ディオール展、最後はヴェルサイユ宮殿の舞踏会。
Paris 2017.10.14
>> パート1 『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』展の全て。
>> パート2 ディオール展で知る、後継者たちが紡ぐ美しいテーマ。
<パート3>
2フロアの鑑賞を終えたら、いったん地上階に戻り、ル・ネフ(中央大広間)と呼ばれる向かいの建物へと。エントランス・ホールでニュー ルックの「バー」スーツが出迎えてくれる。このスーツの展示の後方左右には、ジョン・ガリアーノとマリア・グラツィア・キウリの解釈による「バー」スーツが。吹き抜けの高い壁にアトリエ作業やフィッティングなどのフィルムが投影され、クリスチャン・ディオールがクチュールメゾンを築いたモンテーニュ大通り30番地にあたかも入って行くような作りとなっている。
「ニュー ルック」
1947年2月にクリスチャン・ディオールが発表した初のクチュール・コレクション。メインとなった8ラインと花冠ラインは、どちらもウエストがきゅっと絞られ、バストが強調されたフェミニティが特徴だった。その中でも細いウエストからたっぷり広がるスカートが花を思わせる「バー」スーツは、コレクションの代表的作品。バーと命名したのは、クリスチャン・ディオールのクチュールメゾンと目と鼻の先にあり、エレガントな女性たちが集まるホテル・プラザ・アテネのバーに由来する。


1947年のニュー ルックの「バー」スーツ。左後方にジョン・ガリアーノ、右後方にマリア・グラツィア・キウリの再解釈による「バー」スーツを展示。
ニュー ルックと呼ばれる彼の初コレクションだが、これはクリスチャン・ディオールが名付けたものではない。有名すぎる話かもしれないが、ショーを見に来ていたアメリカのハーパース・バザー誌の編集長カーメル・スノウが“なんとも新しいルック!”と感嘆してディオールの仕事をたたえたことに由来している。第二次世界大戦の爪痕が残るパリで、当時、女性たちが着ていたのは少量のダークな布地でこしらえた、女性的とは言いかねる服。ディオールによる花のようなドレスはまさに“ニュー ルック”の登場だったのだ。
エントランスの中央階段上にはそのニュー ルックをテーマにした展示が、左右に広く、そして見上げる高さのウインドウに合計27シルエット。気圧されそうになるが、ここは冷静に観察を。左の縦長ウインドウの5シルエットと右の縦長ウインドウの5シルエットは、クリスチャン・ディオールの歴代のクリエイティブ・ディレクターたちによるものだ。ラフ・シモンズが去った直後に発表されたルーシー・メイヤー&セルジュ・ルフィユーによる2016年春夏のクチュール・コレクションの仕事も含まれている。この左右のウインドウにおいて、クリスチャン・ディオールが残した美しい遺産がいかに後継者たちによってその時代にあった再解釈がなされ、受け継がれてゆくかを見るのは、感動的である。


左右の縦長のウインドウに、クリスチャン・ディオールの後継者たちの仕事が集められている。
中央のウインドウではクリスチャン・ディオールのニュー ルック(主に「バー」スーツ)がどれほど大勢のクチュリエやクリエーターに影響を与えたかを17点のシルエットで展示。ドリス・ヴァン・ノッテン、アルベール・エルバスのランバン、コム デ ギャルソン、ニコラ・ジェスキエールによるルイ・ヴィトン、ロシャス……。上二段はプレタポルテブランド、下段の7シルエットはバレンシアガやパカンなどのクチュールメゾンのものだ。その中のコートは、クリスチャン・ディオールが独立以前に働いていたメゾンであるルシアン・ルロンのクリエーション。つまり、初コレクションでディオールは、早くもかつての師に影響を与えた、というわけだ。さすがクチュール界のアイコン・ルックとなるだけのことはある。
「6名の後継者」
次は、クリスチャン・ディオールの後継者6名をひとりずつ紹介していく6ブースだ。つまり、イヴ・サンローラン(在1958〜1960)、マルク・ボアン(在1961〜1989)、ジャンフランコ・フェレ(在1989〜1996)、ジョン・ガリアーノ(在1997〜2011)、ラフ・シモンズ(在2012〜2015)、そして現在のクリエイティブ・ディレクターであるマリア・グラツィア・キウリ(在2016〜)という順である。ブースの作りは各人同様で、中央に掲げられたポートレート写真を囲むように左右に代表作が展示され、その向かいの壁には雑誌などに掲載されたモード写真と語りのビデオ映像など、という構成だ。


