パリから小旅行。この初夏はノルマンディを目指す。
Paris 2018.04.17
絵画の世界 、オンフルールのフェルム・サン・シメオンで優雅な滞在。
出発駅はサン・ラザール。ノルマンディ地方でもとりわけ人気のオンフルールを訪ねてみよう。フランスで、パリ、エッフェル塔、モン・サン・ミッシェルに次ぐ人気の観光地だ。オンフルールではロマンティックなホテル、フェルム・サン・シメオンが待っている。このホテルの前身は、1825年にオープンした印象派の画家たちの溜まり場だった宿。19世紀、ウジェーヌ・ブーダンやモネといった画家たちが、ここを定宿にしていた。当時は旅人を乗せた馬車が馬を取り替えるオーベルジュと呼ばれる旅籠で、仕切っていたのは名物女性 “トゥータンおっかあ” だ。宿を囲む自然だけではなく、彼女の安くて美味しい料理も画家たちには魅力だったらしい。しかし、1865年に宿のオーナーが変わり、おっかあは去り、そして画家たちも姿を消して……という、オンフルールの歴史的名所である。
5つ星のフェルム・サン・シメオン。写真は本館。オンフルールへ行くには、ル・アーヴルあるいはリジューで下車する。ここからオンフルールへはタクシーで。フェルム・サン・シメオンに予約の際、車の手配を頼むことができる。
ホテルは1980年代からの現在のオーナーの手によって、フェルム(農園)という名前の起源を尊重した、温もりと豊かさの感じられる場所に生まれ変わった。といっても、設備は現代的なので、バスルームは機能的だし、インターネット接続も問題なし。
大きな室内プールを備えたスパ、ホテルのダイニング・レストラン、別棟のビストロ、花咲き乱れる広々とした庭、野菜畑……敷地内を出ることなく、たくさんの楽しみが待っているので、食べて、眠ってというだけの慌ただしい滞在では、ちょっともったいない。
庭の向こうに広がるのは、セーヌ河! 下流ともなると、まるで海のよう。心を穏やかにする水のある景色を前に、庭でのんびりできる。


敷地内の野菜畑。ポタジェ(野菜畑)のもじりで、ポット・アジェ(年寄りの仲間たち)と命名されているのがご愛嬌だ。
春から秋まで花が咲き乱れる庭。
客室は本館、その延長の館、そしてスパのある建物に分かれ、合計34室。5つのカテゴリーがある。内装はオーナー夫人の手によるもので、フラマンの家具、ピエール・フレイやブサックといった老舗のカーテンが選ばれ、パリ人の別宅といった感じだ。どの部屋もゆったりとした作りで、部屋によっては海かと見間違う広がりを持つセーヌ川が窓から眺められる。印象派の画家たちを魅了したノルマンディの空の変化をベッドに横たわって目で追いかけるだけの、ぼーっとした時間もストレスゼロで悪くない。


インテリアは部屋によって異なる。パーソナライゼーションによるリュクスな滞在を提案。
大理石のバスルームはとても清潔で機能的。アメニティはエルメスだ。


別館のテラスからも、セーヌ河の眺めが。こんな景色とチャーミングな客室用スリッパがあれば、部屋でついゴロゴロとしてしまいそう。
部屋での時間もさることながら、このホテルでは本館1階のバー・スペースで寛ぐのもお勧めだ。ノルマンディにいるのだから、シードル、あるいはカルヴァドスを片手に! 太陽に恵まれた日は、そんな時間をセーヌ川に面して庭に並べられたデッキチェアで過ごすのも悪くないのでは? 夕方になったら、カルヴァドスをベースにしたカクテルをアペリティフに頼んでみよう。
バー・カウンターを備えた1階のサロン。


