haussmann.galerieslafayette.com/ja/
≫ 若手デザイナーが手がける地域貢献型ブランドに、いまパリが注目。
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■パリのアフリカ地区発、メゾン・シャトー・ルージュ。
昨年左岸のデパート、ル・ボン・マルシェで開催された「パリ!」展で若手パリブランドのトップバッター的に紹介されたメゾン・シャトー・ルージュ。今年はギャラリー・ラファイエットの「Africa Now」展でも限定品が販売される注目ぶり。
左:18区のミラ通り、ひときわカラフルなブティックがメゾン・シャトー・ルージュだ。
右:ブティックの奥でコンピュータ相手に仕事中の、デザイナーのひとりユーセフ(右)、対外担当のメディ(中央)、マーケティング担当のヨハン。
これはアフリカの伝統的な装いに使われるワックスプリントの布を使ってスポーツウエアにインスパイアされたクリエーションをする人気のブランドだ。デザインするのはユーセフとママドゥのフォファナ兄弟で、彼らと仲間たちが3年前に立ち上げた。使用するのは18区の地元商店が扱う布、利益の一部をアフリカ援助のための団体に寄付、ブティックに置いてある写真集や雑誌は地元民の閲覧用……社会貢献型ブランドなのである。
左:ブティック奥のグラフィックなコーナー。ぜひ、ここでセルフィーを。
右:布はオランダで生産されているものがほとんど。模様にはそれぞれ意味があり、分厚いパターン集も存在するほど。人気モチーフはツバメ、そしてオリンピックとか。
ワックスプリントの素材はコットンなので、服には特に季節はない。また近頃はインターネットのおかげで季節の異なる地球の裏側の人からもオーダーがあるゆえ、春夏物、秋冬物という年に2回のリズムでの新作発表はしていない。では次はどんな新作が? というと、レインコートだそうだ。ビニール引きしたワックスプリントを使うそうで、販売開始予定は9月とか。これは楽しみ!
左:雑誌や写真集は彼らの資料だが、地元の人々に開放している。
右:アフリカ産のハイビスカス・ドリンクBANA BANA の販売も開始した。
地下鉄駅Barbes-Rochechuouart(バルベス・ロシュシュアール)の北に広がるグット・ドール地区は、パリのアフリカ地区の代名詞。とりわけ隣のChâteau Rouge(シャトー・ルージュ)駅の東側には、アフリカの魚や野菜が扱う市場、ワックスプリントの商店、アフリカ人のためのヘアサロンなどが軒を連ねる一角が広がり、活気にあふれている。メゾン・シャトー・ルージュのブティックがあるミラ通りもその一部だが、最近はビオのレストラン食堂La Cantine やハイブリッド書店La Régulièreなどがオープンし、なんとなく新ボボ地区に変貌を遂げつつあるようだ。メゾン・シャトー・ルージュに買い物に行くなら、いまのうちに異国情緒溢れる界隈散策を。
左:アフリカの人々で賑わうバルベス・ロシュシュアール駅前。昨年テラス席が快適なBrasserie Barbèsがオープンした。
右:シャトー・ルージュ駅近くの、ドゥジャン通りとプーレ通りにアフリカ産の野菜や魚の市場が並ぶ。この界隈に来たなら、せっかくだからエレガントなサペたちに会いたい? ブティックSAPE & Coはパナマ通り12番地にある。photos:Mariko OMURA
≫ バザール気分を味わえるブティックで、掘り出し物を発見しよう。
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■手編みのカゴから自然派スキンケアまで揃えたバザール。
新しいブティックやレストランなどが次々とできて、シャトー・ドー通りの動きはなかなか活発。今年2月にオープンしたとても小さなブティックのAsbyAs(アスバイアス)には、南アフリカ産がメインのインテリア小物、ファッションアクセサリーがバザールのようなエキゾチックな雰囲気を呈している。でも、その一角にシックなパッケージングのスキンケアの品が並べられているのが面白い。
アフリカのライフスタイル・ブティック。ファッションアクセサリー、食器、家具、化粧品……扱っていないのは食料品ぐらいだ。