Yves Saint-Laurent(イヴ・サン=ローラン)。在任は1958〜1960年。クリスチャン・ディオールの急死により主任デザイナーに選ばれたのは、彼がまだ21才の時だった。最初のコレクションでトラペーズ・ラインを発表し、メゾンにスタイルの若さをもたらした。
Marc Bohan(マルク・ボアン)。在任は1961年〜1989年。徴兵されたイヴ・サン=ローランに代わって、就任。1967年にプレタポルテ・コレクション、ベビー ディオールをスタートした。長い在任期間中、スタイルの変化に見事に対応するクリエーションをし、グレース・ケリーやエリザベス・テイラーなどの女優をはじめ大勢の顧客の女性たちから厚い信頼を得ていた。2018年春夏プレタポルテ・コレクションで、マリア・グラツィア・キウリは彼の仕事からもインスピレーションを得ている。
Gianfranco Ferre(ジャンフランコ・フェレ)。在任は1989〜1996年。LVMH社がオーナーとなったメゾンの、初のアーティスティック ディレクター。失われていた刺繍やレースなどのサヴォワール・フェールを復活した、装飾的なクリエーションが特徴だった。


John Galliano(ジョン・ガリアーノ)。在任は1997年〜2011年。クリエーションはエキセントリックそのもので、トップモデルの時代との相乗効果もあって毎回センセーショナルなショーが話題を呼んだ。
Raf Simons(ラフ・シモンズ)。在任は2012年〜2015年。ガリアーノが去り、彼が就任するまでの間は、ガリアーノの右腕だったビル・ゲイテンがクリエーションを担当していた。構築的でグラフィックなシモンズのクリエーションは、どちらかというとミニマル。しかしドレスの裏側には長時間の繊細で緻密な作業が施されていた。




Maria Grazia Chiuri(マリア・グラツィア・キウリ)。在任は2016年〜。シモンズ退任後は、デザインチームからルーシー・メイヤー&セルジュ・ルフィユー(現カルヴェンのクリエイティブ・ディレクター)が間をつないでいた。彼女の就任で、メゾンに初の女性アーティスティック ディレクターが誕生したことになる。この展覧会準備時には、まだ彼女による初クチュール・コレクションしか発表されていなかった。とはいえ、アトリエのサヴォワール・フェールがぎっしり詰まったドレスは素晴らしく、またアーティストのクロード・ラランヌによるジュエリーも見られ、展示はとても豊かだ。ムードボードも展示。
≫ メゾンの要、アトリエ仕事にフォーカス。
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「1947年から2017年のアトリエ」
ここは、トワルがずらりと並ぶ真っ白い空間である。「真の素材と真の職人仕事を真のリュクスは必要とする」と語っていたクリスチャン・ディオール。そんな彼にとって、アトリエの仕事はメゾンの要だった。彼の頭に生まれたクチュールの夢は、職人たちの作業によって実現されたのだから。それがわかりやすいように、この部屋の壁には、彼が描いたクロッキーも展示されている。これらクロッキーが技術担当のディレクターの手に渡り、フルー(ドレス部門)とタイユール(スーツ、コート部門)のアトリエに配分され、そこでトワルが制作され……実際に使われる布が選ばれるのはこの後のこと。こうした作業の流れは今も変わっていない。


トワルが並ぶ真っ白い空間。一角にクチュール・アトリエが再現されている。メゾンのサヴォワール・フェールを実際に見せる作業も。
「ディオールのアリュール」
白い空間の次には、黒い空間が待っている。ここは展覧会で唯一、クリスチャン・ディオールからマリア・グラツィア・キウリまで、時代を追ってラインの変遷を見ることができる展示だ。会場の右から左へとスタート。ディオールによる11体、その後に、各人2シルエットずつが続き、合計23体が並ぶ。
シーズンごとに基本となるシルエットにライン名をつけていたクリスチャン・ディオールは、“女性の身体に捧げる、うたかたの建築”と、自分の仕事を例えていた。彼のこの考えは、後継者たちにもしっかりと受け継がれていることが、一列に整然と展示された服が物語っている。
1947年から2017年までの“衣服の建築”を右から左へと。
≫ フィナーレは、豪華絢爛なヴェルサイユ宮殿の舞踏会!
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「ディオールの舞踏会」「スター」
展覧会の最後の部屋に入ろう。吹き抜けの大空間を使っての「ディオールの舞踏会」。パート1の導入部にもあえて項目があるように、クリスチャン・ディオールの舞踏会好きはとても有名で、自分でもあれこれ参加して楽しんだだけでなく、戦後に開催された豪奢極まりない舞踏会の出席者たちのドレスをクリエートし……。