サロンの奥にグループが集えるスペースがある。その昔貧しい画家たちが扉などに絵を残した伝統を再現。
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伝説のシェフが提案する、洗練の味わい。
フェルム・サン・シメオンには、宿泊客以外にも開かれているレストランが2つ。ホテル内のガストロノミー・レストランは、現在活躍するフランス料理のシェフたちが師と仰ぐジャック・マキシマンが昨年からメニューをコラボレーション。80年代の大スターであるマキシマンの名の輝きは今も衰えず、彼の名前に引かれて食事にやってくる客も少なくないとか。南仏のレストランで海の幸を扱い慣れていた彼。今度はノルマンディの海の幸を相手に、料理をクリエイト!というわけだ。
サロンと同じくノルマンディ的な雰囲気にあふれるレストラン。ランチは12時〜13時30分(L.O.)、ディナーは19時〜20時30分(L.O.)。
右が伝説のシェフ、ジャック・マキシマン。左はエグゼクティブ・シェフのセバスチャン・フラモン。
ガストロノミー・レストランはエレガントで洗練された料理を提案する。アラカルトだけでなく、3種のコースメニューあり。ランチタイムのセットメニューは55ユーロ。
このレストランで宿泊客は朝食をとるのだが、トゥルグルやマラン・ソーセージ、キャラメル・シードル・ソースのパンケーキ(これはオーダーして熱々を食す!)などノルマンディの名物も用意されたビュッフェはとても充実。あれもこれもと味わってみたくなること間違いなし。
朝食のホームメイド・ビュッフェ。


トゥルグルはノルマンディ風リ・オ・レ。朝の明るいレストランでは、食が進む!
もうひとつはビストロのラ・ブーカンヌ。ノルマンディの典型的建築の藁葺き屋根の一軒家の中にある。ノンストップで営業していて、何時でも食事ができるというのは旅の身にはありがたい存在ではないだろうか。


本館からスパへと向かう道の途中にあるビストロのラ・ブーカンヌ。かつてモネもこの建物を描いたそうだ。営業はノンストップで12時30分〜21時30分。


クラシックとモダンをうまく組み合わせた内装のビストロだ。


炭火焼きの魚介、野菜を始め、新鮮な素材をシンプルに料理。
ノルマンディー地方の美味が大集合のデザートは、塩キャラメルバターのスフレ。カルヴァドスのシャーベットとりんごのコンフィが添えられる。
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リンゴを使ったユニークなスパメニュー。
滋養豊かな土地ゆえ、美味しい食材がふんだんなノルマンディ地方。魚介、野菜、肉、果実、乳製品……食べたい、でも太りたくないというジレンマを解消してくれるのは、スパだ! フェルム・サン・シメオンにはかつてのりんごの圧搾場のイメージで今に再現した別棟があり、ここは上階が客室、地下が宿泊客のためのスパとなっている。スキンケア、ボディケアに使われているのは世界のエッセンシャル・オイルを扱う会社による、クレ・デ・シャンというスパ専用のブランド。春夏はフランボワーズやヒナゲシをベースにした爽やかなクリーム類、秋冬はリッチに栗とかぼちゃ……と2種のケア商品を、肌の必要に応じて四季で使い分けている。
フェルム・サン・シメオンだけのオリジナルメニュー、それはリンゴのパワーで若々しい肌を!というアップル・ケアだ。ゴマージュから、リンゴを使ったマッサージまで4種のプログラムが用意されている。スパは朝8時30分から夜8時まで開かれているので、大きな室内プール、ジャクジー、サウナなど存分に活用したい。
7月31日までデトックス&ビアンエートルのウィークエンド・バックを実施中(祭日を除く)。3食付き2名で2,120ユーロ〜。


リンゴのケアも温水プールも、スパは宿泊客オンリーなので混み合うことがないのがうれしい。
20, Route de Adolphe-Marais
14600 Honfleur
https://fermesaintsimeon.fr
contact@fermesaintsimeon.fr
≫ のどかな雰囲気に寛ぐ、オーベルジュ・ドゥ・ラ・スルスの滞在。
散策が楽しい、小さな港町オンフルール。
旧港のあるオンフルールの町までは徒歩で10〜15分。途中、ウジェーヌ・ブーダン美術館がある。19世紀後半の他の画家に比べるとやや知名度が低いけれど、マネが屋外で絵を描くようになったのは、早い時期から戸外で作品制作をしていたブーダンの影響なのだ。ブーダンは印象派の先駆け、と形容される画家である。街中では作曲家エリック・サティの生家が見学できる。もっとも特に名所観光をせず、可愛らしいブティックやお菓子屋さんのウインドウを覗いたり、古い木組みの家が並ぶ小道を散歩するだけでも心が浮き立つのがオンフルールの魅力である。
réalisation:MARIKO OMURA