ネオ・ブラッスリーの時代。
Paris 2018.01.26
日曜も営業していて、ランチのサービス開始以降、夜の閉店まで何時でも食事ができる。1日の時間を思い通りに使いたい旅行者には、そんな“Service continu(セルヴィス・コンティニュ)”をうたうブラッスリーは大歓迎では? ここのところパリで再び増えつつあるのが、このタイプのレストラン。スペースは広く、そして価格は超お手頃というのもこの手の店の共通項だ。
<その1>ブイヨン・ピガールで行列。
地下鉄ピガール駅のお向かいに昨秋オープンしたのは、ブイヨン・ピガール。オーナーはオテル・プロヴィダンス、ブラッスリー・バルベス、レストランのシェ・ジャネットなどを経営し、パリっ子の胃袋の気持ちを読めるムーシエ一家だ。店名につくブイヨンとつく店は、例えばオデオンには1906年に創業され、15年位前にアールヌーヴォーの内装そのままに営業が再開されたブイヨン・ラシーヌがある。また9区で観光客を集め続けている19世紀末開店のシャルティエも、ブイヨン・シャルティエが正式店名。 ひたすら煮込んだ価格の張らない種々の部位の肉と、そこから生まれた栄養いっぱいのスープ(ブイヨン)を販売していた店から始まったのだ。


ベンチ席が連なり、まん丸いランプが天井からぶら下がるのが典型的なブラッスリー・スタイル。ブイヨン・ピガールはそのエスプリを生かした今っぽい内装だ。photos:Benoît Linero
ブイヨン・ピガールは開店と同時に行列のできる店となった。予約をとらないこともあるが、メニューを眺めればさらに納得できる。というのも、前菜がバーミセリ入り牛肉ブイヨンの1.80ユーロに始まり、最高でも8.80ユーロ。メインも、8.50から11.50ユーロ、そしてグラスワインは3.20ユーロという手頃さである。価格に敏感なパリっ子たちが当然集まってくるのだ。庶民のブラッスリーといった雰囲気が今風の内装に漂う店内は200席という広さ。さらにテラスにも100席! 陽気が良くなるにつれ、行列の長さがのびてゆきそう。
ブラッスリーなら、これが前菜になくては!! というのが、ゆで卵にマヨネーズ(たいがいが自家製!)を添えたウフ・マヨネーズだ。1.90ユーロ。
前菜のロス・ア・モワル(牛の骨髄)。中のぷるんとした髄を田舎パンにのせ、粗塩をちょっとふっていただきます! 3.90ユーロ。この後メインには何があるかというと、コキエット・パスタを添えたブッフ・ブルギニヨン(9.80ユーロ)、ポトフ、(11.50ユーロ)、ブランダッド・ド・モリュ(9.20ユーロ)など、ブラッスリーの定番がメニューに並ぶ。
デザートはプロフィトフォール(4.50ユーロ)、リ・オ・レ(2.80ユーロ)、ポワール・ベル・エレーヌ(3.80ユーロ)など。photos:Benoît Linero
22, boulevard de Clichy
75018 Paris
tel:01 42 59 69 31
営)12:00~24:00
無休
≫ レピュブリック広場に面したモン・ココは、カクテルも食事も高レベル。
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<その2>モン・ココでカクテルも食事も!
近頃は、広場に面して新しくできるレストランというのも、なかなか侮れない。レピュブリック広場に面してオープンしたMon Coco(モン・ココ)も、そのひとつに数えられる。250席という広さ! 1階はレンガと植物がニューヨークのブラッスリーを思わせる都会的な空間で、2階は英国のクラブ風にまとめられたカクテル・バーだ。内装を担当したのは、パレ・ロワイヤルのカフェ・ヌムールを素敵に変身させたデザイナーの、ミカエル・マラペール。温かみのあるクラシックな素材に、レピュブリック広場やパリにインスパイアされたタッチをプラスした。
レピュブリック広場に面した400平米のブラッスリー。
パリのクラシックなブラッスリーというより、レンガ使いの内装はニューヨークっぽい。
早起きアーリーバードのお腹も、宵っ張りのお腹も満たしてくれるモン・ココ。そしてランチタイムを逃してしまい半端な時間に食事をしたいときの、強力な味方でもある。夕方、ビールを飲んで寛ぐ仲間たちの隣の席では、買い物帰りの女の子がタルティーヌを頬張っていたり。食事のメニューはステーキ、サーモン、シーザーサラダ、チーズバーガーといったクラシックな料理に、マグロのたたきや栗ときのこのリゾットといった、いまのパリの流行りをミックスした二段構えで、大勢のニーズを満足させる。ホットチョコレート“フォレ・ノワール”や紅茶のオリジナル・クリエーションというのも見逃せない。
朝、ホテルを抜け出して、モン・ココで朝食? 何時でも食事ができる店だが、12〜15時は前菜+本日のおすすめ(肉か魚かベジタリアン)+デザートで18.5ユーロというセットメニューがある。
ドラクロワの絵画にインスパイアされた自由がテーマの壁画は、レピュブリック広場へのオマージュ。
テラス席。晴れたら、ここで日曜のブランチ(12時〜15時/26.5ユーロ)をとるのも悪くない。
2階のカクテル・バーは飲み物のセレクションが豊富で、とくにカクテルには力を注いでいる。フランス人デュオのミクソロジーWM.Signatureが担当で、このフロアのために彼らは“オート・クチュール・カクテル”をクリエーション。6種のうち2種はノン・アルコールだから、お酒に強くない人でもこのフロアで快適な時間を過ごせるというわけだ。彼らはクラシックなカクテルをベースにしたクリエーションもしていて、それらは1階席でもオーダーができる。もっともプチ・バーガー、ミートボール、バーベキューソースのクロメスキー(コロッケのこと )といった、充実のつまみ的料理は、“オート・クチュール・カクテル”同様、2階オンリーのお楽しみである。
2階のカクテル・バーは夕方以降の営業。