天井の高い空間にプロジェクション・マッピングが効果的に活かされた「ディオールの舞踏会」の会場。
舞踏会がテーマなのだから、この空間にはクリスチャン・ディオールと6名の後継者のクリエーションの中からとりわけ豪華絢爛なソワレばかりが選ばれている。プロジェクション・マッピングで壁にヴェルサイユ宮殿をイメージさせる映像を投射し、まるで宮殿の舞踏会場に紛れ込んだような気分が味わえる。映像は明るい春景色、降り注ぐゴールドの星、夜空といった展開があり、それに合わせて空間の照明に変化があるため、ハイライトのヴェルサイユ宮殿に映像が戻るまでカメラを構えてじっくりと待っている来場者も少なくない。


ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌによるハイジュエリーのクリエーションにもインスパイアを与えた、クリスチャン・ディオールによるソワレの名作「ジュノン」。マリア・グラツィア・キウリは初のクチュール・コレクションでパステルカラーの花弁が軽やかな「ニュー・ジュノン」を発表し、女性を花に例えるファム・フルールの新しいヴィジョンを提案した。


パリ装飾美術館とクリスチャン・ディオールの関係のシンボル的ドレスは「ソワレ・ブリヤン」(1955年)。パリ装飾美術館で1955年に「18世紀フランスの偉大な高級家具師」展が開催された際に、クリスチャン・ディオールが所蔵する家具も出展され、さらに彼は美術館内でクチュールショーを催した。その中の1点がこの「ソワレ・ブリヤン」だ。会場の壁には、オーギュルスト・ルノワール、トマス・ゲインズバラなど時代もスタイルも異なる6名の女性の肖像画が飾られている。これはディオールのフェミニティの表現に影響を与えた女性たちである。芸術を愛し、巨匠たちの作品に敬意を表していたディオールに相応しい展示でもある。


目がくらみそうに高い4段の展示の両サイドには、シャーリーズ・セロンが香水ジャドールの広告で着たドレスを合計5点展示。ジョン・ガリアーノ3点、ラフ・シモンズ1点、そしてルーシー・メイヤー&セルジュ・ルフィユーによる1点だ。
舞踏会の奥のステージは、「スター」のテーマでまとめられている。ジェニファー・ローレンス、ジュリアン・ムーア、ダイアン・クルーガーなどのセレブリティがセレモニーで着用したクチュール・ドレスには、各人のパーソナリティが感じられるようで面白い。
モンテーニュ大通りにアパルトマンを持ち、私生活でもクリスチャン・ディオールのクチュール・ピースで装っていたマレーネ・ディートリッヒ。監督アルフレッド・ヒッチコックに「ディオールなしには、ディートリッヒの出演もなし」と『舞台恐怖症(ステージ・フライト)』(1950)での衣装をディオールが担当することを出演の条件にしたのは有名なエピソードだ。彼女は『情婦』(1957)でも、再びディオールの衣装で出演している。
セレブリティの写真や映画のワンシーンを流すステージ上の画面では、上記の作品なども見られる。また、サガンの小説『ブラームスはお好き』が原作の映画『さようならをもう一度』(1961)で、室内装飾家の主人公を演じるイングリッド・バーグマンのエレガントなスーツ姿は要チェックだ! イヴ・サンローランによるデザインである。これがディオールのメゾンでの彼の最後の仕事となった。
クリスチャン・ディオールの時代からのハリウッドや王室との密接なつながりは、今も変わらない。「スター」のステージでは、女優やセレブリティのためにクリエイトされたドレスの数々が見られる。


エマ・ワトソン着用のマリア・グラツィア・キウリによるタロット・カード・ドレスや、エリザベス・テイラー着用のマルク・ボアンによるドレス。この機会だからこそ鑑賞できる素晴らしいドレスが並ぶ。
トータル3,000平米を使っての展示。美術館のホームページでは鑑賞に2時間を予定することを提案しているほど、見どころ満載の内容の濃い展覧会である。時間に余裕をもって出かけよう。
>> パート1 『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』展の全て。
>> パート2 ディオール展で知る、後継者たちが紡ぐ美しいテーマ。
会期:開催中~2018年1月7日
Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli
75001 Paris
開)火〜水、金11:00~18:00(チケット販売終了17:15)
木 11:00~21:00(チケット販売終了 20:15)
土日 11:00~19:00(チケット販売終了 18:15)
10月12日より 木 11:00~22:00(チケット販売終了 21:15)
休)月、12月25日、1月1日
料金:11ユーロ
www.lesartsdecoratifs.fr
réalisation:MARIKO OMURA