自由な発想が生んだ新しい香り、「ツイリー ドゥ エルメス」
Paris 2017.08.25
マイ・ファースト・エルメスはシルクスカーフ! こう誇らしげに語る女の子たちが、こぞって身にまとうことになりそうな香水がもうじきエルメスから発表される。その名は「ツイリー ドゥ エルメス」。2016年1月に香水のクリエーション・ディレクターに就任し、レザーとバラの香り「ギャロップ ドゥ エルメス」を大人の女性に捧げたクリスティーヌ・ナジェル。次なる香りは、その「ギャロップ ドゥ エルメス」より若い世代から着想を得てつくられた。
8月29日から発売が開始される「ツイリー ドゥ エルメス」 photo:Quentin Bertaux
どんな香りかというと、フレッシュでミステリアス、ウッディかつスパイシー。香水の名前につけられた“ツイリー”というのは、細長いリボンタイプの、エルメスではカレの妹のような存在のスカーフだ。そのツイリーもカレも含めて若い女の子たちが自分の美意識に沿って自由にアレンジしてファッションを楽しむ様子、彼女たちが放つ自分らしさを表現したいという意欲が、クリスティーヌにこの香りづくりのヒントを与えたのだという。
「香水の原料を決まった使い方ではなく、私なりのやり方で使って彼女たちに新しいことを語ってみるのはどうかしら!?」と。
大人になる直前の女性たちの自由で大胆な精神が、クリスティーヌ・ナジェルに調香のアイデアを与えた。photo:Hermès
彼女が思いついた素材はジンジャーだ。といっても、「ツイリー ドゥ エルメス」をスプレーしても、ジンジャーを感じ取れる人は少ないだろう。
「私はジンジャーの香りが大好き。ジンジャーは香水の世界では、新鮮さを感じさせるために極めて少量を調合します。でも、私はジンジャーを軸にした香りをつくってみたいと思ったのです」
これが出発点だったが、クリスティーヌは問題にぶつかってしまった。ジンジャーの量を増やすと、どの産地のものでも生姜風味がたってしまうのだ。その問題を解決できたのは、ドライではなく根茎が生のジンジャーのエッセンスとの出会いである。とてもジューシーで、量を増すにつれ、フレッシュというより、むしろ燃え立つような香りに。増やし続け、かなりのパーセンテージに至ったところで新しい香りのベースが出来上がった。
「シルクにたとえれば、豊富なジンジャーで織りあげたところに、次は色をのせてゆく、ということになりますね。ごく自然にチュベローズが思い浮かびました。この花の香りは魅惑的で決して無関心ではいられない、といったものなので好き嫌いが分かれますね。劇的な香りです。私がこれを思ったのは、チュベローズが持つ優しく肌を撫ぜられるような感じや、そのオーラゆえ。というのも、それこそが女性の隠された一面をパーフェクトに物語るものだから。若い女性が持つ、本人も気づいていない秘められたセンシュアリティには、心を乱されますね。それを表現するのがチュベローズだと思ったのです。この香りは3つの素材からなっていて、最後のそれはサンダルウッドです。私には、これはエルメスそのものなのです。ノーブルでエレガントで希少……。香水の世界ではサンダルウッドはそのミルキーな面が求められるのですが、中心には蜂蜜のように甘いアニマルノートを感じることができるんです。香りのクセになる、というのはそこから与えられるもの。サンダルウッドはこの新しい香りにアニマルノートをもたらすエレガントな方法だわ! と思いました」
エルメスの香水クリエーション・ディレクター クリスティーヌ・ナジェル。オーデコロン「オー ドゥ ルバーブ エカルラット」が、エルメスでの最初の香り。photo:Liz Collins
ジンジャー、チュベローズ、サンダルウッド。香水の世界ではクラシックな素材ばかりなのに、調合のルールを逸脱することで魅惑的で軽やか、そしてコンテンポラリーな香りが誕生したのだ。これが実行できたのは、エルメスというメゾンだからこそ、と彼女は強調する。
「クリエイターに100パーセントの信頼を置くエルメスでは、自由があります。これはとても幸せなことです。一方で私の肩にかかる責任は大きいのですけど、とても強い、これまでに存在しなかった何かをつくりだすことが可能なのです」
ルールの逸脱は香りだけに限らない。ボトルについても言えることだ。ボトルをデザインしたのは、カレのデザインも手がけるフローランス・マンリク。エルメスには“ランタン”ボトルといって、さまざまな香りに使われている丸い肩の細長いボトルがあるが、フローランスはそのボトルをまるでハサミを入れたかのように、ジョキっとカット。若い女の子がママのワードローブの中に見つけた素敵なスカートの丈をカットして、ミニスカートに! という発想である。そして彼女はボトルの黒いキャップをオーバーサイズにした。まるで山高帽のようで、ちょっとスウィンギング・ロンドンのイメージ。その帽子に最後の仕上げとして、シルクの“スパッゲティ”をリボン結び! こうして、なんともお茶目なボトルが完成したのである。
シルクの“スパゲッティ”を帽子のようなキャップにリボン結びしたボトルも、すごくチャーミング。「ツイリー ドゥ エルメス」オードパルファム ナチュラルスプレーは3サイズあり。30㎖ ¥9,180、50㎖ ¥13,500、85㎖ ¥18,900(8/29発売) photo:Quentin Bertaux
クリスティーヌは若い子たちがツイリーを自由自在に楽しむさまを発見した時に、別の発見もしている。
「エルメスで私にとって思いがけなかった発見は、色の世界なんです。とりわけシルクコレクションのファンタジーに溢れる色の世界……これには驚かされました」
シルクを紡ぐようにつくられた香りは、カレの柄「新たなる占星術」をまとったとても陽気でカラフルなボックスに納められている。
自由な発想から生まれた新しい香りは、ツイリーと同じように、ちょっとした、それでいて自己演出に大切なアクセサリーとして活用したくなる。日常生活を自分の意思できらきら輝かせて楽しむ女性なら誰もが好き! と思うはず。これは若い世代だけに独占させておくのは、もったいない!
シルクリボン“スパゲッティ” photo:Benoît Teillet
パリ郊外にあるクリスティーヌのアトリエ。奥のラボは床が革張りで、とてもエルメスらしい環境だ。
ジャスミンとバラが植えられた仕事場のテラス。エルメスのさまざまなメティエの職人たちが働く建物が向かいに見える。この辺りはシルクの紡績工たちが多く暮らし、職人の街だったそうだ。photos:Benoît Teillet
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