ゆっくり寛げる肘掛椅子やソファに座り、ホワイト・インター・ウエイ(13ユーロ)といったオート・クチュール・カクテルはいかが?


ビールの泡が特徴のカクテルであるリマ・ドラフト(14ユーロ)や、ノン・アルコールのアップル・ストリート・スモーク・ファッションド(12ユーロ)など、オート・クチュール・カクテルは命名も凝っている。
6, place de la République
75011 Paris
tel:01 47 00 44 10(予約可)
営)7:00(土日8:00)~翌2:00
無休
www.moncoco.paris
≫ 東駅近くのル・ビュフェ・ドゥ・ラ・ガールで、ディナータイムにラクレット。
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<その3>ビュフェ・ドゥ・ラ・ガールでラクレット!
ブラッスリーとは19世紀後半にフランスのアルザス・ロレーヌ地方の出身者が始めた、ビールとシュークルートを提供する庶民的な飲食店。醸造所の意味をもつブラッスリーと名付けられているのはそれゆえで、アルザス・ロレーヌ地方からの列車が到着する東駅周辺がその歴史の出発点である。今も東駅近くで気を吐いているル・ビュフェ・ドゥ・ラ・ガールを紹介しよう。ここはだだっ広い空間に食事客の声やお皿の音が響くといったブラッスリーと違い、こぢんまりとした50席の店内はビストロっぽい雰囲気。でも、気取らずに食事ができることには変わりない。
夏はテラス席が奪い合いとなるル・ビュフェ・ドゥ・ラ・ガール。
ブラッスリーというよりビストロっぽい店内は50席、テラスも50席。
土日&祭日のブランチは、パンケーキやハム類だけでなく卵料理もメニューに含まれ、なかなかのボリューム(11:00〜16:00/20ユーロ)。
ル・ビュフェ・ド・ラ・ガールでは、珍しいことに、目下、ディナータイムにはフランスの冬の風物詩ラクレットが味わえる。自宅で家族や仲間と食卓を囲んで、というわけにはいかない旅行者には、とてもうれしい期間限定料理では? とろとろに溶かされた熱々のチーズ、ジャガイモ、ハム類の盛り合わせのセット……ひとりでもパリの冬をエンジョイ。


ハム類の盛り合わせと茹でジャガイモを熱々のチーズと一緒に。ラクレット(25ユーロ)。野菜のピクルス、蒸した人参、生野菜をセットしたベジタリアン・バーションもある。
70, boulevard de Strasbourg
75010 Paris
tel:01 46 07 36 05
営)8:00(土日10:00)〜翌2:00
無休
réalisation:MARIKO OMURA