オーナーは薬剤師の資格を持つアンヌ・ソフィー・カディで、不思議な店名はAuthentique Scent by Anne-Sophieの略。植物に興味をもつ彼女は、AfricologyとRainという南アフリカ発の2つのスキンケア・ブランドをパリジェンヌたちに提案している。どちらも100% ナチュラルで、例えば前者はルイボス、アフリカンポテト(!!)、アロエベラを原料にしているそうだ。
小さなブティックの奥のビューティー・コーナーはとてもシックだ。
ガゼルの皮のバッグ、ビーズを使って手作りした動物やジュエリー、シュエシュエと呼ばれるアフリカでプリントされる布、籠細工、再生紙を使ったオブジェ……ひとつひとつの品に都会人には未知の物語がこめられている。このブティックを介して、アンヌ・ソフィーは伝統的なテクニックを用いたコンテンポラリーなアフリカの職人仕事の作品の紹介にも力を注ぎたいと意欲的な買い付けを続けている。
左:南アのケープタウン発のブランドSHINESHINEのプレートやクッション。
右:ビーズと針金でつくられた動物たち。サファリのスター、ビッグ・ファイブもこれなら簡単に揃えられる。
左:ビーズのブレスレットやペンダント。ウンデベレ族が家の外壁に描くモチーフをビーズで表現しているブレスレットやペンダントは39ユーロ〜。
右:手編みのバスケット、リサイクルペーパーの器など掘り出すのが楽しくなるブティックだ。photos:Mariko OMURA
30, rue du Château d’Eau
75009 Paris
tel:06 11 46 69 80
営)11:30~13:30、14:30~18:30
休)日、月
www.asbyas.fr
≫ パリ土産にも最適、おしゃれなパッケージのルイボスティー。
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■アフリカといったらルイボスティーという人のための店。
マレのMEP(Maison Européenne de la photographie/ヨーロッパ写真美術館)のお向かいに、Cape and Cape(ケープ・アンド・ケープ)が半年前にオープンした。ルイボスティーとケニア、コンゴ、ルワンダなどの農園で摘まれた紅茶が専門のティーハウスだ。店内は2つのパートに分かれていて、左側が紅茶の缶を棚に並べた販売カウンターで、右に広がるのはティールームを兼ねたアフリカのアートや雑貨を展示販売するスペース。オレンジ色の壁にアート作品がかかり、中央のテーブルにはアフリカの陶器やビーズをつなげた手作りのビッグ・ファイブが並び……旅心が誘われる。
ブランド創始者のマチアス&ジェルヴァンヌ・ルリドンはアフリカの現代アートのコレクターでもある。このスペースはティーハウスにとどまらず、アフリカの芸術の発信の場の役割も果たしている。
左:マレ地区散策からシテ島散策の合間、ルイボスティーで一服してみては?
右:ビーズ細工。アフリカの花プロテアが見事だ。
ケープタウンの北部のセダーバーグ山脈を原産地とするルイボスティーは抗酸化効果が高いだけでなく、さまざまな効能を持つので、南アフリカ万歳と叫びたくなるうれしいお茶であることは今や誰もが知るところだろう。ケープ・アンド・ケープでは30種近いルイボスティーを揃えている。Green Mountain、Flirt avec Scarlett、Citrus Kiss、Piece of Cakeなど、フルーティだったりスパイシーだったりといった味に合わせて遊んだ命名が面白い。パッケージングもカラフルで可愛いので、パリ土産にしても喜ばれそう。
左:ルイボスティー、アフリカ産の紅茶、緑茶などバラエティ豊かな品揃え。
右:セネガルのパパイヤ・ジャム、タマリンド・ジェリーは各6ユーロ。photos:Mariko OMURA
African House of Tea
12, rue de Fourcy
75004 Paris
営)11:30~19:30
休)月
www.capeandcape.com/fr
réalisation:MARIKO OMURA